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アリアドネ・コード─少女兵たちよ人類を奪還せよ─  作者: チャハーン
第2章 断絶の箱庭編

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第46話 外界

お疲れ様です

「リリス!何か見える?」

「特に何も!今日はセラムが濃い!」


 南に10キロ進んだ頃、高台からリリスが叫ぶ。今日のセラムの濃度は普通と予報されていたが、進めば進むほど濃くなっていく。これほど粒子が濃くなると、フィルターを通して呼吸しなければ健康被害を出すかもしれない。

 三人は急いでフィルターを起動し、呼吸を整えた。綺麗な空気を肺いっぱいに吸い込むと、また行軍を再開する。


 リリスは高台から飛び降りると受身を取り銃を構える。しばらくぶりだったが腕は相変わらず置いていない。安堵のため息をつくと、二人に合流した。


「ベティ、なんか妙だと思わない?」

「何が?」

「私たちが今から行く場所は南、そして南は不思議なことにセラムの濃度が高い」

「わざと濃度が高い場所に基地を作ったんじゃない?そうすれば誰も近づかないだろうし」


 ベティの的を得た鋭い考察にリリスは思わず頷く。

 セラムの濃度が高い場所、それはすなわちネクストルムが大量に生息するあるいは、コロニーが付近に出来たばかりということだ。厄介な精密機械を故障させるためにネクストルムはセラムを散布する。


「噂をすればネクストルムだ……キャリアーとスピッターか?」

「戦闘態勢、リリスはスピッターを!私とベティでキャリアーを潰す!」


 三人が散開した。

 リリスはスピッターの前に降り立つ。かつて見た悪夢を思い出し一瞬身震いしたが、それは武者震いに違いないと解釈した。そう考えると体にまとわりついていた恐怖心が薄れていくようだった。


「来なよ、カエル野郎!」


 リリスが銃を撃つ。同時にスピッターは舌を勢いよく飛ばす。当たれば装甲ごと肉体が粉砕されかねない速さだ。仲間を殺されすぎたせいでネクストルムもリグを使う兵士を学習したのだろう。

 最初から殺す気で来ている。

 しかしそれはこちらも同様だ。


「おらっ!!」


 華麗な動きで舌を避け、ジグザグにスピッターと距離を縮める。

 弓矢より速い舌の動きには目を見張るが、真っ直ぐにしか飛ばない代物だ。軌道さえわかれば音速だろうと避けるのは容易い。

 リロード。スピッターが飛び上がる。絶好の機会だ。柔らかい腹を撃ち抜けば早めに戦闘を終わらせられる。


 ダダダダダッ!


 二トンの巨体が空中で一回転する。リリスはやったか、と思い銃を下ろした。しかしそれは罠だった。


「なっ……!」


 巨体はこちらに向かって落下している。腹を狙われることを知ってて逆に飛び上がったのか?リリスの脳内を情報が駆け巡る。そんなはずはない、ネクストルムは至ってシンプルな思考プロセスのはずだ。まさか、まさか、戦術が読まれているはずがない。


 一瞬判断が遅れた。


 リリスは寸前で身を交わした。しかしそれでも落下の衝撃から完全に逃れることはできなかった。衝撃が足を通して全身を駆け巡り、少しの痺れが残る。リリスは舌打ちをすると唾を吐き捨てる。


「ちっ、怪物風情が私の戦略を見破った?」


 再び銃を構える。今度は口の中を狙う。炸裂弾を使って内側から破壊しよう。狭い体内であれば防御は不可能だ。

 変えたばかりのマガジンを外すと、弾頭に赤い印の付いたマガジンを入れた。全力の射撃が始まり、着弾した弾は小さく破裂する。連射速度は落ちたが先程よりは目に見えてダメージが入っていた。


「よし、そのまま口を開けろカエル!私のをぶち込んでやるからさ!」


 応えるようにスピッターは口を開けた。今度は舌ではなく胃液を飛ばしてきた。だがこれは遅い。リグを付けた兵士であれば簡単に反応できる速さだ。何度も胃液を飛ばすが、リリスには当たらない。


「不意打ちでもない限り食らうかよ!」


 腐った生ゴミの臭いがする胃液を躱すと炸裂弾をマガジン一個分撃ち込んだ。狭い食道で跳弾し、胃の中でパチパチと花火のように弾ける。衝撃で瞳孔がビクビクと痙攣し、口から伸びた舌がピンと張られ、やがて力なく地面に崩れ落ちた。


「なんとかの一つ覚えっていうんだっけ?単細胞が私の戦略一つ見抜いたところで勝てるわけないでしょ?次はもっとデカイので来てよね」


 スピッターの周りを歩きながらリロードする。今度は通常弾だ。薬室に弾を送り込むと、頭を踏みつけて銃を構える。


「?!」


 死んだと思っていたスピッターが勢いよく体を起こし、最後の足掻きと言うべきか、ありったけの胃液をリリスにかけた。いくらリリスの反射神経をもってしても、この距離から放たれるものを避けることはできない。

 銃を投げ捨て、腕を交差させることが限界だった。


「うっ、うわあああああ!!」


 胃液といっても、人体をドロドロに溶かす消化酵素は含まれていない。そもそもネクストルムの捕食は消化吸収のためのではなく、捕獲して苗床にするためだ。邪魔な金属装甲を溶かすことはできても肉体には傷をつけられない。単に不快感を与えるだけだ。

 咄嗟にガードしたので主要な装備の破損は免れたが、頭部と胴体の機器が溶け始めた。


「ちっ……!」


 リリスは壊れた箇所を確かめ始めた。ジュウ、という不快な音と共にステンレス製のマガジンラックが泡を立てて溶けていく。警告音が背中から鳴り、リリスはそれを止めた。

 故障したのはオートリロード機能のあるマガジンラックと動体検知器、そしてスーツの冷却ファン、水中用の酸素マスクだった。不幸中の幸いかマガジンラック以外はそれほど重要な機能ではなかった。スーツ内部が蒸れることにより気持ち悪い暑さが全身にまとわりつくが、それも我慢すればいいことだ。


「ま、これくらいなら許容範囲かな。あとでベティに頼んで背中洗ってもらうか」

大幅に脚本修正しました

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