第29話 敗因
いつだって、敗因は些細なことだったりする。
どこの世界でもそうだろう。
勉強であれば、あの時起きて復習していればとか、スポーツなら、あの時あそこに走っていれば、とか。
けれどその些細な事のために、人間は大きな後悔をして、また多大な努力をする。
きっといつの時代もそうして、敗者と勝者が生まれ、英雄譚が生まれるのだろう。
だからこそ、俺はその些細なことに時間を割くのが惜しかった。
英雄譚なんて望んじゃいない。
大切なことは初めから唯一つ、
【自分が生まれてしまったことへの罪償い】
これに尽きるのだ。
五歌が奇眼を開眼していたのは予想外だったが、シナリオ通りにいくなんて初めから思っていなかった。
五歌はというと、流石は黒間、奇眼を出した瞬間に威圧で横にいた数人の取り巻きを失神させてしまった。
いきなり、五歌は飛んで来て、と言うより俺の側へ現れ、
「速度が段違いだよな…真中のおっさんには感謝してるぜ。」
と呟くと、俺の腹部を持っていた短刀で切り裂こうとした。
俺は後方へ飛び退いたが、この間合いが五歌の狙いだったようで、その間合いに入った刹那、五歌は
「熱波!!」
と叫んで右手のひらを俺に向けてきた。
右手のひらからは鎌鼬のようなものを纏った熱風、いや温度は5000度くらいの空気砲が俺に迫ってきた。
短刀での攻撃を避けている最中の俺が奴の熱波を防げるわけもなく、両手を顔の前に構えるという初歩的な防御しか出来なかった。
「クッソ!!」
ミスをしたと思ったが、時は既に遅かった。
熱を帯びた空気は纏う鎌鼬が斬り裂いた傷口に入り込み、傷を悪化させた。
俺が言うのもなんなのだが、実に良い技だ。
「黒間ってのは、火しか扱えないのかと思ってたんだ。でもそうじゃないのな。」
そう言うと、五歌は口元に笛を吹くように右手を添え、
「覇!」
と叫んだ。
口元からは光線銃のようなものが出てきて、さっきの攻撃から立ち直れていない俺に追い打ちをかけた。
光線銃のは胸元に直撃し、服ごと焼いて皮膚すらも過度の火傷で血塗れになってしまった。
こうなってくると、今まで沢山の部下を相手にし、五歌の攻撃からは逃げまくって、さらに攻撃はほぼ全て食らっていた俺はもう体力的にも限界だった。
俺は口元に両手でメガホンを作って近づけ、
「炎龍!!」
と叫び、これでもかと言うほどの火を噴いた。
火はやがて龍の形をし、龍は五歌に迫っていった。
奇眼になり、俺が開発した新しい技だった。
五歌は一瞬焦りの表情を浮かべたので、しめたと思ったが、五歌は両手でそれを受け止めて、少し険しい顔をした後、跳ね返してきた。
龍は俺に迫ったが、顔の間近を通って当たる事なく俺の後ろの通路を破壊した。
「あーあーあー、俺の家を滅茶苦茶に壊してくれちゃって……。」
強い。
強すぎる。
このままでは勝ち目はないだろう。
いや……何処かで、俺はこいつを殺すことを躊躇っていたのか?
ホッとした胸が、俺が証拠だと叫んでいるようだった。
「いや、壊したのはお前でしょ……。」
終わりかな……。
その言葉が頭をよぎった時、俺は負けていたんだろう。
敗因。
今回ばかりは、五歌を殺すことへの躊躇と、弱気だった。
「殺し合いに、楽しみ以外の感情持ち込んじゃ駄目よ。あ、恨みとかはOKかもね。」
そう言って微笑みながら、短刀片手に五歌はうずくまる俺の元へ歩み寄ってくる。
「ま、こんなこと言っても無駄かな。」
一緒ゾッとした。
同じ奇眼なのに、俺は負けたのだ。
悔しさが頭をよぎった瞬間、五歌は持っていた短刀で俺を斬り裂いた。
X字に、さらには顔から真下へ、腹部を真横へ、深く深く斬り裂いた。
血が飛沫出る。
俺はもはや力も入らず、痛覚も薄れてゆき、倒れ込んでしまった。
呼吸が浅くなっていくのがわかる。
俺はまた、地に伏せてしまったのか…。
そんなことを考えているうち、頭上で黒間組の扉が蹴破られる音がした。
「何だよ…これ…。」
聞き慣れた声が聞こえる。
ふと安堵する俺に嫌気がさした。
鳳か……。
やめろ、お前では勝てない。
お前が傷つく必要もない。
俺で勝てなかったんだ、無駄な事はしないで俺に任せて帰れ。
そう伝えたいのに、声が出ない。
「お前は…本職………。」
何だか会話をしているのが、遠くで聞こえる。
そんなに俺は衰弱してるのか。
やめろよ、鳳。
そいつにだけは関わるな!
声が出ないことがこんなに切ないと、初めて知った。
出ろ!
出ろ!
強く願うが叶う気配もない。
「クッソォー!」
駄目だったか。
失望が重く体に乗った。




