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【第1章完結!】アリアドネ・コード─少女兵たちよ人類を奪還せよ─  作者: チャハーン
第1章 アリアドネの繭

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第27話 おかえり

あかん、なんかもうネタが

「カレン!!」


 エリヤの絶叫がタロスの車内に響いた。ニーナは急いでカレンを中に入れ、扉を閉めた。傷口を見るとニーナは歯を食いしばる。カレンを横に寝かせるとエリヤに向けて叫んだ。

 泥と返り血で固まった布の下には、鮮やかな赤が漏れ出している。命そのものが零れ落ちているようだった。


「エリヤ!止血剤を早く!」


 エリヤは急いで止血剤を探した。助手席からベティが飛び出し、棚を漁った。薬箱を探し、テープと薬を取り出してエリヤに渡す。

 薬箱を受け取ると震える指で止血剤の粉末と厚手のガーゼ、鎮痛薬を取りだした。そうこうしている間にも、カレンの心拍数が上がっていく。意識が混濁としているのかその瞳は虚空を見つめ、浅く短い呼吸を繰り返していた。


「傷は……傷の大きさはどれくらいですの」

「ドングリ程度の大きさよ。大丈夫、助かるわ。すぐにでも飛ばして、すぐに、帰れるわ」


 エリヤは止血剤を傷口にかける。ベティはその手を止め、先にカレンの傷口にまとわりつく服を裂いた。ありがとうと小さく言うと続ける。ニーナがカレンの太ももに鎮痛薬を刺すと、一瞬呼吸が遅くなった。

 ベティは祈るような手つきで傷口を押さえる。車内が揺れる度に、カレンの口から血が溢れ出した。


「サラ!もっと静かに走れないの?」

「無茶言わないで。今もストライカーが張り付いているのよ。それにセラムを抜けないと高速巡航に切り替えられないわ」


 ベティは歯を食いしばる。圧迫止血をしようにも、鉄筋が刺さっているので出来ない。激痛が走るだろうが、今抜かなければならない。


「ニーナ、ナイフはある?この鉄筋を抜かないとまずい」

「ええ、まだエネルギーは残ってる」


 ベティはナイフを受け取ると電源を付けた。ブレードが高速で振動し青白く発光する。ナイフを鉄筋に当てると、背中側を短くカットした。


「カレン、カレン、聞こえる?」

「はい……聞こえますわ」

「寝かせてから鉄筋を抜く。かなり痛むだろうけど、我慢して」


 ベティは目配せした。エリヤは肩を、ニーナは細い足を逃がさないよう強く押さえつけた。


「抜くよ……せーのっ!」


 ベティが鉄筋を掴み、一気に引き抜いた。


「────ッッ!!」


 声にならない悲鳴がカレンを襲う。体が衝撃でくの字に跳ね上がり、二人の腕に凄まじい力がかかる。鉄筋が抜けると同時に、堰き止めていた物が決壊し、鮮血が体から噴き出した。床に敷いていたクッション代わりの毛布が赤黒く染まる。

 ベティが吠えた。エリヤが止血役を叩き込む。皮膚と薬が化学反応を起こし、肉が焼ける音と共に溢れ出る血の量が減っていく。

 カレンの体から力が抜けていく。心拍数が徐々に低下し呼吸も浅く長く、辛うじて続いていた。


「傷口を強く押さえて。うん、そこを手のひらで」


 ベティは落ち着いた様子で指示を出す。カレンの容態が安定していくのを確認すると、助手席に戻った。


「応急処置も出来るのね」

「伊達に四年間軍隊にいないよ」

「あら、私は九年いるけど出来ないわよ」

「……セクターまでは?」

「あと五分もすればセラム地帯から抜けれるから、そしたら飛ばして三十分ってとこね」


 ベティはため息をついた。

 意気揚々と飛び出した七人の兵隊は、三人が倒され戦車一両を失う損害を出した。そのうち一人は生きていることが奇跡な程の重症だ。こう損害を出しては、アリアドネとパエトーンのメンツは粉々だ。

 戦車を用意してくれたマクスウェル大佐にも合わせる顔がない。


「私は結構消耗しちゃったから今のうちにエネルギーを補充しておくよ」

「そうね、今のうちに休んでおきなさい。壁の中に入るまで気は抜いちゃダメよ」

「エリヤ、ニーナ。あんたたちも応急処置が終わったら充電しておきなよ。見張りは私が先にやってるからさ」


 十分が経過した頃、カレンの出血はだいぶ収まった。同時に悪路を走り抜け平地に突入し、タロスが脚を収納する。走行音が重い振動から軽快な駆動音に変わり、タイヤが猛烈な勢いで地面を捉えた。


「セラム地帯を脱出、高速巡航に切り替えたわ。ベティ、通信機をつけてセクター九に連絡。医療班の待機と、帰還の報告を」


 ベティは短く了解と言い、ノイズ混じりの無線機を取る。

 窓の外を見据えると通信を始めた。


「こちらアリアドネ。セクター九、誰かいるか?」

『こちらセクター九、ゲート管理センターだ。状況を報告せよ』

「負傷者三名、うち一名は重症だ。至急医療班の待機を。残り二十分でそっちに着く。繰り返すぞ、至急だ!」


 ベティの切実な要請を聞きながら、エリヤはカレンを押さえる手の力を緩めなかった。エリヤの手に、カレンの右手が触れた。

 地平線の向こうには巨大な防壁が見える。いよいよ、帰還したのだ。


「エリヤ姉様……お役に立てず、申し訳ないですわ……」

「何言ってるの、貴方がいなきゃ……私たちはあそこで死んでいたわ」

「そう……ですわね。自信を持つことにしますわ」


 ニーナが充電を始める。彼女の残量も危なかった。あれ以上戦っていたらエリヤのようにエネルギー切れを起こしていただろう。リリスの隣に力なく座り、コードを差した。


「エリヤも充電しておきなよ。重いでしょ、体」

「後でやるわ。今はカレンを見てるから」


 ベティがハッチを開け身を乗り出した。銃座に手をかけ敵に備える。高速巡航に変わってから、流石のストライカーも追跡を諦めたようだ。双眼鏡を覗かないとよく見えないほどの距離まで遠ざかった。


 黒い防壁が刻一刻と迫る。

 七人を載せた装甲車は命の灯火を絶やさぬよう、帳を抜けて走っていた。

なろうって投票機能とかあるのかな

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