第27話 顔合わせ
天才。
この言葉は死ぬほど嫌いだ。
どれだけ考え、どれだけ足掻いても、追いつけるわけがないと、その行為を笑われている気がして。
昔、人が生まれてくることは…命の誕生は奇跡だと教わった。
なら、逆説的に、人が死ぬのも奇跡なのではないだろうか。
確かに、生まれてくる時ほど、人を笑顔には出来ないけど、命を無くすその瞬間、確かな物語が命と共に生まれるのでは無いだろうか。
ずっと…そう信じてきた。
こんな価値観を持って生きてきた。
だからという訳でもないが……
どうしようもなく、たまに自分を殺して、確かな奇跡をそこに信じたくなる時がある。
俺だけか。
その疑問符は、常に消えない。
和歌山に降り立った俺は、まだ寒い空気に身を震わせ、白い息を吐いた。
大阪から電車で1時間半程で着くこの駅は、まるで別世界だった。
雪が積もり、それでもまだ都会感のある場所、しかしどこかで田舎を匂わせていた。
良い場所だな……。
知らずのうちにそう思ってしまった。
黒間会系黒間組。
俺の祖父が会長を務めていた、黒間会が持つ中で一番大きな組であるこの組は、この街に本部を置いていた。
こののどかで賑やかな街を、戦火で騒がしくする。
罪悪感を感じながら、駅員の居ない改札を抜け、その場所を目指す。
雪に足を取られつつ、歩き続ける。
大阪では、最近噂が立ってしまった。
ーこないだ死んだ、明王…黒間弾、あいつ生きてるらしいぜー
ー黒間弾を見たんだって!嘘じゃねえよー
噂はだんだんと膨張し、もう仮面にマントをした者は死んだ明王の亡霊だ、なんて事になってしまった。
噂は勿論、明王院にも入り、俺は鳳に大目玉を食らった。
「宝条や真希ちゃんを説得するのがどれだけ大変だったか!」
説教をする明王代理は、少し滑稽だった。
今日は急遽買ったマフラーや、大きめのコートでなるべく素顔が分からないようにしてきた。
鼻までマフラーで覆えば、誰も俺が明王だなんて気付かない。
そんなこんなでここまできた。
もう冬、年もあけ、もう三学期が始まろうとしている。
三学期は短い。
本当なら、卒業か……。
少しばかりの後悔と共に、俺はその場所についた。
檜の札には、
「黒間会系 黒間組」
と筆字で書かれていた。
俺はその札の前で深呼吸を一度した後……
札に思い切り蹴りを入れた。
札はバキィッ!という音を鳴らして亀裂が走った。
「なんじゃコラァ!」
怒声と共に大柄な男どもがこれでもかという数でてくる。
静寂と仲違えしたその空間は、寂しい気持ちを俺にプレゼントし、
俺はあっという間に40人程の大男に囲まれた。
「ガキぃ……まさかとは思うが、お前、黒間会の弾坊ちゃんじゃねえのか…?」
その中の、一番凄みを持つ男が低い声で訪ねてきた。
「不思議か?…死んだ筈の俺がきたことは計算外になってくれたかな?」
「いや……待ってたぜ、弾。」
寒気を感じさせる声が背後から聞こえ、俺は驚きながら振り返った。
そこには、五歌…黒間五歌が佇んでいた。
「久しぶりじゃねえか……葬式以来か?」
成長して、まともになったかと思えば、昔と変わらぬ憎たらしいスカした顔をしている。
「よう……本当久しぶり、元気だったか。」
俺がそう言い放った刹那、五歌は俺のもとに飛びつき、俺の頬を裂いた。
「くっ……!テメェ……」
「お前もそのつもりで来たんだろ?紛らわしい事は無しにしようぜ。」
背に大勢の大男を従えた五歌は短刀を握っていた。
その瞳は、紫に染まっていた。
「呪眼…か?」
俺はそう尋ね、コートの裏から、クナイを取り出した。




