第9話 修羅場というやつですか?
「アルヴィンが侯爵家を継ぐなんて話、聞いてないわ!」
周囲の目を意に介すことなく、会場の一角で声を上げたのはキャスリーンだ。オスカーの婚約者である彼女は、当然今日のパーティに出席している。
愛らしい顔に険を浮かべて、彼女はオスカーに食って掛かっていた。
「こんな大事なこと、どうして黙っていたの!?」
「いや、それは……」
ごにょごにょと言い淀んだ後、オスカーが慌てて言い募る。
「俺も今知ったんだ! だから――」
(あら、まあ……)
オスカーの苦しい言い訳に、ミレイユは内心で苦笑した。彼の泳いだ視線と焦りようは、大嘘です、と顔に書いてある。
長い付き合いのキャスリーンにも察せられたのだろう。彼女の瞳の色が一段と冷めたものになる。
「……わざと黙っていたのね。ひどいわ。このままずっと私を騙すつもりだったの?」
「騙すなんて、おおげさな言い方をしないでくれ。近いうちに話す気でいたんだ」
オスカーが宥めるように言う。
「それに、跡継ぎから外されたって俺たちの仲は何も変わらないだろう? いつ話そうが、大した問題じゃないじゃないか」
「冗談を言わないで! バークライトの後継じゃないオスカーに魅力なんて、何もないじゃない。大事なことだわ!」
「な……っ」
キャスリーンの容赦のない物言いに、オスカーがたじろぐ。
「……あそこまで言われれば、兄様も目が覚めるのかな。ホプキンス男爵令嬢を純粋無垢だ、なんて信じていたみたいだけど」
隣でぼそりとアルヴィンがこぼす。あどけない顔には呆れの色が浮かんでいる。
「とりあえず、衝撃で言葉が出てこないようですね」
固まっているオスカーを遠巻きに眺めつつ、ミレイユは周囲を見渡す。招待客たちは三者三様の反応だ。無関心を貫く者。興味津々で野次馬と化す者。最も多いのは、この場であんな言い争いをする二人への呆れ。
総じて、会場の空気は居た堪れなくなっていた。
(……まあ、こうなりますよね)
予想通りの展開である。
キャスリーンも参加しているパーティで侯爵家の後継が変わったことを発表すれば、オスカーとの喧嘩が始まるのは予想できたこと。不満を胸の内に収めて人目のない場所で話し合うような、キャスリーンはそんな理性的な人ではないのだから。
「家督を継げない長男の婚約者だなんて、ごめんだわ。こんな婚約、解消よ……っ!」
「いくらなんでも薄情だぞ、キャスリーン! 君と俺の仲だろう!」
いつのまにやら二人の話は婚約解消にまで発展していて、収拾がつかなくなっていた。
婚約を解消する、しない、で大揉めしている。
そんな二人に、ミレイユはそっと声を掛けた。
「お二人とも。ひとまずその辺りで。ここは周りの目もありますから。談話室でゆっくりお話し合いをしませんか?」




