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狼は振り向かない【完結済】  作者: 月影野里
第三章

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37/47

37:なんなんだ

織部が病院に到着した15分後、輝虎は道安と一緒に病院に現れた。


『!?         ミッチャン……………輝虎さん……………』


長い廊下を二人は並んで織部とミナコがいるほうに向かって歩いてくる。

道安も輝虎も、いつかこんな日が来ることを予想していたのだろう。

二人とも覚悟したような目つきで、織部を見ていた。

『なんで二人がここに…!?』

織部は必死に、二人にかける言葉を選んでいた。二人は織部の前に立つと、

織部から目を逸らさなかった。

『ミッチャンは何で日本にいるの? 

何で丹生のことでミッチャンがここに? なんで隣に輝虎さんがいるの?』

『なんで…』

二人の前で、織部はやはり何も言えず、自分でもわけが分からなかったが、

涙が出てきそうになっていた。

『助けてくれ……』



織部は下を向いたまま、ようやくひとりごとのように呟いた。

「ミッチャンも、輝虎さんも…リンシのことを知ってる………ってことか」

織部は両膝に手をついて、なんとか自分を支えていた。

「………俺、一人で……リンシに起きたことを   一人で何とかしよう……

 って……さっきまで思ってて

 …俺がなんとかしなくちゃ…………って」


道安が織部の肩に手を置いた。織部はドキッとした。

『触るな…手をどけろ…… 』織部はそう思った。

だが口に出来ないばかりか、道安が乗せた手に、自分の手を乗せていた。

『なんで気持ちとは反対の行動をしてるんだ、俺は…』

そのままの姿勢でしばらく動けなかった。

ただ一言、「何なんだ………」と言ったきり、

顔を上げることもできないまま、病院の床をじっと見つめていた。



しばらくして、ようやく織部は道安に支えられ、待合室のベンチに座った。

輝虎はそのそばの壁に少しだけ肩を預けて立ったままだ。

「俺の目となって、お前の生活を見守ってくれる人を

 俺が輝虎さんに頼んだんだ」

織部は耳鳴りがしているような感覚があった。なのにそんな障壁も越えて

道安の言葉が耳に入ってくる。


「話すな」と言いたくても顔すら上げられず、自分の膝を見つめていた。

『本当は何も聞きたくない。ここから立ち去りたい。でもリンシが……

 リンシが近くで闘ってる。

 自分のことなんかで騒いでる場合じゃないのに………。………輝虎さん』


「輝虎さん…」織部は最初、膝を見たまま呟いただけだった。

輝虎が近くにいるのか分からなかったので、もう一度、呟いた。

「輝虎さん……     居る?」

輝虎は織部のそばに近寄ってきて「ここにいます」と言った。


「輝虎さんは……………何者なの……?」

「私は九鬼総合商社の社員です」織部は一気に血の気が引いた。

「どこでリンシと会ったの」

織部はもう、輝虎に何かを話しかける気力がなくなりかけていた。

「私が育った児童養護施設です」

織部は両耳の上の辺りがずしんと重くなり、膝に置いていた手に

力が入らなくなってきた。

「道安さんの目となって、あなたを見守ってもらう仕事に

 丹生さんを採用しました」


「………」

織部はもうこれ以上、聞いていることができなくなって立ち上がった。

「……悪いんですけど、俺、一旦帰って、頭 整理したい…。リンシの診断結果、

 わかったらメールを……」

「でも…」道安がそう言うと

「…頼むから…」と織部は少しだけ語気を強めた。

「……俺に  ここで大声を出させないで」


織部は上着を取ると、そのまま出て行ってしまった。


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