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背徳聖女と呼ばれても、皇子妃はお断りです〜聖の力で癒し、魔の力で魔獣を討ちます!  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード120 消えた彼、諦めない皇子

「どういうことなんですか?」

「バロンテルの面会記録簿に、セザビア様への最後の面会者として記入されていたのがクラウス卿の署名だったそうです」


「どうしてクラウス卿がセザビアと面会なんて……?」

「さあ……」


「クラウス卿はお父様とイリーナにも会ったんですか?」

「いいえ、セザビア様だけにお会いになったようですよ」


 もともと帝都には何か用事があったとは聞いたけれど、まさかそれが継母との面会だったということなのだろうか?


「今、彼は……どこに?」

「それが——姿が見当たらないのです。バロンテルからの使者は、帝国監察局の者達と共に来ました。

彼らはクラウス卿から事情を聴取するために、連れ帰るつもりだったようなのですが……」


「彼に割り当てられた部屋には?」

「荷物も残されていませんでした」


「そんな……」

 

 ほんのついさっきまでは、この屋敷に、この部屋に彼がいたのに……。

 自分から身を隠したというのだろうか?

 ——何もなかったとしたら、疑いを招くような真似を——どうして……?


 混乱した頭で必死に現状を理解しようとする。

 

「彼は……どうなるんでしょう?」

「このまま見つからなければ、公開捜査の末、身柄を拘束されることになるでしょう」


 クラウス卿がどうしてセザビアに会ったのかはわからないけど、殺すなんて——そんな愚かなことをするような人じゃない。


「お祖父様とお祖母様はどうしているの?」

「帝国監察局の者達と話をされていましたよ」


 クラウス卿のアリバイについて聞かれたのかもしれない。

 今回の団長との醜聞作りの本番には、あの二人がその場にいない方がいいだろうというテオ副団長の判断で、お膳立てには協力してもらったけれど、詳細は伏せていた。


 今となって、それは正解だったと思う。

 わたしが侮辱される場面でお祖父様達が黙っていられるわけがない。


「殿下はどうされているんですか?」

「明日の昼にはこちらをお立ちになるそうで、その前にジュディリスに会いたいとのことでしたよ」


「——わかりました。お会いしてみます」


 殿下が冷静になって、わたしのことを見捨てる気になってくれたかどうか確認しておきたい。


 自室に戻った後も、クラウス卿の行方が気に掛かり、彼の無事を祈った。

 結局、あれが芝居だったということも伝えられないままに会えなくなるなんて……。


 今夜は色々な出来事があって、眠れそうにない。

 枕にポスっと拳をぶつけた。


 翌朝、殿下に会う身支度のためにメイドのフレアとラナを呼んだ。


 ラヴォイエール家を解雇されたフレアは裁縫店で働いていたけれど、あの孤独な屋敷でも唯一本音を漏らせる相手だったこと、これからは身の回りの世話をしてもらいたいことを伝えると快く引き受けてくれたのだ。


 二人が衣装と髪を整えてくれて、マノンと共に殿下が泊まっている部屋に向かった。


 部屋の前に立っていた護衛に声をかけて中へ通された。


「昨夜は言葉が過ぎたようだ。すまなかった」

「——いえ、こちらこそ……お見苦しいところをお見せしました」


「…………茶を淹れさせよう。かけて」

「はい」

 殿下向かいの椅子に腰を下ろした。


「——あの男……アレン団長を好いているのか?」

「昨夜も言った通りで、わたしは男の人なしではいられない性分なのです。でも、もしそうでなくても——添い遂げるなら心に決めた人がいますから」


 殿下は深い溜め息を吐いた。

 寝不足を思わせる目の下のクマが、彼も一晩寝られずに考え事をしていたのかも、と思わせた。


「考えてみたが……昨夜のことは——いや、よそう。君が認めるはずもない」

 最後は呟くようにそう言って、殿下は頭を振った。


「だが……僕はそれでも君を諦めるつもりはない」

「…………」


 それでは困るのに……。

 ——なんのために自分の評判を貶めてまで……。


「どうしてそこまで……? 聖力や魔力をお望みなら、できるだけのことはさせてもらいます。

婚姻は——わたしが選んだ人としたいんです」


 殿下はわたしの眼差しを避けるように目を伏せた。


「僕は、君のことが好きだ。

魔術競技祭で初めて会った時から気になっていた。

だが……君は消息を絶ち——ジェマとしてまた僕の目の前に現れた。運命だと思ったし、君以外の人は妃として考えられないと思った」


 ——ラヴォイエール邸にいた時からそんな風に思われていたとは知らなかった。


「誰かにとっては運命と思えても、誰かにとってはそう思えないこともあるでしょう?」


 残酷なことを言っているとはわかっていても、わたしの気持ちをどうしても理解してもらいたかった。


「拒まれていても——君を手に入れたい。それが正直な気持ちだ」


「わたしには好きな人がいるんです」

「だけど、揺れているんだろう?」


 心臓がどきりと音を立てた。

 ——見透かされている。


「素性のしれない恋人と——彼、クラウス卿とで」


 罪悪感が胸を締め付ける。二人の男性の間でいまだに揺れるこの気持ち——。

 だからこの想いを軽く見積られる……。

 ——わかっているのに。

 反論できないから……つけ込む隙を与えてしまう。


「少なくとも僕の気持ちは君だけに定まっている。

君の気持ちはいまだに定まっていない。

そうだろ……?」


 悔しさに唇を噛み締める。

 定まらないからといって、決して軽い気持ちなんかじゃないのに……。

 

 そんなわたしを見て、殿下は軽く肩を竦めた。


「答えも出せないうちに、僕を拒めるとは思わないことだ」

「あなたを選ぶつもりはありません」


 食い下がるように、そう言ったわたしを正面から見つめた殿下は哀しげに微笑んだ。


「それでも……だ」


 殿下の瞳がいつになくせつなげで、胸がざわめいた。

 ——ああ、この人は何をしても諦めてくれることはないのかもしれない……。


「わたしの選択肢は変わりません」

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