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背徳聖女と呼ばれても、皇子妃はお断りです〜聖の力で癒し、魔の力で魔獣を討ちます!  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード125 違うところばかり探していた

 まさか、皇帝陛下がこの場にいらっしゃるなんて……。

 お会いするのは、デビュタントの時にお声をかけて頂いて以来だ。


 こうしてみると、陛下の蜂蜜のような金の髪色はギルベアト殿下とロイにも受け継がれている。


 やっぱりわたしの知るロイが、第二皇子ロイヴァン殿下——その人なのだ。


 やっとロイに会うことができたのに——。

 喜びも束の間に、ロイの身元や皇后の罪が暴かれた。

 一度に色んなことが起こりすぎて、思考が追いつかない。


 それでも……とうとう、答えを出さなければならない時がきたのだということはわかる。

 ロイと話をして——。

 今度こそ自分の気持ちに正面から向き合わないと。


 だけど、考えれば考えるほど気が重くなる。

 重圧が肩にのしかかってくる……。

 いっそ、このまま時魔術に囚われたままの方が気が楽かもしれない——そう思った。

 

「へ、陛下……。——なぜこのような所へ?」


 皇后は、現実を受け入れられないというように狼狽えてよろめいた。

 ギルベアト殿下が彼女を支える。


 そんな中、アンネローゼ聖女が進み出てきて、父である皇帝陛下にカーテシーで礼をとった。


 陛下は重々しい声で告げた。

「これから皇后の罪が暴かれるだろう。

ギルベアトとアンネローゼには、辛い現実に向き合ってもらうことになる」


「父上……、いえ陛下も——ロイヴァンの言うように、母上が罪を犯したと——?」


 まだ現実を受け入れられず、父に確認するギルベアト殿下と対象的に、アンネローゼ聖女はどこか悟ったような表情で黙り込んでいた。


 陛下は問いかけるギルベアト殿下に頷いた。

「そうだ……」


「……しかし、ロイヴァンの母君、リゼッタ妃が亡くなった時、母上は南の温泉保養地に出かけていたのですよ? どうやって妃を害することができたというのです?」

 青褪めた皇后の肩を支えながら、ギルベアト殿下は反論した。


「不審死ではありましたが、医師による死因審問も開かれたのでしょう? 結果——毒の症状など、他殺が疑われる所見は認められなかった」

 ギルベアトの声は、周囲に訴えるというより、自分自身を納得させようとする独白のようだった。


「……毒魔術だったのです」

 ロイヴァンが呟いた。


「毒魔術……? いや、まさか——」

 ギルベアト殿下はそう口にしながらも、つい最近それによって意識を失っていたわたしやクラウス卿のことを思い返しているのだろう。


「二年前のあの日、僕は母上と二人でお茶をしていました。突然全身に激痛が走り、倒れ込んだ——その時の母との会話が今生での最後になるとも知らなかった」

 ロイの顔に深い翳りが差した。

 その時のことを、思い出しただけで辛くなるのだろう。


 それでも話を続けた。

「……イリーナ嬢に罪を洗いざらい吐かせた時、彼女は毒魔術を彼女の母——セザビアから学んだことを認めた」


 そこまでは知っている。それで継母は捕縛されることになったのだから。

 だけど……精神干渉魔術でイリーナにそれを白状させたのはクラウス卿のはずだ。


「それでバロンテルでセザビア夫人に面会し、夫人に自白させたんです。

誰から毒魔術を会得したのか——話してくれましたよ」


「よくもそんな虚言を——! いい加減なことを口にするのはおやめなさい。

第一、あなたはバロンテルに収監された彼女に会いに来たことはなかったでしょう?」


 追い詰められても、なんとか言い逃れようとする皇后が口を挟んだ。


 ロイが皮肉げな笑みを浮かべた。

「どうして僕がバロンテルのセザビアに会いに行っていないと思うのですか?

見張らせてでもいたかのように……」


 ロイがセザビアに面会した? 

 ——彼も精神干渉魔術を使えるの?

 頭が混乱して真っ白になった。


 皇后はロイの主張に決まり悪げに言い淀んだ。

「——まさか……」


 ——ロイの行動が誰かの行動と重なって見えるのは、わたしがおかしいのだろうか?


「それともセザビアに面会に行かれた時に、面会記録簿をご覧になったのですか?」


「——妾がセザビアのような罪人にわざわざ会いに行く理由はないわ」


「——おや、そうですか? 昔あなたに仕えていた侍女なので、少しは気にかけていたかと思いましたが……」


 頭と心の中に空白ができたようだ——。

 まるで、足元がさらさらと音もなく崩れていくよう……。


 どういうこと? セザビアに面会した後、姿を消したクラウス卿——。

 入れ替わるように、現れたロイ——。

 この二人はどこかで……繋がっている——?


「本当なら僕はあの時、毒魔術で死んでいたでしょう。

禁術だけあって、強く恐ろしい術だから。

しかし僕は守護の力を秘めた物を身につけていた」


 彼がそっと胸元から取り出して見せたのは、わたしがかつて彼に渡した十二芒星のペンダントだった。

 彼の無事を祈って、何層にも守護の力を重ねた、あの——。


「だから、即死には至らなかった。

意識を失った僕の——毒に侵されたマナを、母は朦朧としながらも自分の身体に吸収した——」


 話しながら、ロイの声は途切れ、掠れた。

 肩は堪えきれずに震えていて、哀しみに打ちひしがれた過去を想像させた。


 ロイが語る苦しみに満ちた経験。

 ——それと全く同じ経験をした人を、わたしは知っている……。


 彼は自分の身体には耐性がついていると言い、ロイの母君のように、わたしの毒を自分の身体に吸収し、苦しんでいた……。


 ——そのクラウス卿の姿がロイの姿に重なって見えた——。


 顔貌、声、口調——何もかもかけ離れていると思っていた。


 でもふとした時に見せる優しさ、頼もしさ……。

 似ているところの方が、多かったのでは……?


 重ねてはいけない二人だと思っていた。

 だから……今まで違うところばかり——探した。

 二人の差異だけに目を向けてきた。


 認識阻害魔術——。

 思えばそれをわたしに教え、ジェマとして生きる道を提示してくれたのもロイだった……。


 魔術競技祭でロイがテオ副団長を装って顔を変えた時——見抜いたわたしに、どこで違いに気付いたのか——熱心に聴き取っていた。


 ——その時はまだ、クラウスとして仮初に生きる未来を、彼自身さえ知らなかったのだろうけど……。


 心臓が動きを止めたような気がした。

 


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