第六話:虚空のゆりかご、吸い寄せられる体温1
最高意思決定機関「テトラグラマトン」から放たれた黄金と青の光の船「オリゾン」は、魔の小惑星帯を突き抜け、ついに第三惑星・地球の軌道へと滑り込んだ。
しかし、その舳先から見下ろした光景に、見習い女神のシャンテは言葉を失い、その場に立ちすくんだ。
彼女が夢見ていた「可愛い動物や色鮮やかな花々が咲き乱れる、綺麗なお庭のような楽園(エデンの園)」の面影など、そこには欠片も存在しなかった。
眼下に広がっていたのは、まだ時間も個の境界線も持たない「大いなる宇宙の平穏の海」から、コップで一滴の水が汲み上げられるようにして、ようやく「肉体」という物質の形をとり始めたばかりの、混沌と沸騰の原始地球の姿であった。
「これが……私の創る地球? お花を植える土どころか、足をつける場所さえないじゃない……!」
地表には硬い地面など一坪もなかった。
粘り気のある、どろどろとした暗赤色の溶岩の海が、巨大な生き物の皮膚のように地を這い回り、波打っている。
マグマの表面が宇宙の冷気に触れてわずかに冷えると、引き裂かれた火傷の痕のように黒い岩の膜(原始の地殻)が浮かび上がるが、内側から噴き出す凄まじい熱圧によって、すぐにメキメキと音を立てて引き裂かれ、再び眩しい黄金の流液が噴き出す。
あちこちで、ガソリンが爆発したかのような巨大なマグマの水泡が「ボコッ……バシャァン!」と不気味な音を立てて弾け、周囲の空間に無数の火の粉と高熱の飛沫を撒き散らしていた。
青さの欠片もない空は、地底から噴き出す硫黄や二酸化炭素の重苦しい「漆黒のガス雲」が何層にも重なり、圧倒的な重圧となって地表を押し潰そうとしている。
気温は数百数千度。気圧はあまりにも高く、空間そのものが濁って歪んでいた。
音の世界はまさに、生まれたての星の凄まじい産声だった。
地底の奥深くから地鳴りが「ゴゴゴゴゴゴ……」と絶え間なく鳴り響き、黒い雲の隙間からは、全長数十キロに及ぶ紫色の「原始の稲妻」が間断なく、音を置き去りにして地表へ激突する。
そのたびに、鼓膜を激しく揺さぶる大音響が、熱い大気の中で四方八方へと反響し続けていた。
しかし、シャンテが何よりも恐怖し、胸を締め付けられたのは、その灼熱の地獄の光景そのものではなかった。
そのドロドロと沸騰するマグマの熱気と、激しい静電気の嵐の狭間に、あり得ない「陽炎(蜃気楼)」が大氾濫を起こしていたのだ。
それは、先ほど通り過ぎた火星と木星の狭間で砕け散った、あの「惑星オルテリウス」の民たちの、生々しい電気信号の残響だった。




