第37話 ネタばらし
今思い出せば黒歴史だ。
割といろんな意味で。
こんな俺でも、迷う時期はあった。
両親の死、敵の存在。
知っていてほしいのは、俺はまともだったんだ。
人として、まだこの時は。
両親が死んだのは事故だと知った小学3年。
まだ多感な時期なので、受け入れることもできたはずだ。
支えてくれる人はいた。
一果に、その家族に。
なのに俺は復讐の道を…茨の道を選んだ。
理由はあった。
小学3年の、両親の死を知り、ショックを受けていた時に、支えてくれていた存在が、死んだ。
両親に加え、また大切な人を失った。
小学3年生の子供の心を壊すには、十分すぎる案件だ。
引き起こした人間も、予想は出来た。
ただ…本人が、それを望まなかったんだ。
「この話をすれば…少しは貴方も報われるかな…。」
最近になって、心が治ってきているのが分かる。
楽しいと、嬉しいと感じるようになった。
だからこそ、怖い。
貴方はもう一度、俺を闇へ連れて行ってくれるだろうか。
一縷の願いだった。
三十数人は、躊躇いもせずに俺にかかってくる。
俺は眼を出せば面倒か、なんて思ってしまったので、眼は出さずにおいた。
束になってかかってこようが、俺は1人だ。
360度。
そして俺の身長170センチ。
これが奴らのターゲット。
簡単に言えば的なわけだ。
理論では、ここ以外守る部分は無いので、反射的にその部分を防衛すれば勝てる。
それが難しい相手では無いから、この理論は成立する。
スライディングをするものを飛んでかわせば、170センチは190センチまで変わる。
ナンセンス。
右に逸らし、顔を蹴り上げる。
その足の勢いを殺さず、後ろから抱きこもうとくる奴を蹴る。
この調子で、俺は容易く三十数人の不良をなぎ倒した。
分かっていたことだ。
1人だけ、残っている。
例のリーダーだ。
「レジェンドを舐めすぎだろ。俺はまだ青眼すら出していない。」
奴の顔は青ざめている。
「今回は不問にしてやるから、これ、片付けとけ。」
そう言って俺は倒れこむ奴らを見た。
何故こいつらは、あんな頼りないリーダーを信じたのだろう。
いや……人のことは言えないかな。
「あと……。」
片付け作業に入っていたリーダーが、怯えた表情をこちらに向ける。
「次、明王院に関わったら、法治国家に生まれたことは忘れろよ。」
難しい言葉だっただろうか。
彼はこくん、と頷いた。
理解できたか、良かった。
さて、コーヒーでも買うか…。
「よう…。」
!
一切気配を感じなかった。
まずい、と思い慌てて振り返った途端、安堵した。
「気配消してんじゃねぇよ。」
「悪いな。」
鳳だった。
「何してんの?」
「時間つぶし。」
「あいつら、お前を待ってるよ。」
だからだよ。
「まぁ、真希にお土産とかも買っていかないとだしな。」
適当に理由をつけ、とりあえずこいつを追い返したかった。
「なぁ、例の話、あいつらに話しても大丈夫な内容なのか?」
「あぁ、むしろ話したい気分だ。」
無くした気持ちを取り戻したい。
でないとこの後、崩れる自分が怖い。
「そうか、なら良いんだ。」
笑顔になった鳳は、俺を持ち上げ、部屋まで運ぼうとする。
「逃がすわけないよね、なら。面白そうだし。」
嫌ではなかったが、恥ずかしかったので、抵抗はしたが、結局運ばれてしまった。
「さぁ、逃げようとしたぶん、より詳細に教えてもらおうじゃないの。」
嬉しそうに宮村が言う。
若干、一果はキレている。
何故か、九条も同様だった。
俺はため息をし、覚悟を決めて話し始めた。
かつて俺は、ショックを隠しきれず、周りに当たる時期があった。
一果の事は無視していたし、家にも帰らず、真希を1人にもした。
最低だ。
思い出しただけでも嫌悪感で吐きそうになる。
でも、信じられるだろうか?
自分の両親を殺したのは、自分の祖父なのだ。
しかも、原因は自分にある。
おかしくなりそうだった。
涙すら出なかった。
この世に存在させた、父と母を死ぬほど恨んだ。
でもそこに愛があったからこそ、余計に虚しくなった。
2日ほど家を空けた日、俺は何故か山に登ろう、と思った。
きっと今の俺は、何かを見つめるべきだ、と。
だから、俺の住む地域で一番高いと言われる学校の裏山に登った。
今登れば低いのだろうが、あの時の俺はひたすら高く感じた。
頂上で、柵に体を任せ、景色を見ていた。
5分ほどした所で、後ろで声がするのに気が付いた。
「あの…少し、どいてもらえますか?」
中学生だろうか。
地元の中学ではない制服を着ていた。
スケッチ用紙を手にしていたことから、美術部だろうか、と思った。
「……すいません。」
俺はそう言うとその場を離れ、その女の後ろに座った。
すると女は描く手を止め、俺に話しかけてきた。
「…あの…何かあったの?」
優しい声だった。
既に脱力していたとはいえ、俺はその女にやたら素直になれた。
「どうして?」
女は俺の身なりを見て、
「汚れているから……。」
と答えた。
「貴方も元気がなさそうですが。」
皮肉っぽく言った。
お前に話す事情ではない、という意味を孕ませて。
「そう見えますか?」
「えぇ、何かあったんですか?」
「まぁ、そうですね。私は…貴方が話してくれたら話します。」
そう言って女は俺に笑いかけた。
綺麗な笑顔だった。
不覚にも、胸を打たれた。
「俺、両親を殺したんです。いや、俺の手で、という事ではなく、俺の存在が。」
「そうなんですか…。」
事の大きさに、目を丸くしたが、すぐに聞き入ってくれた。
不思議と話しやすく、言葉はスラスラと出てきた。
「妹もいるんです。これから、こいつを守るのは俺だ、なんて思っていた矢先にその事実を告げられて…。もうどうすれば良いか…。」
「手を下した人が憎いですか?」
「えぇ、憎いです。俺はいつかそいつらを殺します。」
「そうなんですか。私も似たようなものです。」
俺は目を丸くして女を見た。
「貴方はまだ愛があるじゃないですか。両親を愛し愛され、妹さんを愛し愛され。でも私は、一族のもの皆から爆弾扱いです。他の一族を潰すために、お前が潰れろ、と。」
その女の諦めたような表情は、妖艶さがあった。
年上の、知的な女性。
今思えばそれだけだったのかも知れない。
だが俺は確かにその時、その女に胸を打たれていた。
生きていると実感していた。
「貴方、名前は?」
「弾。黒間弾。」
この名を聞けば、お前も逃げるだろう。
そう思っていた。
ヤケクソだったから。
しかし、彼女は違った。
俺に微笑みかけ、
「素敵ですね。私は桜庭美波です。美波と呼んでください。」
と答えた。
可憐。
はかなげ。
小学3年の男子の心は既に、鷲掴みにされていた。
あれが憧れだったのか、それとも恋だったのか。
今となっては確かめようもないが、少なくともあの時の俺は、恋だと信じていた。




