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背徳聖女と呼ばれても、皇子妃はお断りです〜聖の力で癒し、魔の力で魔獣を討ちます!  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード115 彼から見たわたし

「紹介してくれよ、クラウス」


 よほど気安い仲なのか、彼はクラウス卿の肩に手を回した。焦茶の癖っ毛に、同じ色の瞳をした青年だ。


 もとが人懐っこそうな人柄に見えるだけに、そんな人に警戒心を抱かれていると思うと、やっぱりいい気分ではいられない。


「こちらは、エドワルド・フォン・クレリヴァン。古くからの——友人だ」


 クラウス卿の紹介に彼は愛想よく挨拶をした。

「はじめまして。俺はこの侯爵家の次男で放蕩息子です。あなたとは一度話してみたいと思ってたんです。——気が合いそうだと思って」


 放蕩息子だから、気が合いそうだ——そんな風にも聞こえて胸が痛んだ。

 愛想笑いをする相手に合わせて、どうにか口角を引き上げて笑みらしいものを浮かべた。


「彼女は、ジュディリス・フォン・ラヴォイエール」

 クラウス卿は名前だけを簡単に紹介してくれた。


 それに対して、エドワルド卿は「以後お見知りおきを」と言うと、にやりと口の片端を上げて、気取った調子でボウ・アンド・スクレープをした。


 わたしも「よろしくお願いします」とカーテシーで返す。


「いやぁ〜、こうして近くでお話しするのは初めてですが、お噂よりもずっとお美しいですね。

あちこちの屋敷に引っ張りだこだと聞いていましたが、数ある招待の中から当屋敷にお越しいただき、ありがとうございます」


 やっぱり含みを持たせた言葉に聞こえる。

 わたしを牽制しつつ、クラウス卿の注意を促しているような……。


「侯爵ご夫妻にはご挨拶させて頂きましたが、こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」


 気付かない振りを装って、微笑みを崩さないように頬に力を入れた。


「それにしても一輪の薔薇のごときお姿に、男どもがまあ、落ち着かない様子ですね」

「それは、お騒がせして申し訳ありません」


 いやいやと大仰に手を振りながらエドワルド卿は言葉を続けた。


「とんでもない。取り立てて目につく余興もない屋敷ですので、うら若い美女に場を盛り上げて頂き、感謝申し上げこそすれ……」


 このやり取りをいつまで続けなければならないんだろう? と考えていたら、クラウス卿がエドワルド卿の話を遮った。


「——さっきから何だ? おかしな含みを持たせた話し方ばかりして。——今夜はもう帰らせてもらう」

 クラウス卿が不快げに眉根を寄せて言った。


 エドワルド卿は驚いたように目を見開いた後、慌てて引き留めるようにクラウス卿の肩に手を置いた。


「おい、嘘だろう……? まだ来たばかりじゃないか。せっかく顔を見れたっていうのに。今夜は泊まっていけよ」


「——だったら態度を改めてくれ」

「…………悪かったよ」


「彼女への態度について言っているんだが?」

「…………その、ジュディリス令嬢。すみません、ご不快でしたか?」


「いえ、……いいんです。大丈夫です」


 エドワルド卿は、本来はどちらかというと毒のない平和主義な人柄のようだ。

 わたしの意図的に作った噂のせいで、逆に申し訳ない……。


 エドワルド卿は気まずげに、気取った口調をやめて話しだした。

「二人が辺境でしばらくの間行動を共にした話は聞いていた。彼女の人柄について、クラウスはよく知っているんだろうな……。

——俺の杞憂だったようだ。少し話しただけでも彼女はしっかりしたお嬢さんだとわかったよ」


 肩を竦めるエドワルド卿に、クラウス卿は鼻を鳴らした。

「——もちろん、しっかりしている。討伐隊でも要として活躍していた」


「そうか……。お前がそう言うなら俺も認識を改めるよ」

 

 エドワルド卿がそう答えたことで、クラウス卿も息を吐いて緊張を解いた。


「久しぶりに会ったんだから今夜は飲もう」

 その誘いにクラウス卿は頷いた。


 二人がスキピー酒を口にする傍らで、わたしは果汁のジュースで喉を潤した。


 エドワルド卿によると、クラウス卿は昔から負けず嫌いで、ひとつのことに夢中になると極めずにいられない性質だそうだ。

 一緒に狩や釣りをすると、いつも自分が勝つまでは帰らなかった——という話を聞いて、自然に笑みが溢れた。


 そして普段は口数の少ないクラウス卿が、わたしのことについて言い及んだ。


「彼女は——男と共に討伐に参加していたから、異性との距離感にうるさい連中には目につく振る舞いがあったのかもしれない……が、そんなのは誤解だ」

「そうだったのか……」


「ああ。彼女の癒しの力に皆がどれだけ救われていたか……。それに攻めに転じた時のジュディーも頼もしいんだ。ネームドに大打撃を与えて四方八方飛び回る」


 エドワルドは苦笑しながら話を聞いていたけれど、彼の話が想像の範疇ではなかったようで、遠い目をして溜め息を吐いた。


 クラウス卿はお酒のせいか徐々に顔が赤くなっていた。

「うちの辺境派遣騎士団員達は口を揃えて言うんだ。彼女だけは怒らせるな、と」


 はて……?

 それではまるで、わたしのことを怖れているようではないか。失礼な……。


「たしかに、刺客を土だるまにしたこともあったし、酔っ払って暴れた者にきつめの灸をすえることもある。仲間を傷つけた魔獣には容赦しない。

だけど彼女は……優しい娘だ。

誰かを救うために、すべてを投げうとうとするほどに」


 珍しく饒舌だと感じていたけれど、クラウス卿はかなり酔ってしまっていて、最後には呂律も怪しくなったので、その夜はこのままクレリヴァン侯爵家に泊まることになった。


 エドワルド卿は別れ際、わたしとアレン団長に言った。

「クラウスとは久しぶりに会えたので、できればもう数日、クラウスをこちらに引き留めたいんです。

明日、彼に確認して使いの者を行かせてもいいですか?」


 きっと二人には積もる話がまだあるのだろう。

 残念だけど、数日後にはトルエンデ邸に滞在してくれるのを楽しみに待っていようと思った。

 



※ボウ・アンド・スクレープは、男性が片足を引いて上体を倒す古風で丁寧なお辞儀です。

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