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はじめてのデート

 

「とってもお綺麗ですよ、オーロラ様」

「ありがとう、ティナ、ヘレン」



 オーロラはフリルのついた可愛らしいドレスに少し恥ずかしそうにそう言った。それから、鏡の前に腰掛けて髪をとかしてもらう。前より指通りのよくなったハニーピンクの髪を見つめながら、オーロラは呟いた。



「エレン様は頼ってくれ、と言っていたけれど……」



 あれから、デートについてメイドたちから色々教わったオーロラは、少しだけ不安を抱いていた。

 まず、エレンがデートプランを考えると言ったけれど、まだ陸にきて1ヶ月ほどだというのに大丈夫だろうか、ということ。無論、オーロラはどんなデートでも嬉しいのだがそのためにエレンが大変な思いをするのは嫌なのだ。それから、もう一つは――


 そこまで考えかけて、オーロラの脳内は先日のキスでいっぱいになってしまった。


 どうしても思い出してしまう。その度にドキドキして胸がいっぱいになってしまう。



「ふふ、エレン様なら素晴らしいデートプランをお考えになっていろことでしょう」

「ええ、そんなに心配なさらなくても、女性は身を任せていればいいのですよ!」



 オーロラは頼もしい2人に押されるように頷く。

 そこで、コンコンと部屋をノックする音が聞こえてきた。



「オーロラ、迎えにきたよ……わ、かわいい……」

「あ、ありがとうございます……」



 照れながら部屋を出て行くオーロラとエレンを眺めながら、ティナとヘレンはついに供給過多で倒れてしまったのだった――






「着いたよ」

「え? ここって……」



 馬車が止まったのは高級ブティックの前。店内には若くて煌びやかな令嬢が何人かいる。



「今とても人気なお店だと聞いたんだ。どんなドレスでもオーロラが気に入ったのを買ってあげる」

「そ、そんな、申し訳ないです……」



 店内に並ぶのはどれも豪華で夜会やパーティーのときに着るようなドレスばかりだ。ずっと憧れていた綺麗なドレスを前にオーロラは目を輝かせるが、それでも遠慮してしまう。



「僕が買ってあげたいんだ」



 エレンはそう言うと、ドレスを眺め手に取って行く。

 パステルブルーのドレスや、白色のフレアスカートが可愛らしいドレス。

 エレンは「どうしようなんでも似合うな」なんてぶつぶつ言いながら次々とオーロラに重ねて見ていく。



「あ、あの、じゃあこれがいい、です……」



 恥ずかしさとそれでもおこがましいのでは、という思いで消え入るように言ったオーロラは、ラベンダー色のドレスを指さす。控えめだけどオーロラによく似合いそうなデザインだ。

 エレンは満足げに笑う。



「他には?」

「……も、もう十分です、ありがとうございます!」



 オーロラはエレンの背をぐいぐいっと推しこくりながら慌てて店を出る。


 その後もスイーツショップや、アクセサリーショップ、香水屋など様々なところへ行き、エレンはその度に何か購入しようとし……




「つ、疲れたわ……」



 オーロラは馬車の窓から店員と話し込むエレンを眺める。

 結局、オーロラは最初のドレス以外何も欲しいとは口にしなかった。元の生活のせいでもあるが、それ以上にオーロラは別の感情を抱いていた。


 女性たちに人気な煌びやかなお店。エレンの目の下にうっすらあるくま。たくさんデートプランを練ってくれたのだろう。



「私はエレン様と一緒にいられるだけで十分なのに……」



 ぼそり、と呟いたのと同時に馬車の扉が開いた。



「オーロラ、今度また君にぴったりの香水を買いにこよ……!?」



 そう言いかけたエレンは突然起こった出来事に目を丸くした。

 それもそのはず、だってオーロラが抱きついているのだから――



「ど、どうしたの、オーロラ? そのとっても嬉しいんだけど、君はあんまりこういうことをしないから……」



 慌てつつも嬉しそうに頬を染めるエレンにオーロラは体を離して、意気込んで言う。



「今から私の考えたデートプランを、しませんか」






「うわあ……綺麗だね」

「ふふ、そうでしょう? こんなこともあろうかと持ってきてよかったです」



 オーロラはピクニック用品と、バスケットを持ってはにかんだ。



 訪れていたのは大きな木のある草原。町がある程度見回せて、花畑も見えるここはかなり見晴らしのいい、絶好のピクニックスポットだ。


 用意周到、というよりかは心配症なオーロラはあらかじめサンドウィッチを作っておいたのだった。


 オーロラとエレンは木陰に並んで座る。



「……すごく幼い頃、来たことがあるんです。エレン様にも見せたいなと思っていて」

「そう、なんだね。すごく気に入ったよ、本当に美しい場所だね」



 エレンはそう言い、オーロラを見て眉を下げる。



「もしかして、楽しくなかった……?」

「い、いえ! とっても楽しかったです! ずっと憧れていたところにたくさん連れて行っていただいて、それにあんな素敵なドレスまで……」

「それならいいんだけど……」

「私は、エレン様と一緒にいられるだけで嬉しいんです」



「やっぱり贅沢はまだ向いてなくて」と苦笑いする。



「それに、エレン様とこういうところでゆったりお話しするのもいいかな、と思ったのですが……」

「う、うん……」



 オーロラがそんなに考えていてくれたなんて、とエレンはオーロラには悟られないように悶える。それに、オーロラから抱きついてくれたこと、一緒にいたいと言ってくれたこと、それだけで幸せでいっぱいになる。

 加えて、オーロラが作ったサンドウィッチはほっぺたが落ちてしまいそうなほどおいしかった。



「……私、1日ずっとドキドキしてしまっていて。エレン様のキ、キスを何度も思い出してしまうので……」

「へ」



 不意打ちすぎるそれにエレンは一瞬思考が停止しかけた。

 無意識で、かなりの爆弾発言。押し倒さなかったことを褒めてもらいたい、と思いながらエレンはごほんと咳払いをする。



「それは、今日1日、ずっと僕がまたキスをするんじゃないかって考えてたって事でいいのかな……?」

「へ!? そ、そんなことは……!」



 やはり無意識だったのか、とエレンは思いつつ取り乱すオーロラの手首を掴んだ。



「オーロラの望みなら、いくらでもするけど……」

「あ、あの、それは恥ずかしいです……」



 近づくエレンの顔から思いっきり背いて、オーロラは顔を真っ赤にする。エレンはそんな愛らしい婚約者を見つめる。



「今日はこのくらいで我慢しておくね」



 エレンはオーロラの額にキスを落とす。

 それから、なんだかんだ僕の方が頼ってしまったのでは、と少し苦笑したのだった。


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