それぞれの結末ですわ
あれから1週間ほどが経ちましたわ。
シモーニュ伯爵が、一枚の絵を携えてわが家へとやって来ました。
「とても素晴らしい絵ですわ。だからこそ残念ですわ。」
ええ、とても素晴らしく残念なことです。
「この試用期間を潜り抜けたら、女性と部屋で二人きりにならないと言うギアスをかけようと思っていましたの。」
「その申し出はとても助かったと思います。」
シモーニュ伯爵は暗い顔をしています。
「ですがこの絵の後では無理ですわね。」
この絵は、ハロン様の代表作となるでしょう。それ程の出来です。
しかし、この半裸の少女の絵は、モデルの少女とハロン様、二人だけが部屋にいる状態で描かれてしまったのです。
どうしてそういう事になったのかは分かりませんが、これだけの名作が生まれてしまった以上、同じ絵を描く状態になることを妨げることは、パトロンとして失格です。
しかし半裸のモデルと二人だけで部屋に長時間部屋にいることは、婚約者としては許せません。
「婚約者候補から外さざるを得ませんわ。この絵が有れば、どなたか他の方がパトロンとなるでしょう。」
「そうであれば宜しいのですが。」
シモーニュ伯爵は暗い顔のまま俯いています。
「どうしても見つからない時は、お父様に聞いてみてくださいな。」
どうしても見つからない時です。それだけ探し回ったと言う事実が無いと、直にお父様がパトロンになることは出来ないでしょうから。
「有難うございました。」
シモーニュ伯爵は、絵を抱いて、とぼとぼと帰って行きました。
◇◇◇◇◇
あれから2週間が経ちましたわ。
今日は残念な用事でジェレミー様がわが家にいらしておりますの。
「本当に残念ですわ。ジェレミー様。」
「そう言ってもらえると、少しは今までの苦労が報われますね。」
悲しそうな、寂しそうな、いつも楽し気なジェレミー様が、今まで見せたことの無いお顔ですわ。
「貞節の誓いはずっと守られていましたのよ。」
「触れなければ良い事に気付きましたから。つい触れたくなる気持ちを抑えるのは大変でしたけれど。」
少しおどけていますけれど、いつもの元気は無いですわ。
「本当に事故の様な物ですのに。」
「それでも、あなたと婚約は出来なくなりましたから。」
悲しそうな顔をしてこちらを見ています。
「本当に残念ですの。まさかあなたの挨拶を、プロポーズと受け取るほど、我が国の言葉に疎く、純真な方がパーティにいらしていたなんて。」
本当に、ちょっといろいろついていましたけれど、ジェレミー様にしては普通のあいさつでしたのよ。
「ここで断ると、親父の仕事が大変になるらしいんで、おとなしく婿に行きますよ。」
なんでも相手の方の家が外交的に大切な方だとかで、断れないんだとか。
外務大臣の息子ですものね。ゲームでは大丈夫だったはずですけれど、多分婚約者候補を婚約者と訳したんでしょうね。
「残念ですけれど、仕方ないですわね。伴侶になる方とお幸せに。」
「ああ、その前に一つ聞いていい?」
「なんでしょう。」
「試用期間をクリアしたら、俺も婚約者になれた?」
とても真剣な瞳でこちらを見ています。
「もちろんですわ。」
全員落とすのが目標でしたけれど、試用期間をクリアしたなら婚約者として受け入れますわ。
「他にクリアした候補者がいても?」
「どちらを選ぶかは悩んだでしょうが、ジェレミー様を始めから排除したりはしませんわ。」
流れる様に女性を口説く、女好きのジェレミー様と、貞節の誓いが目的の、女嫌いのイアン様ですわ。女性として好意を持つだけジェレミー様の方がましかもしれませんわ。
「俺だけ婚約時の条件が緩かったんだけど。」
貞節の誓いは皆と結びましたし、他に有りませんでしたからね。
「ジェレミー様なら、貞節の誓いを守るだけでも誠意が有ると思いますわ。」
他の方々は気にしませんでしたし、イアン様なんてそれが目的ですわ。
「うん、有難う。おれ、結構本気で口説いてたんだけど、本気にされてなかったからさ。」
ちょっと泣き声が混じっている気がします。
他の方と同じ挨拶だと流していて悪かったかもしれませんわね。
「最近は口説かれるのも悪くなかったですし、このまま試用期間をクリアしてくれれば、と思わないでもありませんでしたのよ。」
どんどん見直していましたから。
もし最初から本気だと気づいていれば……無理ですわね、聖女に侍っていた時は他の人を口説いていませんでしたもの。比べてしまいますわ。
「うん、今まで有難う。これでさよなら。」
「ええ、今までありがとうございました。」
そう言って手をジェレミー様の前に差し出します。
ジェレミー様はその手を取ると、口づけしました。
「さようなら、麗しの姫君。」
ジェレミー様は寂しげに帰って行かれました。
◇◇◇◇◇
試用期間が終わった翌日ですわ。
イアン様がわが家に来ております。
他にも試用期間を乗り越えた方がいれば、一緒にここにいらしたはずですが、残念ながら、一人だけでした。
いえ、当初の予定でしたら一人もいなかったはずなのですけれど。
「おめでとうございます。『血塗れの貴公子』様。」
「ありがとうございます。その二つ名も、この結果の為だと思えば勲章です。」
相変わらず棒読みですが、一礼してくれました。
「実際に血塗れになったわけではないのですものね。鼻血位は出ていましたの?」
「さあ、組み付いて来ようとするものを捌いたり、部屋から放り出した後は見ていませんから。打ち所が悪ければ擦り傷位負ったかもしれませんね。」
「擦り傷では血塗れにはなりませんわね。」
「ただ、実力行使に出るとあんなにすっきりするとは思いませんでした。もっと早くからこの手を使っていればと思いますよ。」
「でも試用期間の前だと、婚約失敗による慰謝料を請求できませんでしたわよ。」
モスコーニ家では、殴られたり放り投げられたりした娘達が責任を取れとやって来た時に、「お宅の娘のせいで婚約解消になる所だった、慰謝料を払え」と逆に脅したらしいですの。
おかげで皆すごすごと帰って行ったそうですわ。
「家格の違いで押し通します。」
「なるほど。」
強気ですわね。
「ところで、貞節の誓いはいつ行いますか?今からでも良いのですが。」
イアン様、ワクワクしてますわね、急に声に抑揚が出ましたわよ。
「さすがに今からは無理が有りますので、明日にでも神殿で誓いたいと思いますわ。」
「分かりました。では明日神殿で。」
「婚約者となるからにはあなたにあなた以外の女性には目もくれないと誓います。」
「有難うございますわ。」
といいつつ、聖女が召喚されると「貴方の側にいると心が晴れるんだ。」と言って、横に侍ることになるのよね。
「それに、最近あなたと会っていると、心が晴れるんです。」
そう言ってほほ笑むイアン様。何故か抑揚があります。
もしかして、私、対聖女の対策、できてしまいましたか?
読んでいただき有難うございます。
あと一話、聖女召喚後の話が一話あります。
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