お兄様がやらかしたのでお詫びですわ
あれから10日ほど時が経ちましたわ。
その間にお兄様はデニス=ケルビン伯爵令嬢婚約いたしました。
双方に子供が二人できるまでの貞淑の誓いを誓わせて、お兄様には合わせて「婚約破棄をしない」というギアスをかけています。
私の時に誓うのに、息子は誓わないのはどうだろうと言う事でしたが、お父様、お兄様を事前テストに使いませんでしたこと?
お兄様は死んだような眼をなさっていましたわね。
そして、私はお父様に呼ばれました。
「お父様、参りました。」
「よう。」
あら、お兄様も呼ばれていましたのね。
「婚約者の試用期間の情報が漏れた。婚約するときに貞節の誓いを立てる為、一月の間、その誓いを守れるかどうか試し、守れなければ婚約は無くなると。」
「少し違う所は有りますが、やけに正確な情報が洩れたのですね。」
それだけ正確と言う事は、婚約関係者かごく近しい関係者から漏れていますのね。
「漏洩元は分かっている。発信元でもあるからな。」
そう言いながら視線をお兄様の方に送ります。
私もそちらを見ると、あらぬ方を見るお兄様。なるほどね。
「お兄様、何故ですの?」
「だってさ、俺はあんなのと婚約させられたってのに、お前はいい男の中から選び放題だろ。いっそいなくなればと……ちょっと魔が差したんだよ、すまん。」
お兄様、そんな風に思ってらしたんですのね。
「お兄様?」
「なんだ?」
「私、6歳で婚約者候補が出来た訳ですけど、望んでませんのよ?」
「6歳で婚約は望まないだろうな。」
「ええ、お兄様と同じ、『こいつらがお前の婚約者候補だから成人するまでに見極め、選べ。』と。」
「同じでも婚約者の出来が違い過ぎる。」
あら、ふてくされていますわ。
「偶然ですわ。」
「偶然?」
「まず、婚約者を選ぶのにお父様が容姿など気にしないのはお兄様も分かりますわよね。」
「まあな。顔がいいのは偶然だったと。」
これはお兄様も薄々分かっていらしたみたいですわね。
「次に性格と言うか、見た目意外ですけれど。これも偶然じゃないかと思うのですがお父様?」
「まあな。8歳以下の子供の性格だ、致命的な何かでもない限り、弾く要因にはならん。6人も居るんだ。成長して一番ましなのを選べばいい。」
「え? じゃあ何で選んだんだ?」
「家の思惑と、家格だ。変な企みをした家は弾いた。」
「それだけ?」
「ああ。」
「まじかよ。」
「婚約者の質が偶然だったと納得されたところで、ついでに、私達が婚約者候補たち全員と解消するのが目的だったことも思い出しませんか。」
「え?あれ?」
「目的だったのです。つまりお兄様がやったことは私達を助けこそすれ邪魔はせず、逆にとても迷惑をこうむった家もしくは人が有ったと言う事です。」
「あ……」
「セルシオも理解したところで、シャリア、連れて行ってくれ。先ぶれは出してある。」
「どこへいくんだ?」
「迷惑をこうむった方々の家ですわ。お詫びをしませんと。お兄様いきますわよ。」
さあ、お兄様と謝罪行脚ですわ。
◇◇◇◇◇
「ようこそ、シモーニュ伯爵家へ。」
ハロン様と一緒に、当主のシモーニュ伯爵様が応接間で迎えてくださいましたわ。
ハロン様だけだとちょっと説明に自信が無かったので助かります。
「此度の事はまことに申し訳なく思っておりますわ。」
今回情報漏洩が有った経緯と犯人を伝えて、お詫びを申し上げますわ。
「侍女から見て、あからさまなハニートラップも無く、ハロンには被害も無かったようです。お気になさらないで下さい。」
「そうもいきませんわ。今回の事はこちらの不手際から起こった事。お詫びとしてこちらをお納め下さい。」
お詫びとしてお父様に渡されていた金子を渡します。
「いつもいつもありがとうございます。画材の費用に使わせていただきます。」
「それ以外にも使われてください。皆さまが元気であってこその絵ですから。」
まさか本当に隙間風が吹いてるとは思いませんでしたわ。お兄様慧眼ですわね。
「ありがとうございます。ハロンの部屋の修理に使わせていただきます。」
とても感謝されてしまいました。
お兄様の提案と言う事も有って、少し居心地が悪いですわ。
今度お父様に家の改修費用が出せないか聞いてみましょう。
◇◇◇◇◇
「ようこそオンジュ家へ、我が愛しの女神殿。」
ジェレミー様が応接間で迎えてくださいましたわ。
「いつもありがとうございます、ジェレミー様。此度の事はまことに申し訳なく思っておりますわ。」
今回の情報漏洩の経緯と犯人を伝えて、お詫びをしましたの。
「うん、こんなことで君の笑顔を曇らせたくはないよ。俺の周りは大体が面白おかしく話のネタにしてるから大丈夫。賭けにもしようとしてたしね。」
「掛けですか?」
「そう。ただ誰も、『一か月やり遂げる』に賭けないから賭けが成立しなかったんだよ。」
そういうジェレミー様はおかしそうに笑ってらしたわ。
「オンジュ様自身が賭けられては?その結果なら八百長にもならないでしょう?」
お兄様が何か言ってますわ。
「うん、でも僕も一か月保つとは思えないからね。」
ここの所は順調だと伺ってますよ?
「でしたら『一か月やり遂げる』に賭けましょうか?」
「いいの?君が賭けてくれるとやる気がでるけれど、まず外れるよ?」
本人が言い切ってますものね。
「構いませんわ。今回のお詫びですもの。お兄様が賭けますわ。」
「俺?!」
あらお兄様、何で驚いているのかしら。
「今回のお詫びですもの。何口賭けましょうか?」
「多いとレートが変わっちゃうからね。」
「それはいけませんわね、じゃあ一口で。」
「はいはい、『一か月やり遂げる』に一口、セルシオ=グリンゴルド様っと」
「じゃあお金はお兄様のお小遣いから引いておきますわね。」
「えっ、とお詫びだからか、とほほ。」
「それではこれで、また。」
「また。僕の麗しの女神様。」
無事お詫びが出来て良かったですわ。
ジェレミー様はどんなことも楽しまれますわね。
◇◇◇◇◇
「よく来た、シャリア=グリンゴルド嬢、そしてセルシオ=グリンゴルド殿。」
いつもの棒読みな口調ですわ。今回は塩をまかれないだけ良い対応なのですけれど。
「此度の事はまことに申し訳なく思っておりますわ。」
今回の情報漏洩の経緯と犯人を伝えて、お詫びを謝罪を致しました。
「そう責める事ではない。あの者達は今回の事が無くてもどこかから嗅ぎつけ、同じことをやる。」
「それでも火元が我が兄で、余計なことをした事に変わりは有りませんわ。」
本当に、あの所為でイアン様の所に女性が群がって、何とか貞節の誓いを破らせようとしていますのよ。
「ですがそれで、私の難易度が上がりました。試練を潜り抜けることで、少しはあなたの歓心も買えるでしょう。」
内容だけだと、私に好意が有りそうなんですけれど、感情を感じないんですよね。
「そう言ってもらえると助かります。兄を置いていきますので、いかようにでもお使いください。」
「俺、生贄?!」
「有難うございます。護身術を最近怠っていましたので、練習相手になっていただけると助かります。」
「俺、殴られる?」
「煩いですわよお兄様。イアン様の格好をして、あの女性の集団の中に放り込みますわよ。」
「殺す気かお前!」
「同じことをイアン様にお兄様がやったのでしょう。」
「あ……モスコーニ殿すみませんでした。この身いかようにもお使いください。」
お兄様が急に真面目になりましたわ。
お兄様、ちゃんと受け入れると、急に真面目になりますのよね。
聖女の前ではこちらがいつもになるのですけれど、たまに真面目になるほうがお兄様らしいと思いますの。
「では護身術の練習相手をお願いします。」
棒読みですけれど、イアン様はお兄様に優しいですわね。
あんな目に遭っているのに。
「では置いて行きますので何日でもどうぞ。必要無くなれば、わが家に返していただければよろしいので。」
「はい、わが家で歓待させていただきます。」
そのまま家へと帰りましたわ。
お兄様は3日後、五体満足で帰って来ました。
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