第35話 順位
つくづく、厄介な人間を好きになってしまったものだ、と思う。
黒間弾。
今でこそ伝説の男だが、昔はよく泣いてたものだ。
しかも鈍感だし、シスコンだし、家事とか何にも出来ないし、寝てばっかりだし。
おまけに私のことを女として見てくれないし。
良いとこなんてない気がする。
でもまぁ、成績は良かったり、スポーツ万能だったり、喧嘩は強かったり、しかも正義のヒーローだったりするから、モテるんだろう。
でも関係ない。
私は今怒っているのだ。
弾。バカ弾。
何で私と一緒の時は寝てばっかりのくせに、九条さんと居る時は起きているのだろうか。
私のことはイベントの時気にかけすらしないくせに、九条さんには世話を焼くのだろうか。
ハァ……。
結論から言うと、いや過程も言ってしまったが、私は完全に嫉妬しているのだ。
分かってはいるが、やはり納得がいくものでもない。
真希ちゃんに愚痴ってみると、
「一果ちゃんも色々苦労してるんだねぇ〜。」
と笑ってきた。
兄妹揃って失礼な奴らだ。
でも、今回のイベント、修学旅行がある。
九条さんと同じとはいえ、班は同じなのだ。
この機会に、あの朴念仁に分からせてやる。
私は決意を固め、駅へ駆け出した。
現在時刻は10時半。
飛行機は予定通り、伊丹空港を離陸し、あと1時間もすれば札幌空港に着く。
機内は貸切とだけあって、これ以上ないほど騒がしかった。
横では鳳がガーガーといびきをかき、その奥では阿部と杉田が乗組員のケツを追いかけている。
馬鹿らしいと思いつつ、この雰囲気に安心してしまった俺は機内放送をヘッドホンの音を最大にして聴きながら、窓から景色を見ていた。
「おい弾、置いてくぞ!」
鳳に肩を叩かれ、俺は寝てしまっていたことに気づいた。
「おう……。」
まぁ、これからまた1時間ほどバス移動なので、寝ておいて良かったかもしれない。
飛行機を降り、俺たちはバスに乗り込んだ。
札幌。
雪が積もって、白景色が広がり、大阪とは別世界のようだった。
「綺麗だ……。」
バスから景色を眺めていた俺は、ついポツリと声に出してしまった。
「あら、意外ね。貴方にも自然を愛でる心があったなんて。」
皮肉っぽく、横に座る九条が呟いた。
「お前の目に俺はどんな風に映ってんだよ…。」
「究極バカ。」
即答しやがった、この女!
「でもまぁ…雪の結晶ほどは良いところもあるのかしらね、多分……きっと。」
褒めるならせめてきちんと褒めて欲しかった。
「お前と話していると気分が悪いので、景色でも見て気分を落ち着かせる!」
捨て台詞のようになってしまった。
「あら奇遇ね、私も気分が悪いわ。吐きそう。」
後ろで、鳳と阿部に杉田がゲラゲラ笑っている。
元はと言えばこいつらのせいなのに!
「あー、それはきっとバス酔いですよ!俺のせいじゃないね!絶対!」
「いいえ違うわ。飛行機には酔わなかったもの。」
「飛行機はなかなか酔わねぇよ!」
つい熱くなって、立ち上がって突っ込んでしまった。
「黒間ぁー、はしゃぐのは分かるが、席を立たない程度になー。」
バスの中で爆笑が起きる。
「見ろ!お前のせいで笑い者だ!」
俺はそう叫んで座った。
座る時、一果と目があった。
何だか、やたらと機嫌が悪そうだ。
そんなに今俺が笑われたのは、あいつの気分を害するような事だったのだろうか。
「なぁ九条。少し相談があるんだが。」
こいつには頼りたくなかったが、分からないなら普段人間観察ばかりしているこの根暗に聞くのが一番だと考え、俺はプライドを捨てた。
「バカを治したいと言うならそれは無理よ。きっと一度生まれ変わっても無理だわ。」
こいつは一度くらい殴っても俺は悪くない気がする。
「そうじゃなくて、一果が最近、やたらと機嫌が悪いんだよ。例の一件のせいではないはずなんだが…。」
「例の一件って、総理のアレかしら?何故そう言い切れるの?」
あれはないだろう。
「だって、あれはちゃんと謝罪して、俺の気持ちも伝えたら、許すって言ってくれたんだ。その後、日常に戻してくれたのもあいつだし、一応俺が初めて学校に行った時までは普通に喋ってくれたから。」
だから、アレじゃないはずだ。
「分かったわ。」
ポンと掌を叩き、九条は閃いた顔をした。
「きっと、愛想が尽きたのよ。だって貴方、あの日も午前はずっと寝ていて、先生の話も聞いていなかったもの。」
違う!
と言いたかったが、もしかしたらそうかもしれないという気持ちが大きくなった。
「にしても、お前やっぱ凄いな。こうやって相談しても、真剣に考えてくれるし、色んな人のことを見ているし。」
だから、スパイかもしれないと疑ってしまう。
言い終わった直後、九条の頰が少し赤いのに気が付いた。
「お前、大丈夫か?顔赤いけど、そんなに気分悪いか?悪かったな、具合が悪い時に話しかけちまって…。」
「きっと彼女が怒っているのは、貴方のそういうところよ。」
と言って九条は顔を通路側に向けた。
「優しい所か?あぁ、誰にでも優しいってことか!」
お前みたいなクソ女にも。
「当たらずも遠からずってとこね。」
え?
冗談で言ったつもりだったのに、もう訳がわからん。
そんな話をしているうちに、とうとうホテルへ着いた。
部屋に荷物を運び、昼食をとると、俺たちは半日、ホテル敷地内で自由行動となった。
皆、夕食まで部屋で過ごしたり、お土産を買ったりしていた。
俺たちのクラスでは、半分に分けて雪合戦が行われた。
1時間ほど雪合戦をすると、雪だるまを作ったり、雪の上でプロレス大会をしたり、まぁそれなりに楽しかった。
ただ、一果と一緒になるタイミングは結局なかった。
夕食後はすぐに風呂の時間だったので、俺たちは部屋の片付けすらせずに風呂へ急いだ。
風呂はとても広く、露天風呂は最高だった。
雪景色を眺めながら、温度差の中にある幸福を噛み締めていたら、何やら阿部と杉田が企んでいるようだったので、声をかけた。
「お前ら、何してんだ。」
「おう弾!ここ、露天風呂は女子風呂と繋がってんだぜ!」
ハァ……。
思わずため息が出た。
まぁ、オチは言わなくても分かるだろう。
結局覗きは失敗に終わり、部屋に戻ってきてから同じ班の女子たちが女子代表として来て、やたらきつく説教していた。
現在、夜の7時半。
消灯は10時半。
約3時間、女子は男子の部屋でくつろいでいると言った。
俺はいい機会だと思い、お互いに部屋の端に座った一果に話しかけた。
「なぁ一果。俺が優しいのはそんなに悪いことか?」
「は?」
「いや、最近おまえ機嫌悪いから、九条に相談したんだよ。そしたら俺が優しいからって言うから…。」
一果の俺を見る目が、とても遠い目をしていた。
「あんた、残念なやつね。」
「違うのか?」
「何で優しいことに私が怒らないといけないのよ。バカ。」
確かに……。
あいつ、嘘教えやがったな!
「クッソ……。一晩考えるから、時間くれ!」
「どうせ答えなんて出ないわよ。」
そう言い放ち、一果は部屋内でのトランプ大会に参加した。
1人は暇なので、それもその回からの大富豪に参加した。
7人でやる大富豪なんて、ナンセンスだと思ったが、あえて言わないでおいた。
その後も神経衰弱、ババ抜き、UNOとして、消灯時間となった。
女子は部屋へ戻り、俺の部屋の男子はクラスの名簿を取り出し、女子のランキングをするなんて言い出した。
俺は
「最下位は九条だ、それはもう確実だ。」
とだけ言って、布団に入り目を閉じた。
何気にトランプ大会であいつが一位だったのも気に食わない。
途中から俺も本気だったのに負けたので、余計だ。
こうして、修学旅行の1日目は終わった。




