第44話 V3
「昨日はよく寝れた?」
翌朝、サラがいつもより早い時間帯に宿舎へ戻ってきた。リリスとエレンが朝食の支度をしていた頃だ。サラは慌ただしい様子で、三人がいるかを探した。リリスと目が合う。
「ああ、うん。どうしたの?こんな早く」
「ベティは?」
「まだ部屋。昨日夜更かししてたみたいだから、まだ寝てるかも」
「起こしてきますね」
「ありがとう、エレン」
エレンは足早に寝室へ向かう。
サラは普段通りのトーンで喋っていたが、目の下にはいつも以上に濃い隈が出来ていた。昨夜はほとんど眠れなかったのだろう。
「じゃあ先に報告書とか諸々渡しておくから、目を通しておいて頂戴」
「うん」
サラは椅子を引いて腰を下ろした。机の上に置かれた書類や報告書の束は相当厚く、これを昨夜処理していたとなると、サラの心労も伺える。
リリスはそのうちから数枚を無作為に取り出すと、軽く目を通し始める。
数分後、寝癖を直す暇もなかったベティがエレンと共に現れた。
「めんどくさいな、こんな朝から」
「大事なことなのよ。座りなさい」
ベティはサラを一瞥すると椅子に座る。
サラは束の一番上にある書類を取り出した。そして読み上げる。
「最近、特に十月からセクター付近で不審な事案が相次いでいるわ。まずは九付近、斥候によるとネクストルムの大規模な移動が確認されたわ」
「大移動……?」
「ええ、それもいつもの徘徊するような動きと違って、まるでどこかを目指しているような……そんな動きだったらしいわ」
「……動かされている?」
リリスはマクスウェルが言っていた言葉を思い出す。ネクストルムを使役する謎の技術。そしてそれを扱うのは──
「「V3」」
リリスとサラの目が合う。
「次に、セクター七の補給路が三箇所破壊されたの。同時刻にね。爆発によるものと推定されているわ」
「爆発……でも、あの付近にそんなものは」
「誰かが仕掛けたのよ」
「……やっぱりV3と関係が?」
リリスが身を乗り出して聞いた。食堂が静まり返り、サラは静かに頷く。指先でこめかみを抑え、疲れを振り払うように息を吐いて続けた。
「それともう一つ、以前から外縁居住区を二つ作っていたでしょう?同じ週に連絡が途絶えたわ。両方とも」
エレンが外縁居住区という言葉に反応した。リリスはそっとエレンを見る。
「全部……関係が?」
「マクスウェル閣下はそう考えてるわ。目的はセクターの弱体化と孤立……そして」
「……そして?」
「エレンの捕縛」
エレンの肩が一瞬震える。
「まぁ……ネクストルムを動かせる可能性がある能力者なら、捕まえようとするのも納得か」
「そうね。閣下から直々に教えてもらったわ。私たちにエレンを任せた理由、それはV3から守るため、と」
「それで、私たちはどうすればいい?」
「情報部によると、南に二十キロ進んだ場所に、熱源反応があるとのこと。恐らくここにV3の拠点がある」
「それを叩くと」
ベティは天井を見上げ、ため息をついた。
「じゃあ、エレンは」
リリスが素っ気なく聞いた。
「今回は同行させない方針よ。ただ……セクターに内通者がいる可能性が高いから、ここに残しておく訳にも行かない。今はエリヤと相談中ね」
「サラ」
リリスが口を開いた。サラが首を傾げる。
「エレンは私が守る。任務中も、それ以外でも、私が必ず。だから……エレンを私のそばに置かせてほしい。遠くにいると……守れないから」
「もちろん、わかってるわ。そのつもりで進めるつもりだったから」
サラは書類をまとめると立ち上がり、背中を見せた。
リリスはふと思い出したかのように聞く。
「エリヤたちは今何してるの?」
「最近は第九セクターの警備と補修の手伝いね。セラムの塵のせいで風化が止まらないから……」
「そっか、大変だねあいつらも」
「あら、私の心配はしてくれないの?」
「別に。サラは強いからいいんじゃない」
サラは小さく微笑む。笑顔を見せたことで、眉間に残っていたシワが若干取れたような気がした。
朝のミーティングはいつもより早く終わった。
「じゃあ出発は明後日、今日は装備の点検と訓練を済ませておきなさい。特に、リグは完全に換装しておくように」
それぞれが自分の役割を遂行するため動く中、リリスは隣に座っていたエレンの肩に手を置いた。
「大丈夫だよエレン、私が必ず守るから」
「……やっぱり頼もしいですね」




