第45話 失くした物
更新遅くなり申し訳ありません
50話まで書きました
後日、特にやることもなかったのでリリスは部屋でいつも通り暇を持て余していた。部屋の中には折り目が刻み込まれた雑誌が無造作に放り投げられている。最近発刊される雑誌はどれも面白みのないものばかりだ。
故にリリスは面白かった時期の物を何度も、何度もよみかえしている。ネクストルムに関連する書籍はもう読み飽きた。
「はぁ……暇だな。昔の世代は面白い文化で溢れてたって聞くけど、私たちの世代は不幸だねぇ……」
リリスは見たこともない過去の時代に想いを馳せる。
当然のことだろう。戦いに明け暮れ、勝利するか死ぬかの狭間を反復横跳びしている状態だ。旧世代の雑誌や本でしか見たことの無いサブカルチャーは彼女にとって憧れの的だった。
「エレンに構ってもらうか」
ベッドから体を起こすと、梯子から急いで降りた。サラはエリヤたちと作戦会議を、ベティは車両とリグの整備をしている。必然的にリリスの標的はエレンになった。
リリスはリビングのドアを開けた。案の定、エレンがくつろいでいる。テーブルの上には裁縫箱と小さな針の数々。真剣な眼差しで指を動かしていた。
「あれ、リリスさん。もうお腹すいちゃいましたか?」
「まさか。まだ五時だよ」
リリスの気配に気づいたエレンは針を止め、笑顔を見せる。彼女の手元にはアリアドネの腕章があった。
「それ私の?」
「はい、かなりボロボロになっていたので、今のうちに直しておこうかなって」
「ふーん、相変わらずマメだね……ありがとう」
リリスはエレンの隣に腰を下ろすと、彼女の肩に顎を置いた。
「うわっ、ちょっ……重いですよリリスさん」
「ねえエレン、第一次同化戦争が始まる前の世界って、どんな感じだったんだろうね」
「どんな感じ……と言われても。私たちはその世代じゃないからわからないですね……」
「たまに外に出るとさ、色々な残骸を見るんだよね。旧世代が作った文明の遺物……とかを」
エレンが振り返る。リリスの顎が落ちた。
「私、見てみたいです。旧世代が遺した文明の遺物とか」
「じゃあ行こうか。明日」
「え?」
「明日、私たちは遠征に行く。今まで以上に遠くて、険しい道のり。でもその道中には私たちが今まで目にしたことのない素晴らしいものが遺されているはず」
リリスは目を輝かせながら言う。憧れは止まらない。好奇心は猫を殺すと言うが、生憎リリスは猫ではない。エレンに向かってまくし立てるように理想を語り始める。
「じゃあ……行きましょう!」
「よし。それじゃあ私はサラにそのことを伝えてくるよ」
* * * * *
「ダメよ」
「ど、どうして……?理由を説明してよ」
「残念ながら、エレンはパエトーンのところに預けることになったわ。考えてもみなさい。私たちが戦っている間、誰があの子を守るの?」
「う、それもそう……か」
「以前からパエトーンはエレンに対して好意的だったし、怪しい軍の高官に預けるよりよっぽどいいと思うわ。立案した私とエリヤに感謝することね」
サラの鋭い言葉にリリスは怯んだ。確かに、彼女の力だけでは迫り来るネクストルムからエレンを守りきるのは不可能だ。それを知っておきながら前線に連れていくのは無謀そのもの。
渋々了承し、その場から引き下がる。今ではパエトーンとも和解し、その実力を信頼していた。
「パエトーンは今どうなってる?」
「概ね問題なし、ってところね。カレンは無事に動けるし、他三人も順調に任務を遂行してるわ」
「それはよかった。カレンが元気になって良かったよ」
サラは笑顔を見せる。今日はいつもより眩しかった。任務が普段に比べて少なかったからだろう。
リリスはこのあとエリヤと会うか悩んでいた。大事なエレンを預けるにあたって、一言も話さないのは失礼だ。外を見ると、まだ日は暮れていなかった。
「じゃ、私はエリヤのところに行ってくるよ」
「アポは取らなくていいの?」
「多分なんとかなるでしょ。私もこれから連絡入れておくから、サラも入れといてくれる?」
「ええ、わかったわ」
サラは電話番号が刻まれたカードを懐から取り出すと、ボタンを押してリリスがこれから向かうとの旨を伝えた。
リリスは足早に宿舎を出ると、壁の方へ歩き始めた。
辺りは見慣れた光景が広がっている。壁の方に近づくにつれて人影は少なくなり、静けさに包まれていた。
「リリス・ノワール、通行許可を」
リリスは警備兵に軽く会釈し、身分証を渡した。兵士は身分証に目を凝らし、少ししてから紙に時間と名前を書き記した。
セクターの門が歪んだ音を立てて開く。いつ聞いてもこの音はリリスにとって耳障りなものだ。
「リリス・ノワール、通ってよし」
リリスは再び歩き出した。中身の入っていないバックパックを背負い、辺りをキョロキョロと見回しながら足早に歩く。たった一個のセクターを抜けただけで世界はガラリと変わった。
生気のない軍用施設の世界が続いていたが、ここでは人の明るさを感じる。
「私もこんなところで暮らしたかったな……戦いとは縁がないような、そういうところで」
兵士になった頃から抱いていた小さな欲望を口にし、リリスは適当な店で食料品を買った。領収書を見て、最近の物価上昇が激しいことをリリスは痛感する。大抵の食料品は軍から支給され、特にこれといった贅沢品も買っていなかった彼女にとってこのショックは大きかった。
やがてリリスは豪華な外装の建物の前で止まった。パエトーンの宿舎だ。
ベルを押すとすぐ返事が返ってくる。
『どちら様?』
カレンの声だ。
リリスは顔を覗かせ、小さく手を振る。
『まぁ!リリスさん!こんな時間に一体どういった要件で?』
「エリヤには伝えておいたよ。エレンのことで用があるの」
『わかりましたわ。では門を開けるので入ってきてください』
「どうも」
「ああ、久しぶりだな。話は聞いている」
エリヤに案内され、リリスはソファに腰を下ろした。
カレンはそそくさとキッチンに行くと、ティーカップ一式を持ってきた。
「紅茶とコーヒー、どちらにしますか?」
「あー……紅茶で」
「奇遇だな、私もだ」
再びキッチンに戻り、紅茶を入れ始める。忙しなく動く様子がどうも小動物のようで愛おしく、リリスは小さく微笑む。
「エレンは任せてくれ。期間はどれくらいだ?」
「大体一週間で全部片付くと思う。その間、エレンをお願い」
「……いいだろう、ただし必ずいい戦果を持ってこい。それが条件だ」
リリスは小さく、しかし堂々と頷いた。
カレンが持ってきた紅茶は混じり気があって苦味を感じたが、ブラックのコーヒーよりはマシだった。紅茶を選んで正解だったろう。
いやもうまじで、言い訳させてほしいんですけど本当に書けなくて




