魔性の貴公子イアン様と婚約者候補解消ですわ
本日は六人目の婚約候補解消の提案ですわ。
六人目は、侯爵家の息子、イアン様ですの。
年齢は二つ上の16歳、最年長ですわね。
イアン様は不思議な魅力を発散していて、女性や一部の男性が魅了されてしまう方なのです。寄って来る女性を疎ましく思っているので、とても女性嫌いな方で、無表情がトレードマークですわ。
私も女性なので嫌われていると思いますが、婚約者候補でいるメリットが大きいので、それなりにお相手していただいていますわね。
聖女が召喚されますと、聖女と触れた時に不快感が無かったことで興味を持って、その後は会う毎に惹かれる様になります。
「ようこそ、わが家へいらっしゃいました、イアン様。」
「お招きいただいてありがとうございます。」
相変わらず無表情で、礼法の例文をそのまま読み上げたような棒読みな声ですわ。
色気のあるバリトンボイスなので違和感が凄いですの。
この方は、婚約者候補でいることで釣り書きが届かないのと押しかけ令嬢、イアン様への付きまといが減ったとかで家も個人も今現在効果を実感しているようですのよね。
ですから家も個人も婚約者候補から降りる気も無いし、少しでも長く継続したいと思っています。
でも、普通の婚約者でしたら、他の家でも良いはずなので、婚約者候補がなくなれば、婚約者をやめるかも? と思っていますわ。
「本日来ていただいたご用件は、来年聖女が召喚される可能性が高いので婚約者候補の仕組みを解消しようという物ですわ。」
あら、早く終わりたくてつい一気に言ってしまいましたわ。
「聖女が召喚されるからと言って、婚約者候補の仕組みを解消する必要はないのではありませんか。」
少し抑揚が有りますわ。家としても個人としても婚約候補システムの解消は防ぎたいですものね。
「聖女を婚約者にしたい方もいるでしょうから、いっそ無かったことにしようと言う事になりましたの。」
召喚されてしまえば、ほとんどが聖女に靡きますからね。
「聖女を婚約者にしたい者だけが婚約者候補から脱退すれば良いのではないですか。」
それも一つの手なんですけれども。
「それだと婚約者候補のままで聖女に靡く者が出かねないので、綺麗さっぱり無しにすることにしました。」
ある意味皆がそれに当てはまりますからね。
「そう成ったものを排除すれば良いだけではないのですか。」
「なってからでは遅いのです。ですので、婚約者候補を解消して、聖女にも、他の女性にも靡かない方と婚約しようと思いますの。
婚約者候補のを解消後、婚約の条件を定めてから、一月試用期間を設けて、条件を破らないかの確認をし、正式な婚約をしようと思いますの。」
そんな者を抱えるくらいなら、そうでない一人を婚約者にするのです。名目では。
「なるほど、それで婚約の条件はどういったものでしょう。」
「婚約されるのですか?」
あら意外。抑揚は有りませんけれど。
「一応聞いて帰らないといけませんから。」
納得。
「まずは、穀倉地帯は結納から取り下げます。」
「承知しました。」
聞いているだけですわね。
「次に、結婚後子供が二人できるまで、貞節の誓いを立てて下さい。」
「貞節の誓いですか。相手から触られた場合はどうなるのでしょう。」
イアン様ですと相手から触られる方が主になりますものね。
「どちらから触ったとしても、不埒な思いを抱えている方に天罰が落ちます。」
「では触った相手の方に下心があれば、相手に天罰が落ちると言う事ですか。」
「ええ、あまり知られていませんが、痴漢撃退の効果も有りますわ。」
何故声に抑揚が有るのでしょう?
「なんと素晴らしい!」
イアン様、感動出来ましたのね。
「子供が二人できるまでと言わず、一生誓っていたい。」
胸の前で手を握り締めていますわ。
「それなら一生誓いましょうか。」
一生貞節の誓いだなんて、仲の良い夫婦の様ですわね。
「それで他の条件は何ですか。」
イアン様さっきまでの棒読みが嘘の様ですわよ。
そして姿勢が前のめりになっていますわよ。
「他の女性と、心変わりを疑われるような言動を取らないで下さい。」
「分かりました。相手から迫って来たり、しなだれかかって来るのは、心変わりを疑われる言動に入りますか。」
テーブルに手をついてこちらに近づかなくても。
「受け入れれば入るでしょう。」
「拒めば良いのですね。他の条件は何ですか。」
イアン様、近いですわ。
「もうありませんわ。」
「そうですか、では一月向かってくる相手を拒んでいれば大丈夫と言う事ですね。解りました。」
「あの、他にも候補者はいるのですが。」
既に名乗りを上げた方もいますし。
「ああ、そうですね、無事薙ぎ払って見せます。」
「いえ、私が選ぶのですが。」
「是非私を選んでください。他の女性など見ませんから。」
もともと全ての女性を見ませんわよね。
「今日言った条件や、今までの拘束に対するお詫び等、こまごましたことはこちらに書いてありますので、家族の方に見せてくださいな。」
「はい、一月後の貞節の誓いに向けて、頑張ります。」
「は、はい、それでは。」
この意気込み、どうしましょうか。
◇◇◇◇◇
「……と言う事が有りましたの。」
今は夕飯で、昼間にイアン様がいらした時の一部始終を話した所ですわ。
「失敗した様だな。」
「はい、イアン様の貞節の誓いへの執着を侮っていました。」
「痴漢は男だけではない。女は痴女と言うがな。」
「痴女か、一度遭ってみたいな。」
「そういう男の前には現れぬらしいな。」
「そっか、残念。シャリアが失敗するのは珍しいな。」
「そうですか?」
しょっちゅう失敗していると思うのですが。
「ああ、大体俺が叱られている隣で平然としてる。」
「そんなつもりは無かったのですが。」
お兄様が叱られているときにどう反応して良いかもわかりませんし。
「ああそうだ。エリン=パットン伯爵令嬢だがな、別に好きな男がいて、お前と結婚したらうちの金をそいつに貢ぐつもりらしいぞ。」
「ええっ」
「そういえば、今日軽く見ましたけれど、あれでは伯爵家すらも切り盛り出来ませんわよ。」
「そんなっ」
「「なので(ですから)婚約は無理だな(ですわね)。」」
「無理かぁ。」
お兄様が頭を抱えてしまいましたわ。残念でしたわね。
「それでだ、今度デニス=ケルビン伯爵令嬢をエリーザが調べて、合格ならばお前と婚約させるから覚悟しておけ。」
お母様が調べたら婚約と言う事は、お父様の調査は合格しましたのね。お兄様に婚約者が出来そうですわ。
「え、ケルビン嬢って生徒会役員の? 地味で目立たない見た目の癖に、周りを顎で使うって噂の女だぜ、あんなのの婚約者なんて御免だ。」
「どんな噂だろうが、公爵家が回せる娘ならお前の婚約者だ。あきらめろ。」
「あれなら、モニカ=アドゲーツ伯爵令嬢の方がずっとかわいい、ファルコがうらやましい。」
「なら、先にアドゲーツ嬢を口説いておくんだったな。
それから、シモーニュ伯爵家からは婚約の申し込みが来ている。試用期間に向けて、早めに侍女を選んでほしいそうだ。」
「分かりましたわ、直ぐに侍女を指名いたしますわ。」
「そうしてくれ、ただ、シモーニュ伯爵家には、違約金を倍送っておいたのだが、画材だけでなく、屋根の吹き替えに使いおった。これなら定額贈るんだった。」
「絵を描くことも大事ですが、描いた絵が雨漏りでダメにならない事も大事ですわ。2倍で良かったのだと思います。」
「そうだな、いっそ3倍送れば絵画用の倉庫を立てたかな。」
「それは良い投資ですわね。」
「あのさあ、絵画用の倉庫じゃなくて、家が建て替えられる金を贈るほうにはなんねえの? 描いた絵を保存するのも大事だろうけど、描く奴が隙間風で寝込めば絵どころじゃないぜ。」
「「……」」
お兄様って、たまに鋭い事を言いますのよね。
「あ、シャリア、王家からは断りの返事が来ているぞ。」
お父様、話題を変えようとしていますわね、有難いですわ。
「まあ、今日は殿下がいらっしゃらなかったようですけれど、お断りの返事のおかげでしょうか。」
「さあな、ちらっと王宮でアクテア=ドニントン侯爵子息が側近の中に入っているのを見た。殿下を羽交い絞めにしていたから、そちらが理由かもしれないな。」
「暫くは、警戒しておきますわ。」
アクテア様は、お元気ですのね。でも、殿下の側では聖女の元にいるのが決まってしまった様ですわ。もうそばには居られないのですね。
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