宰相の息子、ファルコ様と婚約者候補解消ですわ
本日は二人目の婚約候補解消の提案ですわ。
二人目は宰相の息子、ファルコ様ですの。
この方も私と同じ14歳ですわね。
巷では神童と呼ばれているそうで、そつなく、私の婚約者候補として振舞っていますけれど、たまにちらりと不快感が見え隠れしますの。
ゲーム内でのクールな腹黒になるには、少し年季が足りませんかしら。
上昇志向の強い方ですわ。
「ようこそ、わが家へいらっしゃいました、ファルコ様。」
「お招き有難うございます。シャリア嬢。」
ファルコ様がわが家の応接間にやって来ました。
紺のスーツに身を包み、姿勢正しく椅子に腰かけると、眼鏡の底のアクアマリンの瞳に笑みを含ませながら、こちらに挨拶を送って来ます。青いストレートの髪も真っ直ぐに下りています。
こうしているととてもお行儀が良いですわね。
私に対しても好意があるようにさえ見えます。
でも実際は、聖女がたまにポロリと零す学校で習った知識に知性を感じて惹かれる様に、知性を感じない方に惹かれない筈ですわ。
そして聖女に惹かれてからは、私と私の家が没落するように仕掛けてきますの。
一番敵意が強かったのですわよ。不快感どころでは無かったのでしょうね。
今回の変更でお家にも魅力が無くなったはずですし、ファルコ様はもともとこの婚約候補が嫌でしたもの、解消は上手く行く筈ですわ。
ファルコ様は流れる様にティーカップを手に取ると、一口口に含みます。
「相変わらずおいしいお茶ですね。香りもとても良い。」
「有難うございますわ。」
この後しばらくお茶とお菓子を頂きます。
さあ、婚約解消しましょう。
「所で、婚約者候補の仕組みの事ですけれど。」
「なんでしょうか。」
相変わらず微笑みも崩れませんわね。
「解消しようと思いますの。」
パチクリと瞬きしましたわ。少し驚いたみたい。
「理由をお伺いしても?」
少し真面目なお顔になりましたわ。
「来年聖女が召喚される可能性が高いのですの。」
「根拠は?」
「神殿と図書室ですわ。召喚の年を調べると、周期があるようでしたの。」
「なるほど、ですが聖女が召喚されたからと言って、婚約者候補をやめる事にはならないのでは?」
また微笑みに戻りましたわ。手ごわいですわね。
「やめたい方もいらっしゃるでしょうし、いっそ婚約者候補の仕組みを無かったことにしようと思いますの。今まで拘束したお詫びはこちらを考えておりますわ。」
そう言って目録を渡します。
「なるほど、そのまま婚約者候補でいたい者は?」
「改めて、婚約者としての条件をお互いに出し合って決めた上で、一月ほど試用期間を設けて、条件を本当に履行できるか確認します。
其の上で、条件を履行出来た方が複数いるようでしたら今年中に誰と婚約するかを選ぼうかと。」
おや、選ぶと言う言葉に反応しましたわね。
「やはり、あなたが選ぶことに変わりは無いのですね。」
とても不満がありそうですわ。
「複数の方と婚約を結ぶことは出来ませんから。ですが、選ばれる立場から降りる権利はそちらに有りますわ。」
「なるほど、そして今度は聖女に選ばれる立場になれと?」
不満そうですが、喜んで聖女に選ばれる立場になりますわよね。少なくともゲームではそうでしたわ。
「ファルコ様が選ぶ立場になられても良いのでは?」
伯爵令嬢でしたらいくらでも選べるでしょう?後で婚約破棄するのは大変でしょうけれど。
「なるほど、それで選ばれる立場でいる事を選んだ時の婚約者としての条件は?」
どなたかと違って、途中で話を終わらせて情報を聞かない事は無いのね。
「最初に、穀倉地帯は結納から取り下げます。」
「それは残念ですね。」
残念そうな表情はしていませんわね、当然と言う表情ですわ。
「次に、結婚後子供が二人できるまで、貞節の誓いを立ててもらいますわ。」
「なかなか厳しいですね。」
ファルコ様は苦笑してますわね。
「そうですの?世間一般の常識をしっかり罰則付きにしただけですわ。」
婚約時、結婚後も初めは婚約者または結婚相手に貞節を捧ぐべし。子供が二人できたら、おたがい好き勝手に楽しむべしって暗黙の了解ですわね。
「でしたらあなたも貞節の誓いを立てるべきでは?」
「そうですわね(さらさら)これでお互いに貞節の誓いを立てることになりますわね。」
「誓いを立てることに躊躇は無いのですね。」
「そちらからの条件ですし。私だけが条件を付けるものでもないでしょう?」
「なるほど。」
うなずいていますわ。
「最後に、同じく結婚後子供が二人できるまで、たとえ仕事だとしても、世話係などで、四六時中女性の側について回らない。」
「何故?要人の世話は重要な仕事の一つですよ。」
「同性なら何も言いませんわ。異性、婚約者や妻以外の女性の側にずっといますと、たとえ仕事であってもなさぬ仲だと囁かれ、その婚約者や妻は浮気をされた者として嘲られますの。そんなのはごめんですわ。」
「出世の糸口でもあるのに?」
「浮気の噂を立ててでも出世をしようとする男などごめんですわ。」
……ドタ……
「だから男にだけ条件を付けると?」
……ドタドタ……
「では女性にも(さらさら)お互いに異性とずっといる世話係などは禁止ですわ。」
……ドタドタ……下さい……
「確かに同じ条件ですが、違う印象を受けますね。」
……ドタドタドタ……待っ……様……
先ほどから部屋の外が騒がしいですわね
「ええ、受け取る印象「おい、シャリア」
突然扉を開けて、アウグスト殿下が入って来られました。
「あら、アウグスト殿下」
何事でしょう。今日来る予定などない筈ですが。大体接客中に案内したりしない筈ですし。
ファルコ様は、突然の事に呆然としていますわね。眼鏡がずれていますわね。
「何故第二妃を断った。昨日は受けていたのに。」
こちらを指さしながら責めていますわ。脳内で都合のいい返事を捏造していましたのね。
「昨日からお断りしていますわ。」
「俺が第二妃になれと言ったのだぞ。」
まるで応じるのが当然とばかりに詰って来ますわね。
「誰が言おうと第二妃なんて断るに決まっていますわ。」
手に持っていた扇子を顔の前で開きますわ。飾りとして持っていたものを使う羽目になるなんて。
「俺の命を断るような奴は第二妃としてもいらん。後悔しても知らんぞ。」
そう言い捨てると、アウグスト殿下はさっさと部屋をでていきました。
「後悔は致しませんわ。」
また返事を聞かずに出て行きましたわね。
「今のは何だったのですか。」
ファルコ様が我に返ったのか、眼鏡をかけ直しながら尋ねてきましたわ。
「昨日お会いしたのですが、聖女召喚が行われると聞いたら、第二妃になれと言い放って帰られましたの。お城でお断りの返事を聞いたのでしょうね。」
「それで、ですか。」
「ところで時期宰相候補筆頭のファルコ様。」
「何でしょうか。」
眼鏡をくいっと持ち上げ、背筋を伸ばしましたわ。
「将来あの方を支えることになると思うのですが、いかが?」
「うっ。時がたてば少しは落ち着くにしても、今すぐ諫言が出来る側近と侍従を増やして、体を張って行動を止められるものを近くに置いてもらえるよう進言したくなりますね。」
「さすが、具体的かつ現在にも効果のある対応策ですわね。」
「現在も殿下の側近ですから。」
「それは……ご苦労様です。」
たまにやって来るだけの私の苦労の比では無いでしょうからね。
「こちらは今日の話し合いの内容を書類にしたためたものです。持って帰ってご検討お願いしますわ。」
「分かりました。こちらは父に渡しておきます。返事はまた後日に。」
「また後日に。」
ファルコ様との対話は平穏に済みましたわ。
◇◇◇◇◇
「……と言う事が有りましたの。」
今は夕飯で、昼間にファルコ様がいらした時の一部始終を話した所ですわ。
「トミアセ家との交渉は問題ないだろう。トミアセ宰相は仕事ができる。明日には返答が来るだろう。」
「断るかな?申し込むかな?」
お兄様が結果を聞いていますわ。
「十中八九断って来るだろう。旨味が無さ過ぎる。」
「お前に魅力は無いとさ。」
お兄様が私をからかってきます。気になりませんわよ。
「断られなければ困りますわ。それよりアウグスト殿下ですが。」
「今日断りを入れたから、それを聞いてわが家へ飛んで来たんだろう。」
「行動力は有りますのね。」
「殿下はともかく事務方はまともだ。時間はかかるがちゃんと断りの線で結果はでる。」
「助かりますわ。」
「それよりシャリア、今まで王妃教育を教えてくれていた方々に、事の次第を知らせる手紙を出しておきなさいな。それが礼儀になります。」
お母様に注意されましたわ。
「本日出しておきましたわ。もめるにしても断るにしても連絡は必要でしょうから。」
「それならば良いのです。」
「王妃教育は面倒そうだな。」
「面倒ですわよ。これで終わると思うと清々しますわ。」
このまま本日は終わりました。
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