外務大臣の息子、ジェレミー様と婚約者候補解消ですわ
本日は四人目の婚約候補解消の提案ですわ。
四人目は、外務大臣の息子、ジェレミー様ですの。
ジェレミー様は、私より一つ上の15歳ですわ。
この方は、どういうつもりなのか分からない位口説いて来ますわ。挨拶から始まって別れの挨拶まで口説かない方が少ないのではないかしら。
聖女が召喚されると、聖女に惹かれて、他の人は口説かなくなるんですのよね。今の口説きっぷりを見ると信じられませんが。
「ようこそ、わが家へいらっしゃいました、ジェレミー様。」
「やあ、愛する君に呼ばれたからには来ない訳に行かないからね。麗しのシャリア。」
真っ赤なウエーブがかった髪を窓の光にきらめかせながら、いたずらっ子の様な緑の瞳で私の目を見て、私の手の甲に口づけを落としました。
白いスラックスにピンクのシャツ、白いジレに紺のジャケット。手首には金鎖がちらりと見え、胸のポケットからはピンクのチーフが見えています。
相変わらずオシャレですわ。
7歳にして無闇矢鱈に女性を口説くので、まともな婚約は出来そうも無いとお家の方に匙を投げられたそうですけれど、こういう礼儀の方だと思えば、不快感は無いのですわよね。
ジェレミー様はともかく、お家の方が後が無いと思っているだけに、婚約解消を受け入れてくれるか不安ですけれど、とりあえず、お話しないと始まりませんわ。
「ジェレミー様は相変わらずですね。」
取られた手でジェレミー様を椅子に誘導し、私も向かいの席に座ります。
「君も相変わらず美しいよ。その髪はまるで黄金の海の様だ。」
おいてあるティーカップを手に取りながら、相変わらずの言葉を紡ぎます。
「それで、お話と言うのは、婚約者候補の仕組みを解消しようと思いますの。」
お話に乗っていると進まないので、さっさと本題に入りますわ。
「それは困るな、君を口説けなくなってしまう。」
おどけたようなしぐさをしながら、嘘か本気か分からない言葉を紡ぎます。
「別に婚約者候補でなくても口説くでしょう?」
毎日何人も口説いています。当然婚約者候補でない女性を口説いています。
「でも、君は婚約者候補で無くなると、口説きにくいからね、残念だ。」
ウインクしています。全然残念そうでは有りませんわね。
聖女と会えば、私を口説くことも無くなりますし。
「今までの拘束料はこちらになります。今後も婚約を続けたいのでしたら、結婚の条件を決めた後、一月ほど試用期間を設けて、条件を本当に履行できるか確認した後、候補者が複数いれば、その中から選んで正式な婚約をしますわ。」
「それで、麗しい君と婚約する条件は?」
あら、本当に正式な婚約を望みますの?
「初めに、穀倉地帯は結納から取り下げます。」
「うん、それで。」
興味なしですわよね。
「次に、結婚後子供が二人できるまで、貞節の誓いを立てて下さい。」
「ええ、なんで?」
それは嫌ですわよね。殆どジェレミー様の為に在る条件ですし。
「貴族間の暗黙の了解を、明確にし、神殿で誓うだけですわ。」
「できるかな。」
ええできますわよ、誓いを立てることは。どれだけ天罰が下るかは分かりませんけれど。
……ドタドタ……
「その代わり、子供が二人出来た後は、どれだけ浮気をしてもかまいませんわ。
子供は一つの家で、相続権の無い平民として、手に職と知識をつけながら育てて自立させます。
愛人の方々はその家の使用人兼子供の育成者として養います。
その費用は貴方への費用から引きますが、費用自身は十分に見ますから、何人でも口説いて下さいな。」
……ドタドタ……下……
「そんなに大量に浮気するつもりはないけれど、自由に口説けるのは嬉しいな。ただ、それまでが、我慢できる自信が無い。」
……ドタドタ……そっ……
「そのための試用期間ですわ。試用期間中我慢できれば何とかなりませんか?」
……ドタドタドタ……待っ……
「そのための試用期間か……麗しの女神を僕のものにするためだ、なんとかやってみるか。」
……ドタドタドタ……だ……
昨日までと同じですけれど今日はざわめきが長いですわね。
「これが今日言った条件やその他の事についての書類ですの。ご両親に見せてくださいね。」
……ドタドタドタドタ……様……しま……
「有難う、君は知性あふれる美の女神だね。美しいだけでなくやるべきこともこなしてしま(バタン)「おい、シャリア」
またアウグスト殿下ですわ。毎日懲りませんわね。
「お前、俺のほかにも婚約者がいるそうだな。」
「アウグスト殿下とは解消します。それから婚約者候補ですわ。」
婚約者が何人も居たらさすがにまずいですわ。
「屁理屈をこねて、俺と言う婚約者がいながら他にも婚約者を作るなどととんでもない奴だ。」
屁理屈って、良く分かってなさそうとは思っていたけれど、全然わかってませんでしたのね。
「勘違いして文句を言うなんて、ひどい男だね。」
あらジェレミー様、割って入って下さいますのね。
「なんだお前は。」
「婚約者候補の1人だよ。正式な婚約者にも立候補予定だしね。」
「浮気相手の1人か!」
アウグスト殿下の怒りがジェレミー様の方に移りましたわ。
「酷い言い草だね、対等な競争相手なのに、なんで浮気だなんて詰るんだい? それくらいならちゃんと口説いてただ一人になれば良いのに。」
あら、自分を選んでほしくて口説いていらしたのね、挨拶なんて思って申し訳ありませんでしたわ。
「なんで俺が女を口説かなければならない。」
「自分だけを見て欲しければ口説くものだろ。それなしでやれ心変わりだやれ浮気だと自分勝手だね。」
口元に笑みすら浮かべて言い返しています。なんだか正論に聞こえて来ましたわ。
「お前は誰かれ構わず口説いているだけだろう。俺の所にも噂は届いているぞ!」
「綺麗な花は愛でて褒めなければね。君の様に怒鳴りつけるだけじゃ花もしおれてしまうよ。」
そうかもしれませんわね、怒鳴られるより、褒められる方が良いですわ。
条件での悩み様を見ると浮気で口説くのも有りそうですけれど。
「それなら婚約者を褒めているような言い方をするな。」
「婚約者や婚約者候補なら、なおさら褒めるべきだろう。自分を見てくれるように、そしてその輝きを認め、共に歩むためにも。」
あら、ジェレミー様の婚約者は幸せかもしれませんわね。他の方を口説くのが我慢できればですけれど。
「なんだと!」
怒気を込めながらアウグスト殿下がジェレミー様の方へ一歩踏み出します。
「口で負けたら今度は腕っぷしかい、野蛮だね。蛮族じゃないんだ、それで女は付いて来ないよ。」
ジェレミー様は立ち上がり、怯むことなくアウグスト殿下の方へと一歩踏み出します。
「素直に帰れよ。一人で帰れないならついて帰ってやろうか。」
「くっ、当たり前だ、浮気相手と二人きりにしてたまるか。」
「懲りないね、ではシャリア、今日はこれにて、また会える日を楽しみにしてます。」
「それではまた、ジェレミー様。また次にあなたに口説かれる日を楽しみにお待ちしますわ。」
二人は退席しましたわ。
なんだかジェレミー様に口説かれるのが悪くなくなってきましたわ。いつも口説かれているお友達たちはこんな気分だったのかもしれませんわね。
◇◇◇◇◇
「……と言う事が有りましたの。」
今は夕飯で、昼間にジェレミー様がいらした時の一部始終を話した所ですわ。
「あのジェレミーに骨が有ったとは驚いたな。」
「僕も、あいつは何も考えずに口説いていると思っていたよ。」
「私も、彼の口説きに対する考え方が変わりましたわ。アウグスト様が乱入してくると殿方の違う面が見られる気がしますの。」
「だからと言ってあれを歓迎する気にはなれんがな。」
「もう三回目になりますもの。これがただの貴族家でしたら初日に一言入れるところですわね。」
あらお母様、怒ってらしたんですね。
「明日王宮に言いに行って来る。さすがに三日連続はな。」
お父様も思う所があった様ですわ。
「ああ、ドニントン家からは断りの手紙が来た。『アクテアは王家の騎士団に入れる。』と言う言葉もついてな。」
「シャリア、残念だったな、お前の騎士は断ってきたようだ。」
「家の決定ですもの、仕方が有りませんわ。」
「おねえさま、きしさまがどうかしたのですか?」
「シャリアの騎士はな、家の決定で、シャリアの騎士をやめるのさ。」
「じゃあ、ぼくがおねえさまのきしになります。」
まあ可愛い、本当にレリンは私の癒しね。
「有難うレリン。しっかり体を作って、お勉強して立派な騎士になってね。」
「はい、おねえさま。」
まあ、凛々しいお顔。将来が楽しみね。
「それで、セルシオ。ファルコ=トミアセ侯爵子息はモニカ=アドゲーツ伯爵令嬢と婚約したぞ。」
「解消して翌日ですか。早いですね。」
「そうだな。お前も、相手を見つけ次第婚約するからそのつもりでおれ。」
「なんで。」
「これ以上待っていられんからだ。トミアセ侯爵は、一日で婚約した。あの家らしい迅速さだ。
お前はシャリアが婚約者候補としてつなぎとめている間に一人も見つけ出せなかった。見つけ次第動く、そう心得よ。」
「…………はい。」
お父様ならすぐに見つけそうですわね。お兄様残念でしたわね。
家の者達にアウグスト殿下を通してしまって申し訳ありませんとお詫びを受けましたわ。
昨日のアクテア様に影響されて頑張ったみたいですけれど、殿下に触れることが出来なかったみたい。
前世のテレビで見たさすまたを提案してみましたけれどどうなるかしら。
今日はこれで終わりましたわ。おやすみなさい。
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