第28話 南西へ
これ書き終えた日に、最終章ラスト辺りの展開全部決めました
「マクスウェル大佐、アリアドネから通信が入りました」
通信機を抱えた士官がマクスウェルの士官室に入る。それほど広くはないが内装がしっかりして、設備は充実している部屋だ。隅に置かれたフカフカのソファには、客として招かれたエレンが座っている。
士官はテーブルの上に通信機を置き、状況を報告し始める。
「部隊はベヒーモスおよび無数のストライカーと交戦、バジリスクは大破。乗員一名が死亡、リグ部隊も一名が重症とのことです」
不意にカップがカチリとぶつかる音がした。エレンが立てた音だ。誰の目から見ても動揺していることが伝わってくる。士官は気にせず報告を続けた。戦闘の流れを事細かく伝えていたが、エレンの耳には一も入ってこない。
ベティ、サラ、そしてリリスが無事なのかだけが気になって、何も集中出来ない。模擬戦ではリリスの強さをこれでもかと思い知らされたが、だとしてもネクストルムは弱いわけではない。
いつ死んでも、何もおかしくはなかった。
「──現在タロスはこちらに向かって帰還しているとのことです」
「士官さん……」
「はっ、何でしょうか」
「リリスさんは、あと……どれくらいで到着しますか?」
「そうですね、数分前に入った報告によると……二十分程度で着くと」
エレンは勢いよく立ち上がった。カップの中に僅かに残った紅茶が揺れる。
マクスウェルは何も言わず、コートに袖を通した。士官が慌てて手伝おうとするが、彼は手でそっと触れて止める。
「エレン君、セクター九まで送るよ」
「……大佐?」
「気になるんだろう。無事かどうか」
エレンは首を縦に振る。マクスウェルは彼女の肩に手を置き、数回優しく叩く。鍵を手に部屋から出た。エレンも彼の後を追う。
「その、リリス君とは仲良くやっているのかい?」
「はいまぁ……多分仲良く出来てると思います!」
「そうか、それは良かった。何か不便があったらすぐ言いなさい」
エレンは案内されるがまま助手席に座る。上級士官が乗り回しているような高級車だ。シートは座り心地がよく、背もたれでうとうとしていたらそのまま寝てしまいそうだった。
ベルトを付けると、マクスウェルは鍵を挿した。エンジンにガソリンが流れ、燃えるような気配を感じる。
「十五分もあれば着くと思うよ。検問はパス出来るから少し休んでいなさい」
マクスウェルは車を飛ばした。整備された道路を快調に駆け抜け、あっという間にセクター四、五、六と通過していく。十枚の壁がある要塞都市と言っても、思ってた以上に大きくはない。最北端から最南端までの直線距離で僅か三十キロ、セクターの幅は狭いと一キロ程度しかないのだ。車で飛ばせばすぐ壁まで行ける上、検問もパス。
少し目を瞑っている間に、セクター九にエレンたちは入った。
ここは他の場所と違い空気が違っていた。エレンたちがいた地帯とは対照的に、コンクリートがはだけ、景観も無機質だ。軍人が乗った車両が動き回り、疲れ果てた人々の顔が目に映る。
「騒がしいな」
そう言いながらマクスウェルは車を止めた。付近にいた兵士が近づき敬礼をする。リリスたちと同じようなリグを付けた女性兵士だ。
「何事かな?」
「お疲れ様です大佐。つい先程アリアドネから通信が入り、追っ手が来ているとのことで。その対処のために我々参陣いたしました」
「ご苦労、責任者は誰かな?」
「カイン大尉です。あちらにいらっしゃいます」
ゲート付近には二両の中戦車、そして少し離れた場所に救急搬送用のストレッチャーが三台ほど置かれている。エレンは胸騒ぎを感じた。
ふと人影から小走りで向かってくる男がいた。カイン大尉だ。
「大佐、なぜこんな僻地に?」
「野暮用でな。この娘を送り届けに来たんだ」
「君は……エレンか?」
「覚えていたんですね、カイン大尉」
「忘れはしないさ。あの日は大変だったからな。それより、離れていた方がいい。ネクストルムが向かってきているそうだ」
「大丈夫でしょうか……?」
カインは首を傾げる。
「状況は芳しくない。アリアドネとパエトーンはセクターの中でも精鋭中の精鋭、彼女らがやられた敵となると……我々も迎撃準備を整えてはいるが、市街地への被害も覚悟しなければならないだろう」
その言葉を聞いたエレンの背中には、ますます冷たい汗が流れた。扉を開けずにアリアドネたちを締め出そうとするつもりではないか?それとも、本当に市街地で戦いを仕掛けるつもりなのか。
彼女は恐怖を感じた。しかしそれはリリスも同じだ。エレンは深呼吸をし、リリスたちの無事を願うばかりだった。
「……来ました!」
見張りの兵士が叫ぶ。監視塔から鐘を鳴らすと、兵士たちの動きが忙しなくなる。戦車、装甲車、他様々な車両が門を囲む。建物の屋根や影から銃を構えた兵士たちが照準を合わせている。
地平線の向こうからは、猛烈な速度で土煙を撒き散らして疾走する鉄の塊が見えた。タロスだ。
しかしその背後には、巨大な影が無数に続いている。舞い上がる砂塵の中からそれは姿を現した。ベヒーモスだ。
その巨体は、高さ十五メートルある壁ですらもいとも簡単に突き破ってしまいそうだった。
「全員射撃準備!リグを装備してない兵は後方から火力を集中させろ!」
カインが叫ぶ。中戦車が鈍い音を立てて旋回を始めた。
エレンは少し離れた場所からその様子を見ていた。遠くにいるタロスを見ると、なぜか不思議とそこにリリスがいると直感した。不安が吹き飛び、安堵のため息をついた。
「リリスさん……!」
タロスがゲートをもう少しで通り抜ける。しかし状況が変わった。
ゲートの開閉レバーを握っていた若い兵士が、迫り来るネクストルムの群れを見て動揺した。迫り来る死を直感し、カインの指令を無視して独断で緊急閉鎖レバーを引いた。
「おい何をしている!アリアドネはもうすぐだ!」
カインが走り出す。エレンもゲートが閉まる様子を見て車の陰から立ち上がり、走り出した。
彼は門番をどかし、レバーを戻した。しかし一度動き始めるとこのゲートはもう止まらない。ゲートは既に半分ほど閉まりかけている。タロスはそれに気づいたのか少しだけ方向を改め、速度を上げた。
全長十六メートルの鉄の塊がこの速度でぶつかれば、たとえ鋼鉄製のゲートであったとしても大破は免れないだろう。どちらにせよ莫大な被害が想定される。
タロスの装甲とゲートの鋼鉄が激しく擦れ、耳を貫く金属音と火花を散らした。エレンは思わず目を瞑った。
次の瞬間、タロスがセクターの中に転がり込んできた。時速六十を超える速度で突っ込んできた塊は中戦車を掠め、近くの木造建築に激突した。
「……やった」
誰もが安堵の息を漏らした。
だがその安堵は、一秒と持たなかった。
「なんだ!」
直後、セクターを揺るがすような凄まじい衝撃音が響き渡った。
ゲートを見ると、完全に閉じきったはずのそれが少し開いていた。門番が目を凝らすと、何かがつっかえ棒の役割を果たしているようだ。鋼鉄のゲートはベヒーモスの腕によって止められていた。
「なっ……そんな馬鹿な!」
カインが叫ぶと同時に、ゲートを閉めようとしていた油圧システムが破壊された。シリンダーが爆発し、完全に沈黙する。
こじ開けられたゲートからベヒーモスの恐ろしい顔が姿を現した。ゲート付近にいた兵士たちは萎縮し、なるべく音を立てないように隠れた。
「リリスさん……」
エレンは破壊されたゲートと、停止したタロスを交互に見比べた。人類をネクストルムから守ってきた壁が今崩壊し、不運にも敵がなだれ込んでくる。エレンは言葉に表せない恐怖を抱いた。
その、ね。元はタロスの大きさが6m後半くらいだったんだけど、よく考えてみたら6mってティーガーくらいなのよ
だから1付け足して16mにしました




