第28話 遊戯
突然、どうしようもない後悔に襲われた事はあるだろうか。
俺は今、まさにそれを体感している。
明王代理を務める今、俺は学校の明王室に居た。
そこには、治安に関する事がまぁ近畿内なら電話でかかってくる。
いつもはこの電話を弾が受け取り、現場へ行き、事を終え、政府から報酬をもらう。
しかし今日は俺が受けた。
内容は……
「和歌山県、w市付近、黒間会系黒間組の本部内での、大規模な抗争が起こりました!明王、また明王軍団の諸君には、これの鎮圧にご協力願いたい!繰り返す……、」
弾が動くであろう事は分かっていた。
きっと、今言っているのは弾の事なのだろう。
「了解、すぐに向かいます。」
俺は急いで明王軍団を集め、指揮し、明王院のバスで黒間組の本部へ向かった。
だが俺の心には、自らの死を受け入れた弾が、負けるはずがないという勝手な自信があった。
だから緊張感も無ければ、この事件をどう片付けようかすら考えていた。
いざ着いてみて、俺は度肝を抜かれた。
警察隊は本部に入ろうともせず、本部内はまるで豪快な山火事のように燃え盛っていた。
不吉な予感が頭をよぎる。
俺は明王軍団を率いていることすら忘れ、木製の扉を蹴破って中に入った。
「何だよ……コレ……。」
目の前には、地獄のような景色が広がっていた。
あちこちが燃え盛り、屋敷は半壊し、足元に…友が倒れている。
はっとして前を向くと、黒間組の組長、黒間五歌が立っていた。
「よう…鳳だろ?鳳会の…。お前は本職なんだから、そこのチンピラよりは手応えあるよな…?」
鳳会は京都一のヤクザで、和歌山のような田舎など眼中にも無かった。
そのはずなのに…。
竦んでしまった。
「クッソォー!」
叫び、俺は五歌に殴りかかった。
クナイを手にした俺に、五歌は静かに言った。
「お前、今日ここに何しに来たの?」
「お前を殺しに…分かってたんじゃねぇのかよ。」
「いやいや、ふとね。この人数が目に入らないかな、と思って。」
ずらりと並ぶ大男を見回して五歌は言った。
「粗大ゴミが並んでるだけだろ。」
「そう見えるか?」
そう言って五歌は、指を鳴らした。
大男たちはその合図で、眼の色を変えた。
紫。
五歌の眼と同じものだ。
「呪眼…!真中か!」
「ご名答…繋がってたってのも、お前の予想通りだよ、多分。」
焦りが出てくる。
いくら奇眼があったとしても、この数の呪眼の相手をするのはヤバイかもしれない。
咄嗟に俺も奇眼を出す。
「おぉ…それが奇眼か。成る程いい代物じゃねえか。俺もそれ、欲しいな。」
「ほざけ……。」
そう呟くと、俺は五歌に飛びついた。
しかし、大男に阻まれる。
俺は咄嗟に標的を大男に変え、握っていたクナイを眉間に押し込み、勢いのままに男の頭の上で一回転し、そのまま五歌を目指した。
フリをした。
後ろから、大勢の大男が迫るのを感じ、俺は大きく後ろにバク転し、懐から10本のクナイを取り出し、そいつらの足元へ放った。
大男たちは立ち止まり、一瞬竦んだ。
隙ができた。
俺はこの隙を見逃さず、一気に、20人ほどに、流れるように、クナイで急所を突いていった。
「ハハッ!やるじゃん!」
さらなる大男2人を左右に引き連れた五歌は余裕の表情を浮かべていた。
「舐めてんだろ、テメェ…。」
少し体力を使い、息の荒れた俺は、やはり焦っていたみたいだ。
「そりゃお前だよ」
五歌のその声は耳元で聞こえた。
瞬間移動!!
呪眼で使えるとは思わなかった。
五歌は短剣を俺の真横でフルスイングする。
すぐに避けたが、勿論間に合うはずもなく、剣先は俺の右肩を切り裂いた。
ポタポタと、血が滴る肩を押さえることなく、無表情で見つめる俺を見て、五歌は
「遊ぼうよね…。焦ってばっかじゃ、お前、面白くもないよ?」
確かに焦っていた。
息も整い、多少の刺激で俺も冷静を取り戻した。
「俺がお前で遊んでやるよ。」
そう呟き、俺は五歌の右手に瞬間移動し、クナイをふった。
いった…。
それは確かに俺と同じく、五歌の右肩を傷付ける筈だった。
しかし、五歌は短剣でそれを防ぎ、カウンターを仕掛けて来た。
俺は咄嗟にそれをクナイで受け止め、いなし、ぐらついた五歌の腹部に蹴りを入れた。
蹴りは確かに入り、五歌は噎せていた。
「よぉ…これは流石に返してくるか…。にしても…効くな、この蹴り。これも奇眼のお陰か?」
「よく喋るな…。」
俺はまた瞬間移動し、腹部を押さえる五歌の右横で囁き、今度は背中を刺すつもりで振り上げた。
刹那、静かな鈍痛を腹部に感じる。
「読めたよ……。お前の色んな隙が。」
五歌は俺の腹部を刺した短剣を抜き、スッと立ち上がった。
嘲笑いながら俺を見る瞳は、俺と同じ眼をしていた。
「…奇眼か?……。」
「お揃いだ…。どう?少しは遊んでくれる気になった?」
もう傷口が塞がり始めている事を確認し、俺は
「あぁ、少しくらいは本気で遊んでも壊れなさそうだな。」
と言って、五歌に向かって行った。




