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背徳聖女と呼ばれても、皇子妃はお断りです〜聖の力で癒し、魔の力で魔獣を討ちます!  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード126 触らないで

「それは……リゼッタ妃のことは気の毒だったけど、あなただけでも助かってよかったわね」


 皇后がそう言うと、ロイは目を細めて凄むように彼女を見て言った。


「あなたはセザビアに会うためにバロンテルを訪れていないと言いましたね?」

「ええ、そうよ」


「おかしいですね……。あなたが彼女に会ったという裏はとれているんですよ」


 ロイの言葉に、皇后はびくりと肩をこわばらせた。


「取り巻きのリズモンド伯爵夫人の侍女として身をやつしてバロンテルを訪れていますね? 

面会記録簿の中からあなたに繋がる者の名を探すのは——さほど労を要しませんでしたよ」


「それは皇后である妾が訪問するとなると、警備や形式が大掛かりになるから、身分を伏せたのよ」


「リズモンド伯爵夫人も、あなたにそう言われて従ったと言っていましたよ」


「だったら……それが全てよ。別におかしくはないでしょう? 一応昔世話になった侍女に会いに行っただけのこと」


「それなら、なぜ今もセザビア夫人に会ったことを隠したのですか?」


「それは——罪人に情を残していてわざわざ会いに行ったことなど、皇后としての威厳を損なうと思っただけよ」


「……そうですか。では、同じくあなたの侍女を務めていたデズモンド子爵未亡人——ルイーザにも情を感じておられましたか?」


 ロイが口にしたその名を聞いた皇后の顔に、一瞬怯えが走ったように見えた。


「——なぜ、その名前が今出されるのかわからないけれど……そうね」


「彼女は他国に再婚相手を見つけて嫁いだ、と周りには話していましたよね?」


 皇后の額に汗が滲み、必死に何を口にするべきか考えているようだった。

「……彼女から聞いた通りに、周りにも伝えたわ」


「では同じ頃、実家の男爵家で彼女の妹が強盗に襲われて亡くなったのはご存知でしたか?」


「……さあ、どうだったかしら?」


「妹の髪の根元は緑に染まっていたらしいです」


「——まあ、なんということ。髪が緑に染まるのは毒魔術を使った代償だと聞いたわ! ではそのルイーザの妹がリゼッタ妃を殺した犯人だったのね!」


 皇后の身振りも声の調子も、大仰過ぎて、芝居のようにも見えた。


 ギルベアト殿下は、皇后に肩を貸しながら黙ってロイの話に耳を傾けている。


「僕はルイーザの居場所を探りましたが、どうしても見つからず、もうこの世では彼女に会って話を聞くことは叶わないと思っていました」


「……どういうことかしら? 隣国で再婚して幸せに暮らしているはずでは?」

 そう問いかける皇后の声は、微かに震えていた。


 二年前に毒魔術をかけられたのはロイとリゼッタ妃の二人。つまり——禁術を使ったのも二人ということになる。

 それがルイーザと彼女の妹だった可能性は高い。


「セザビア夫人はルイーザから全ての話を聞いたと言っていました」


「——ルイーザからですって? あり得ないわ……そんなこと——嘘よ」


「ルイーザは妹と同じように口封じされることを恐れていた。

だから消息を絶つ前に、共にあなたの侍女をしていたことのあるセザビア夫人に相談していた」


 皇后が無言でドレスの布地をぎゅっと掴んだのが視界に入った。


「セザビア夫人が毒魔術という禁術を知ったのは

——あなたがこのランズベリーエ帝国に嫁いできて、まもなくのことでした。

贅沢を好み、下の者を不当に扱うあなたの振る舞いを嗜めていた侍女長が、急死しました」


 皇后は眉間に険しい皺を刻んだまま、ロイの話を聞いていた。


「その頃、あなたに寵愛された侍女がいました。コンスタンス男爵令嬢です。

彼女は皇后の紹介で他国に嫁ぐことになった——そう言って姿を消す前に、髪の根元を見せた。

そしてあなたに従って禁術で侍女長を殺めたこと、その方法まで——話してくれたそうです。

その後、コンスタンスとの連絡は途絶えたそうですが——」


「——いい加減なことを言わないで! セザビアはもうこの世にいないのよ。あなたが彼女に話を聞いたというだけで証拠になるとでも?」


 皇后がくってかかるようにそう言ったけど、ロイが怯むことはなかった。


「トルエンデ公爵邸に聴取に来た帝国監察局の随員に、僕を狙う刺客を潜ませましたよね?」


「何を言うの……? あなたが生きていることも知らなかったのよ。知っていたとしても、そんなことするわけないでしょう?」 


「セザビアと面会して、何か重要なことを聞き出したのではないかと疑ったんですよね?」


「……最後にセザビアに面会したのは、あなたじゃなくて——辺境伯の子息だと聞いていたけれど?」


 皇后の発言を聞いて、ロイはわざと注目を集めるように、両手を天に差し伸べるように上げてみせた。


 ——次の瞬間……。

 ——彼の髪色が金から黒に変わる。

 頬は少し張り気味に、眉は濃く……。

 精巧な顔貌に野性味が加わり、より精悍な印象になる。


 衆目の中、姿を変えた彼は少し気取ってボウ・アンド・スクレープをしてみせた。

 それは——わたしがよく知る人物。

 クラウス卿だった。


「私が、その——クラウス・フォン・チェシアレンです」


 静寂さのあまり、しばらく周りの観衆のことを忘れていたけれど、この瞬間、聖儀の間にどよめきが走った。


「まさか……ロイヴァン殿下があのクラウス卿だったとは」

「ご存命だったことにも驚いたが……彼の武勇、魔力量——知らぬ者はいないぞ」


 周囲の興奮の渦の中、皇后は呆然としたギルベアト殿下から身体を離した。

 数歩クラウス卿に近付いて彼を指差す。


「クラウス卿というのは……あなたのことだったというの? ロイヴァン——」


「ええ、あなたがクラウスに刺客を放ったことを知ったのは、皇帝陛下の手の者から知らせがあったからです。それですぐに身を隠しました」


 ギルベアト殿下も目を見開き、まじまじとクラウス卿を見つめていた。


 ——酷い人……。

 あれだけ近くにずっと一緒にいたのに、正体を明かさず、わたしを偽っていた……。


 あなたが無事でいてくれて安堵した。

 もちろん喜ぶ気持ちは大きい。

 だけど……。


 きっと辺境にいる時から——思い悩むわたしの気持ちに気付いていたはず……。

 それなのに——。


 見て見ぬ振りをしていたの……?

 それどころか、思わせぶりな言葉を、何度も口にした。


 わたしの心の中に常に燻っていた罪悪感。

 ロイを想いながら、同時にクラウス卿へ惹かれていく自分に、嫌気がさしていた。

 裏切られた哀しみ——。

 痛みが胸の奥で黒い澱のように広がり、怒りへ変わっていくようだった。


 その時、時魔術が解け、身体が床に崩れ落ちた。


「ジュディー!」


 駆け寄った彼の手を強く跳ね除ける。


「——触らないで」


 瞬間、凍りついたロイの顔——。

 深く傷付いた眼差し——。


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