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アリアドネ・コード─少女兵たちよ人類を奪還せよ─  作者: チャハーン
第2章 断絶の箱庭編

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第35話 不吉な予感

今日もよろしくお願いします!

 目覚めのアラームは気持ちの悪いものだった。

 リリスは重い瞼を開けると、鳴り響くアラームを消した。ベッドから顔を覗かせ下を見るが、エレンの姿はない。布団が綺麗に整えられており、まるでホテルに入ったようだった。


「眠……もうみんな起きたのかな」


 リリスは目を擦り布団を整える。枕を軽く叩いて直し、布団を綺麗に畳んだ。エレンほどではないが綺麗に出来たと満足気な表情を浮かべると、ベッドから降りる。


 冷たい。

 リリスが次に気づいたのは肌を刺すような冷たさだ。当然この季節の床は冷たいのだが、まるで氷の上にいるようだった。

 部屋から出ると廊下は真っ暗で、いつも自分がいた寮とは似つかない不気味さだ。何か言葉を発してみたが、反響せず闇に消える。


 闇の先、人影が浮かんだ。


「エレン……?」


 リリスは縋るような思いでその名前を口にした。影がゆっくりとこちらを見る。間違いない、いつもの陽だまりのような笑顔を浮かべたエレンだ。リリスは安堵で膝から崩れ落ちそうになりながらも、エレンに勢いよく駆け寄る。

 だが一歩踏み出し、エレンと目が合った瞬間だ。


 エレンの笑顔がガラス細工のように崩れる。幽霊でも見るかのような青ざめた表情を浮かべた。


「え」


 リリスが足を止めるよりも一瞬早く、エレンの手が動いた。

 その手には拳銃が握られている。黒い銃口はリリスの眉間を狙っている。

 引き金には指がかけられ、明確な殺意を持っていた。


「ち、近寄らないで……!」


 乾いた銃声が響いた。


 刹那、リリスが上体を跳ね起こした。

 視界に入ったのは毎日見る部屋の壁だ。激しい動悸で耳の奥が震え、全身が汗でべっとりと濡れている。


 3:00


 深夜の静寂が闇の中に消えていくようだ。

 ベッドから顔を覗かせると、エレンがすやすやと寝息を立てながら目を閉じている。


「夢……か」


 リリスは落ち着いて息を吸う。吐く。ただの夢だ。そう自分に言い聞かせるが、エレンの表情と自分に向けられた銃口が、脳裏から離れなかった。


 * * * * *


「サラ、ちょっと備品について確認したいことがあるんだけど」

「備品?この前補充したばっかりじゃない。今度は何?」

「ああほら、最近任務が無かったから久々に模擬戦したの。そしたら銃が壊れちゃったみたいで……」


 サラは頭を搔く。何枚か紙を捲り、予算申請と書かれた紙を一枚ベティに手渡した。彼女の目は鋭くベティを刺している。自分で書いて申請しろと言いたげだった。


「はいはい」

「もし第一分隊だったら怒られてたわよ」

「なんで?」

「なんでって……自慢じゃないけど、そこはエリート集団だから武器のメンテナンスも厳しいのよ」


 サラは淡々と、過去を見つめ直すように言った。かつて自分が見習いとして所属していた第一分隊を懐かしむように。


「しかし不思議だよねぇ、確か23年にサラ以外のメンバーは全員戦死したのに……なんで三年間も第一分隊は消えなかったのかな」

「さぁ?軍が枠組みを消さなかったからよ、きっと」


 サラは視線を書類に戻したが、虚ろな表情を浮かべていた。


「そもそも第一分隊は対ネクストルムのために設立された象徴的存在。軍の象徴でもあるから、たとえ私一人になったとしても他に流れることが許されなかったのよ」

「ふーん……業が深いね」


 二十三年からの三年間、サラは孤独に戦ってきた。一人で作戦をこなし、一人で補給をし、たった一人でエリートの看板を守り続けた。なぜそんなことが可能だったのか、ベティには想像がつかなかった。

 技術や精神力の問題ではなく、執念に近い何かが必要だ。


「きっと、私ならすぐ逃げ出してるよ。象徴とか、私にはどうでもいい」

「いずれ貴方も実感するかもしれないわよ」

「どうかね」


 ベティはペンを取り、紙に書かれた内容に目を通し始める。サラのことが頭の中に浮かび、上手く内容が入ってこない。雑念をかき消すように頭を横に振る。


「でも辛いのは第二と第三だろうね。象徴にもなれず、私たちのように生き残れず。それに私もよく知らないし」

「特に酷いのは第三ね、一度の戦闘で五人も失って、そのまま消滅」

「五人も?余程無能な指揮官を持ったもんだな」


 ベティが呆れたようにため息をつくと、執務室のドアが開いた。

 そこには今にも膝をつきそうなほどぐったりとしたリリスが立っていた。目の下には隈を作り、髪も整えていないまま、幽霊のような足取りで椅子に座る。


「おはよう……」


 リリスは気の抜けた声で呟く。今朝見た悪夢の残穢を引きずっているようだった。机に突っ伏し、顔を腕の中に埋める。サラは心配そうに顔を覗き込み、いつもなら冗談を言うベティも、震えるリリスの肩を見て飲み込んだ。


「なんかあった?」

「夢……悪夢」

「最近見てなかったのに、急に?」


 ベティは一呼吸置いて聞く。


「で、どんな夢だったの」


「エレンに……撃たれる夢」

リリスってよく悪夢見るよね(他人事)

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