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第55話 破岩

私立明王院学園、明王軍団。


その名はもはや英雄譚には欠かせない単語になりつつある。


軍団の長は平成の英雄とも、また死神、鬼とも言われる黒間弾。


軍団長補佐は黒間会なき今、日本一の暴力団となった鳳組の組長、鳳大輝。


その他構成員も、黒間弾が直接選抜を行い、厳選したメンバーだ。


強いだけではなく、“明王軍団”という看板を背負っても恥ずかしくない立ち振る舞い。


黒魔弾の白い特攻服以外は、学ランがこの軍団のユニフォームとなっていた為、巷では「黒い災厄」と呼ばれていた。


まぁ説明は置いておいて、そんな明王軍団は今、専用のバスに乗り、秘境を目指していた。


皆集中を高める為、音楽を聴いたり、各々準備をしていて、決して静寂ではなかった。


俺は隣に座っていた、余計に強張っている鳳に話しかけた。


「…なぁ鳳、少しくだらない話を聞いてくれないか。」


鳳は、ハッと我に返り、


「あぁ、聞こう。」


と答えた。


「…俺もお前も、数は違えど…訳があろうと、人を殺した。その重圧なんてのは、計り知れるもんでもなければ、その罪の大きさも、考えられるもんでもない。」


「あぁ、そうだ。結果俺たちはその重圧に耐えきれず、“眼の覚醒”なんてもんに逃げた。この眼の力は、ストレスの逃げ場なんじゃないか、とさえ最近は思うよ。」


すぐに落ち着くことができるあたり、俺はやはりこいつに一目おく。


「…でもさ、どうして人を殺すのはそんなに罪なのだろうか、と考えたんだ。いや、生きていく為に、必要な犠牲はある。動物の肉を食わなければ、野菜を食わなければ死んでしまうとかあるし。でもさ、必要のない犠牲もあるじゃないか、と最近思うんだよ。」


「どういうことだ?」


「例えば、子供は興味本位で動物を殺すし、大人は不快感に襲われて殺虫剤をばら撒く。この差は何なのだろうか、と考えていたのだが、生き物の命が皆平等であるべきならば、彼らに俺たちのような罪の意識が無いのは何故なのだろうか。」


自分でも、言っている意味が朦朧としていた。


けれど、確かにつっかえている問題ではあった。


「…罪の意識は、逃げ場があればそれでいいんだ、と結局俺は思うぞ。子供が興味本位で動物を殺しても、彼らは“小さかったから”と言い訳するだろうし、大人が殺虫剤をばら撒いても、“害虫だから、不快だから”と言い訳する。言霊ではないが、結局そこに逃げ場を作っているんだよ。」


なるほどな。


バカなようで案外賢いこいつが、俺はたまに怖くなる。


「…俺たちも、自分なりに逃げ場を作って、言い訳して、それでもやはり足りない意識が、眼に逃げただけなんだ。でも、それでも構わないんじゃないか。」


「…いや、構わなくはない。殺した方は逃げることができても、殺される側は、今までの人生を否定され、消滅させられるのだ。たまったもんじゃない。償いというわけでもないが、やはり俺は、必要のない……いや、必要のある無しに関係なく、人間はもう少し、自分達が罪人であることを意識し、罪の自覚を持って過ごすべきだ。」


言い終え、俺は視線を鳳の顔から窓の外へ移し、聞こえない声でボソッと呟いた。


「……そうしないと…。俺たちは誰も報われないじゃないか……。」


今の世の中、1人の切実な願いなど、振り絞った声など、その他多数の正義や利益のせいで誰にも届くことはない。


それでも、1人はより声を振り絞ろうと、努力し、我慢し、妥協し、いつの間にかその他多数の側にいる。


声はいつも、忘れ去られる。










降り立った地はまさに山の奥で、そこから10分ほど歩いたところに、“夢幻流道場”と檜に書かれた寺のような施設があった。


弾を先頭に俺たちは並んでいた。


どうするのかは、全て弾に任せていた。


弾自身に、ここで悪夢と決別して欲しかったからだ。


そんなことが出来ないことなんて、本当は分かっていたのに、俺はその事実から目を逸らした。


弾はいきなり木でできた門を蹴破った。


土煙が収まり、視界が開けて、道場の長であろう人物と、その後ろにスキンヘッドの修行生のような人間が俺たちと同じくらいくらいの人数いた。


道場の長は、白髪が肩の辺りまで伸びており、黒い着物を着て、細い体ではあるが実力者であることは、佇まいから伝わった。


神秘的なそのオーラに、きっとこの男以外は声も出なかったのだろう。


「……久しぶりだな、弾。そんな大勢連れて何だ、また弟子入りでもしに来たのか?」


内臓に響く、恐ろしい声だった。


「…道場破りだよ、クソジジイ!」


にやけ顔の弾はそう叫び、動けない俺たちを置いて、師に飛びかかった。


修行生達は微動だにしなかった。


「…こやつらには、お前と儂がサシで勝負できる状況をつくるよう頼んでおる。お前らの軍団が動かなければ、こやつらも動かん。」


「…うっせーよ、師弟対決になるのは初めから分かったわクソジジイ!」


飛びかかった際、弾は特攻服の内側からピックを一本取り出し、老人を刺そうとしていたのだが、老人はうまくそれをいなし、反撃で掌を入れようとしていたが、今度はそれを弾がうまくいなしていた。


「…武器を使う戦闘は教えておらんがな。」


「バァカ、教わったことだけ極めてもテメェに勝てるわけねぇだろ。」


「…目標は達成したか?」


「…今言わなければならないか、それ。」


「今言え。」


2人のオーラは圧倒的で、残虐と神秘がぶつかっているように見えた。


「…目標をなくした。だがあの時同様、俺の望む“この世”を作るには、まだまだ力が足りないよ。」


老人は嬉しそうに、また物憂げに


「…そうか。」


と微笑んだ。


サッと老人は弾と間合いを取った。


そして、右足で地面を蹴ったことを確認した時、弾が一気に奇眼をだし、呼応状態まで持っていった。


「…破岩掌!」


と叫び、勢いを伴った掌底を弾の腹部へ打ち込んだ。


衝撃波が遅れて俺たちを襲い、弾の体は吹っ飛んだが、彼なりに力を振り絞り立ったままの姿勢は崩さなかった。


ガハッ、という声とともに弾の口から血が出たが、気にはしていないようだった。


むしろ。


「…硬い体だ。儂の本気の破岩掌にもそのダメージとは。」


相棒だからわかる。


弾の顔は、まだまだ余裕だと語ってはいるが、あれは、ヤバかったぁ、という安堵だ。


「…次は俺だよ。」


奇眼の呼応状態特有のオーラを全開まで出したまま、弾も同じように


「破岩掌!」


と叫んで老人の腹部へ打ち込もうとした。


が、かつて弾が付けていた仮面を被った男が、それを防いだ。


バチィィィィィィィンンンンン!!!


という、物凄い音がした。


同様、衝撃波が遅れてきた。


「…貴様、物の怪だな。」


老人がつぶやき、戦闘態勢に入ったが、弾が1発、老人の顔を殴りつけ、それを崩した。


「手ェ出してんじゃねぇ、クソジジイ。こいつは……今が殺す時ではないし、殺すのは俺だ。…マジで、…手ェ出してんじゃねぇ、殺すぞ。」


弾の顔は、見たこともない、般若のように恐ろしい顔をして、男を睨みつけていた。


「…怖いよ。」


「…ほざけ。」


その二言は、聞こえないようで、確かに聞こえた。


そこの3人だけ、まるで違う世界で睨み合っているようだった。

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