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アリアドネ・コード─少女兵たちよ人類を奪還せよ─  作者: チャハーン
第2章 断絶の箱庭編

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40/41

第40話 マクスウェル少将

いよいよ40話です!!

応援コメント待ってます!!

 新司令官が就任する話題は瞬く間にセクターの中を駆け回った。セクター1で行われる就任式には多くの士官が集まり、その中にはリリスたちアリアドネの姿もあった。

 プロパガンダとして利用出来るこの軍事パレードの規模は驚異的で、万が一ここにネクストルムが紛れ込めば、塵も残さず消されるだろう。


「大佐の影響力は凄いね、一個旅団くらいの兵士が集まったよ」

「全く。これだけいれば簡単に地球を奪還出来るぞ」


 リリスとベティは露店で売られていたフルーツ飴を片手に呆れた声で言う。エレンとサラはその三歩ほど後ろを歩き、サラはエレンに士官の名前と階級、特徴を教えていた。


「あそこにいるの、大佐じゃない?ほら、クラレンス中佐のところ」


 リリスは一際目立つ高台を指さして言う。パエトーンのリーダーであるクラレンス・アガメムノン中佐と、マクスウェル・ヴァイス大佐が親しげに話していた。

 お互いに肩から胸元にかけて多くの勲章が太陽の光を反射し輝いている。クラレンスは以前リリスたちが目にした時よりも腰が曲がり、もう数ヶ月もすれば直角になりそうだ。


「となると、パエトーンも近くにいるってことだ」

「あ、ほらあそこ」


 リリスが飴を舐めながら顎で垂れ幕の向こうを指した。エリヤたちはリグを装着し、いつでも戦闘出来るようになっていた。銃は持っていなかったが、ネクストルムが相手でなければもはやナイフ一本で十分だ。

 いち早くニーナがリリスたちに気づき、小さく手を挙げる。リリスはそれを見て大きく手を振り返す。リリスを見つけ、エリヤは小さな笑顔を見せる。


「大佐が司令官か、やっぱり将官になるのかな」

「多分な。それにしてもいいよな士官は、内地で指示を出してれば最高の待遇で暮らせるんだから」

「でも私たちが士官になってもあんまり変わらないよ。サラとかパエトーンたちは士官だけど前線に駆り出されてるし」


 リリスは高台の上にいるマクスウェルを見た。彼はクラレンスと喋りながらも、時折パレードに集まった兵士たちや観衆の方向へ視線を向けている。まるでチェスの盤上にある駒を一つ一つ確認しているかのようだった。

 まだリリスたちには気づいていないはずだが、今日この場に現れることを彼は知っている。気づかれるのも時間の問題だろう。


「なんか不安があるみたいだけど、大丈夫?さっきから」

「ううん、なんでもない」


 リリスには不安があった。

 あの日、第九セクターの戦場でマクスウェルはエレンの不思議な力を目の当たりにした。そして彼が最高司令官になりセクターで実権を握るということはすなわち、その気になればエレンを、そしてアリアドネを、合法的に処理出来る立場にあるということだ。

 エレンの力を危惧して暗殺されるか、それとも力の謎に迫るために解剖されるか、リリスにはわからない。


 不安そうな表情を浮かべるリリスを気にかけ、エレンか近寄り話しかける。リリスは無理をして笑顔を作り、溶けかけの飴を噛み砕いた。

 飴が砕けると同時にトランペットの音が鳴り響く。式典の開始を告げる大砲の音がセクターを覆った。


 大砲の煙が冬の青空に広がり霧散していく。マクスウェル新司令官を称える声が空に広がり、いよいよ熱は最高潮に達した。

 マクスウェルが壇上に立ち、彼が小さく敬礼すると辺りが静まり返る。


「兵士諸君。先の防衛戦で我々は大きな損害を被った。同胞の血が流れ、壁が破壊された。だが諸君らは退かなかった。ネクストルムを前にして勇敢に戦い、結果として我々は大きな敵を打ち破った」


 彼は一度言葉を区切ると段上から兵士たちを見下ろした。隅から一列ずつ視線を移し、リリスたちと目が合った。


「前体制の怠慢と不正がこの悲劇を招いたことは紛れもない真実だ。私は今日、セクター最高司令官の座に就くにあたり、二つのことを約束しよう」


 マクスウェルはまた言葉を区切り、ゆっくりと人差し指を立てた。


「一つ。これ以上無意味な消耗は許さない。前線への補給、そしてリグを始めとする対ネクストルム兵装のアップグレードを最優先課題とし、兵士一人一人の命を守る。諸君らは使い捨ての道具ではない」


 周囲の兵士たちからどよめきが漏れた。リリスたちも息を飲む。これまでの軍部はろくにリグの改装もせず、兵士が死んでも補充をしない体たらくだった。「使い捨ての道具ではない」という言葉は彼女らにとって心強いものだ。


「そしてもう一つ。我々は本日より防戦一方の幕を閉じる。これまでの軍部は要塞の中に篭もり、外への積極的な調査をしていなかった。これは盲目的な勇気ではない、私は新たな可能性のためにあらゆる手段を投じるつもりだ……たとえその向こうに見えた結果が、これまでの軍の常識を覆すものだとしても、だ」


 マクスウェルは空に向かって敬礼を高く掲げた。大歓声が巻き上がり、万雷の拍手がセクターを包み込む。兵士たちは、特にリグを付けた者たちが未来への希望に目を輝かせていた。

 ベティも、サラも、そしてエレンも。


 しかしリリスだけは不穏な予感を隠せず、冷や汗が止まらなかった。あらゆる手段、そして軍の常識を覆すもの。彼の紡いだ耳あたりのいい言葉の裏に隠された真意が、誰に向けられたものなのか気づいたからだ。


(エレン……)


 歓喜の渦に飲まれそうになりながらも、リリスはそっとエレンを見た。彼女は何の不安も抱えていない表情で、マクスウェルの演説を聞いている。


(エレンは……)


 リリスは震える指先を抑えるため右手を潰すほどの力で握りしめる。しかし胸の奥の動悸は止まらない。マクスウェルが言った「新たな可能性」と「軍の常識を覆す結果」は、エレンの全てを解き明かし、自分の手中に収めるためではなかろうか。

 周囲の兵士たちが勢いを燃やし、拳を突き上げる中、リリスだけはマクスウェルに対する不信感から視界がモノクロになっていく。


「すごい演説ね。私たちのリグも少しはいいものになるかしら」


 サラが水を差すように、そしてどこか冷たく呟く。ベティは肩をすくめ、ゴミを地面に落とした。二人を見てリリスはクスッと悪戯っぽく笑う。


(そうだ……みんながいる限りエレンは無事、みんなの力があれば……)


 リリスが気づいた時には、パレードは既に終わりを迎えていた。祝砲の硝煙も、火薬の焼ける匂いも綺麗に消え去っている。


「帰ろうか、みんな。家へ」


 三人を見るとリリスは微笑む。頬を出来る限り自然に動かそうと努力する。リリスは「家族」を見たことでようやく視界に色が戻ってきた。アリアドネには彼女たちがいる。パエトーンとも和解が進んでいる。

 この先どんな陰謀が待ち受けていようと、みんなで力を合わせればきっとエレンを守り抜けるはずだ。


 そう自分に言い聞かせ、踵を返そうとした時だった。


「アリアドネの諸君、少し話がある」


 背後から、聞き覚えのある声がリリスの足を止めた。


「大佐……いえ閣下」

「今は少将だ。最初に昇格したと話したはずだがね」

「申し訳ありません。聴き逃していたかもしれません」


「まあいい、堅苦しいのは無しにしよう」


 マクスウェルは気さくで優雅な笑みを浮かべた。まるで行きつけの店で知り合いに出会ったように、親しげに話し始める。リリスの髪の分け目から一筋の汗が零れた。


「リリス一等兵、先の私の演説は君の耳にどう響いた?」

「……大変、素晴らしい内容でした。前線で戦う兵士にとって、これ以上の言葉はありません」


 リリスは恐怖を抑えながら模範解答を口にする。マクスウェルは満足そうに目を細めたが、その視線は背後に佇むエレンに向けられた。


「私は本気だよ。新たな可能性のため、成すべきことをするのみだ」


 マクスウェルはエレンを見つめたまま、静かなトーンで喋った。

 リリスは構えこそしなかったものの、警戒を解かずに直立している。彼の言葉は師団の前で放たれたものより遥かに柔らかい。

 去り際に思い出したかのようにマクスウェルは付け加えた。


「そうだ、ちょうどいい。この後時間はあるかい?」


「え……」


 リリスは息を詰まらせた。予測不能の問いだ。

 もはやただの誘いではなく命令に近い代物だ。サラとベティは僅かに視線を交わし、エレンを匿うようにベティが前に立った。

 すかさずサラがマクスウェルに配慮という名の盾を構える。


「お言葉ですが閣下、本日は新司令官への就任式という大役を終えられたばかりです。疲労も大きいでしょうし、我々にこれ以上時間を取らせるわけには……」

「気遣いに感謝するよサラ大尉。だが私も若い頃は前線に立っていたのでね、体力には自信があるんだよ」


 サラは引き下がる。間髪入れずにマクスウェルが言葉を紡いだ。


「断る理由はないだろう?ああ、それにもちろん手当は出すよ」

「……光栄です閣下。喜んでお受けします」


「そうこなくては。では車へ案内しよう。サラ大尉にベティ軍曹、エレン君も同席を」

そういえばネトコンの結果発表って6月末でしたっけ

これの70話が公開される頃に発表か〜

毎日投稿頑張ります!応援よろしくお願いします!

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