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第36話 白銀

「君には今まで同様、政府との契約を継続して全うしてもらう。アレは、真中くんとではなく、政府と交わした契約だからね。」


新たに総理になった波止場は、俺が学校に復帰した日から明王室にやって来た。


「助かります。事後作業も、ありますから…。」


実際、あの契約のおかげで国から多額の報酬がもらえる訳だし、法を無視できるのは、今の俺にはありがたい。


「僕は本気で今の国を良くしたいと思っている。真中のやつが君になんて言ったかは知らないが、はっきり言って僕は一族なんてくだらないと思っている。」


「俺もですよ。」


「彼のように、自己利益の為の依頼はしないが、公的利益のある内容ならいくらそれが酷であっても、君に依頼する。」


目は真剣そのもの。


「えぇ、覚悟はしていることです。」


言い終わった直後、波止場の顔は一気に緩んだ。


「まぁ、そんなに構えなくてもいい。当分は、君の目に入る範囲で風紀を乱す輩がいたら、成敗してくれると助かる。」


「了解です。」


俺はあくまでこいつを信用しない。


いや、誰も信用などしていないのだが。


ふと、鳳の顔が浮かんだ。


それを始まりに、一果や真希の顔が浮かんでくる。


俺は焦ってかき消す。


今の俺には、いや、俺には必要無い感情だ。


「小さい内容だが、数は増えるだろうね。大きい内容の仕事は当分は無いから、今のうちに学生生活を楽しんでくれたまえ。」


「ありがとうございます。」


感じのいい男だな。


裏表のない、父親のような…。


とにかく、また真希からはどやされるか…。







サァァァァァ!


北海道の雪は、雪質が最高だ。


パウダースノー。


知ってはいたが、いざそこを滑ってみると感動するほどの滑らかさだ。


スキーは、小学校に上がる前に一度連れて行って貰ったっきりだったが、やはり俺は凄い。


当然のように、経験者よりうまく滑ってしまうのだからな。


修学旅行2日目。


ホテルからバスで1時間ほど行ったスキー場に俺たちは来ていた。


初心者以外は、コーチ無しで班行動となっている。


自由な学校だ、と思っていたら、観光客の女性をナンパしている金髪の学生数名を見かけ、そうでもないのかと思った。


「貴方、スポーツは出来るのね。脳筋?」


颯爽と横に並んで来た九条が嫌味っぽく言ってきた。


「俺、成績も良いんだけど。」


「あら、この間の実力試験は学年で何位だったのかしら?」


「5位だ。」


ふふっ、と不敵に笑った。


「私は一位よ。当然よね。」


だろうな!


負けてるかもしれない可能性があるなら、初めからこの女は聞かないだろう。


「テメェ、俺の順位知ってたんじゃねえだろう……うわぁ!」


言っている途中で、衝撃にあった。


「イテテテ……、ごめーん、ダァ〜ン…。」


まぁ、スキー服を来て、ドジに転んでいる一果は可愛かったが…。


「お前、なんでそんなに下手くそならコーチについてもらわなかったんだ。」


さっきから何度も転んでるし。


「馬鹿ね貴方。やっぱり貴方は脳筋よ。」


また九条が嫌味っぽく言ってくる。


俺は良い加減こいつを無視して、


「ほらよ。」


と、一果に手を貸してやった。


一果は


「ありがと。」


と恥ずかしがりながら言って立ち上がった。


こいつ、普段怒鳴りつけてる俺に助けられるのが恥ずかしいのか。


相変わらず、可愛いやつだな、なんて思っていた。


「一果ちゃんがこれじゃ、これより上は無理だなぁ。」


と、鳳が言う。


なんだこいつ、猫被りやがって。


これが俺ならサディスティックな顔をして、構わずどんどん上へ行くくせに。


「良いんじゃないかぁ、ここで。なぁ、阿部!」


「おうよ!」


阿部と杉田は、美人の観光客を見て、ナンパの準備をしている。


「あんたはナンパとかしないの?」


滑って来た、宮村に聞かれた。


「しねぇよ、俺は恋愛沙汰は嫌いだからな。」


初めて言うが、俺は過去に恋愛にトラウマを抱えている。


まぁ、トラウマと言っても、少女漫画に載っているようなありきたりな話なのだが。


「なんでよ、玄人ぶっちゃって。一果のこと好きなんじゃないの?」


やたらとコソコソ聞いてくる宮村を不思議に思い、つい俺も合わせてしまった。


「そうじゃねぇよ。ただ、ちょっとな…。」


ふと宮村の顔を見ると、目をテンにして驚いていた。


「なんだよ…。」


「どうしたの?宮村さん?」


ほら要らないのが食いついてきた。


「九条さん…私、パンドラの箱を開けちゃったかも…。」


「え、なになに?」


一果まで食いついて来た。


あー……、泥沼だ。


「こいつ、過去になんかあったみたいよ!恋愛沙汰で!」


「あら意外ね。貴方でも妹以外の人間を認知できたいたなんて。」


「もう嫌味はいいよ、九条。」


「これは今日の夜聞かないとな!」


鳳が嬉しそうに言う。


「そうだな!」


と、阿部と杉田は美人を目で追いかけながら揃って言った。


「お前らせめてこっち向いてから言え……。」


「まぁとりあえず、今はとことん滑りましょう。」


九条が珍しくナイスプレーをした。


いや、ほんと珍しいな。


「そうだな!じゃ、こっから一番下まで競争だ!ビリは暴露大会で!」


鳳も乗っかった。


「ちょっと、それ絶対私じゃない!」


そうでも無いかもしれないぞ、と一果を見る。


俺は、美人観察に夢中で今の会話を全く聞いていなかった阿部と杉田を横目で見つつ、滑りだした。


結局、ビリは阿部になった。


一果がゴール直前という辺りで、2人とも気が付いたみたいで、仲良く笑顔で滑って来ていたが、途中宮村の


「負けたら罰ゲームだよぉ!」


という掛け声を聞いた途端、お互いに足も引っ張り合い、僅差で杉田が勝った。


こいつらに暴露大会は安すぎる、という事で、2人の罰ゲームはナンパになった。


これも罰ゲームになっていない気がするが。


実際、阿部は聞いた瞬間近くの美人に声をかけ、速攻フられて帰って来た。


「ギャハハハハハ!!」


と指をさして杉田はバカ笑いしていたが、お前が行っても同じだったろう、と言いたくて笑ってしまった。


リフトで登る時、俺はまた九条の隣になった。


「ねえ、パンドラの箱ってなんの話?」


後で聞くんじゃなかったのかよ…。


「悪いわね、気になることはほっとけないタチでね。」


エスパーかこいつ!


「俺の初恋の話だよ。大して面白い話でも無い。」


「ねぇ、ふと思ったんだけど、そのトラウマが原因で彼女作らないの?」


「それもある。まぁ、俺をきちんと理解もしてないのに軽薄に好きだなんて言ってる奴らは論外だ。」


「そうね、それは同感だわ。」


珍しく、同意してきたが、俺は油断しなかった。


「貴方をきちんと知っていても、好きなんて人はきっと何処かがおかしいのよ。」


構えておいて良かった。


「隅から隅まで、というなら話は別なのかもしれないけど…。」


ポツリと、九条が言った。


「え、もしかしてお前、俺のこと好きなの?」


九条がゴミを見る目で俺を見てくる。


「冗談だよ…。」


「冗談でもやめて。していい事と悪い事、小学校で習わなかったかしら?」


「この範囲の冗談はいい事と教わりましたぁ!」


「間違った教育ね。この国の教育を疑うわ。」


もう勝手にしてくれ……。


いい加減、ほんとこいつの相手は疲れた。


しかも、後ろのリフトで鳳と宮村がゲラゲラ笑っているのも気に入らないし。


この調子で、2日目のスキーは終わった。


あの後は、罰ゲームの種類を増やし、同性にナンパだったり、今日のスキーの間は日本語禁止だったり、まぁ色々やった。


暴露大会に当たったのは、結局俺だけだった。


ホテルに帰ると、すぐ風呂だった。


幸福。


この幸せを2日連続で噛み締められるなんて、俺はきっと今世界で一番幸せだ。


……横で覗きをしているバカが2人もいなければ……。


夕食にカニを食べ、大満足で部屋に帰り、レポートを仕上げると、地獄があるのは分かっていたので、俺はわざとホテルの庭へ出た。


寒いので、コーヒーでも買って、寒空を堪能したら真希に買う土産でも見て時間を潰そう。


そう考えていた。


が、自販機周りでカツアゲされているウチの生徒を見て、予定は狂った。


囲んでいるのは昼間に見た、自由な金髪学生たちだ。


「ねぇ、お兄さん達。そいつらウチの生徒なんだけど。」


高校生だろうか。


しかし、明王院に手を出すなんて、流石だ。


「黒間……!」


囲まれていた生徒2人が、俺の陰に隠れる。


「思ったより早く出てきたね、明王。」


5人のうちの1人が誰かに電話をかけた。


数分後、ぞろぞろとざっと30人ほど同じような不良が出てきた。


「俺たち、明王に一度挑戦してみたかったんだ!明王倒せばレジェンドじゃん?」


「そうかな。てか、こんだけ?人数。」


代表だろうか。


少し2枚目の金髪頭…ジャラジャラした私服。


そいつはチッと舌打ちした。


「イキがってられるのも今のうちだぞ、クソガキ!」


雑魚の言うセリフだな、と思って笑ってしまった。


まったく、波止場はめんどくさい仕事を押し付けたものだ。


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