第18話 侯爵家の相続問題
パーティが終わると、ミレイユとアルヴィンは侯爵の執務室に呼び出された。オスカーが呼ばれていないのは、彼が未だに帰宅していないからである。
二人を迎え入れた侯爵は、いささか憔悴した顔で切り出した。
「殿下に宣言した手前、私は公平に後継者を見定める義務がある」
侯爵の胸の内は手に取るようにわかった。彼が言わんとしていることは察せられる。つまり、侯爵直筆の『ミレイユを妻とした者を侯爵家の次期後継とする』という誓約書を反故にしたいということだ。
「色々と考えたが……殿下の言も一理あるかと思えてな。オスカーがこれを機に心を入れ替え、兄弟で切磋琢磨してくれれば――侯爵家の未来は更に明るくなるかもしれない」
憔悴しきった顔色から推察するに、相当悩んだ上での結論だろう。
少し考えてから、ミレイユはアルヴィンの顔を覗き込んだ。
「無闇に王族を敵に回しては後々の禍根となりかねませんし、できる限り殿下の意向に沿いたいというおじ様の考えは当然です。私はおじ様の考えを尊重したく思いますが、アルヴィン様はいかがですか?」
ちょっと考えるような間を置いてから、アルヴィンが首を傾げた。
「ミレイユ様は、誓約書を処分しても構わないと?」
「おじ様を困らせるのは、本意ではありませんから。それから、侯爵家が要らぬ火種を抱えないためにも、それが最良かと」
ミレイユたちと第二王子との板挟みに合って苦悩する侯爵の姿は見たくないし、王族からの反感など、できることなら買わない方がいい。
ミレイユの答えを聞いて、アルヴィンがふっと微笑した。
「ミレイユ様が構わないのでしたら、僕もいいですよ。お二人がおっしゃるとおり、兄様と切磋琢磨しつつ互いに高め合えたら、それが我が家にとっての最良でしょうから。もちろん、当主の座を譲るつもりはありませんけど」
(……やっぱり、アルヴィン様は家督にこだわりがあるのね)
マグノリア子爵家からこの婚約を破棄することなどできないから、アルヴィンが家督を継ごうと継ぐまいと、両親は口を出してこないだろう。
実際、婚約披露パーティに出席していたにも関わらず、帰り際に顔を合わせた父母は、この件に関して何も言ってはこなかった。
ミレイユ自身も、家督はどちらでも構わないと思っている。
だが、アルヴィンにはオスカーが当主にふさわしい人間に成長したら家督を譲る、という意志はないみたいだ。
オスカーを出し抜き、ミレイユに求婚してまで家督を得ようとしていたのだから、アルヴィンが引かないのは当然か。
単なる野心か、それとも何か事情があるのかはわからないけれど。当主の座がアルヴィンの望みだというのなら。
(アルヴィン様をお支えするのが、私の務めでしょう)
それが、婚約者の義務だろう。
ミレイユは侯爵に向き合う。
「おじ様? おじ様は殿下へ向けてこうおっしゃいました。侯爵家の繁栄に繋がる後継を指名する、と。それはつまり、婚約者の能力も含めて判断してくださるという認識で相違ないでしょうか?」
「もちろんだとも。婚約者も含めて、侯爵家の益となる者を指名するつもりだ」
言質が取れたので、ミレイユはくるりとアルヴィンに向き直った。
「とのことですので、高め合う対象に私も入れてくださいな? 共に、侯爵家を継ぐに相応しい人間となりましょう」
ミレイユがそう微笑めば、アルヴィンはぱちくりと目を瞬かせ、淡く笑んだ。
「頼りにしていますね、ミレイユ様」




