33:外見がなに?
翌朝、織部は両ポケットに手を突っ込んだまま、平野の部屋の前に座っていた。
「げっ」
部屋から出てきた平野はびっくりした。織部はすぐに立ち上がると
「昨日はありがとう」と言った。
「えっ 今日から毎食運ぶから部屋で待ってていいよ」
「いや、俺が自意識過剰だった。一緒にメシ、行こうぜ」
だが織部が現れた途端、マリカをはじめ、ほとんどいつもの人数が集まっていた
食堂内は一気にざわついた。伸びた髪で顔は隠れがちだが、明らかに頬は
痩けており、日焼けした肌のせいか、織部はすっかりワイルドになっている。
丹生は別の意味で驚いていた。
『右手をなかなか出そうとしないのは何故…。
それに顎とかにもなんか傷が見える……』
間もなく、フォークを持つ手に包帯が巻かれているのが分かると、
まずマリカが思わず仲間を引き連れて織部のところまでやってきた。
「手、どーしたの!?」
「ちょっと転んだだけ」
「やっだぁ、うっそ大丈夫なの〜〜!??」
ひとしきり騒いだあと、マリカは精一杯のお見舞いの言葉をかけて、みんなと席に
戻って行った。前回のことがある。なるべく近づかないよう気をつけたつもり
だったが、隣にいた平野は席を退かなければならないほどマリカ達は強引だった。
「マジかよ〜〜、水無瀬」
クラスメート達も織部がプレッシャーに感じない程度に、心配したり励ましの
言葉をかけている様子だった。なのに丹生だけは、軽く声をかけることすら
できないでいた。
結局そのあと図書館で織部と会った時、丹生もみんなと同様の心配と、
お見舞いの言葉をかけた。だが右手は明らかに重傷なように見えた。
「もしかして骨折してる…?」
「あ、まぁな、でも完治するらしいよ」
「ひとごと…」
「ハハ..」
軽く笑うと、織部は話を切り上げるかのように席を立って出て行った。
『これ以上は聞くな ってことか…』
丹生は織部を追わず、自分の勉強に集中するふりをした。
『もう彼が追い詰められるようなことが起きませんように』
丹生の胸中はまだ穏やかではいられなかった。
季節は進み、いよいよ西川の晴れ舞台が近づいてきた。
3年生は文化祭を最後に受験準備一色となる。西川は自分の存在意義をかけて、
今日までお肌のケアを忘れることなく自分を磨きあげてきた。
そう、磨き上げるのは外見だけである。
恒例のイケメンコンテストは全校生徒から投票で選ばれた候補者5人による、
当日の決選投票で決まる。
「候補の5人中、繰り上げで当選したのが西川だってことは
本人には絶対言うなよ、アイデンティティーがぶっ壊れる」
これは、文化祭実行委員会の申し合わせ事項である。
得票数断トツ1位は織部だが、本人の意向により辞退が確定していた。
実行委員だった1年生はその事実を知らなかったため、実行委員長に質問した。
「何で水無瀬くんは辞退したんですか」
「辞退はできないのか、って本人が言うから、
出来なくもない って言ったら……」
「じゃー先輩のせいじゃないですか!!!」
教室は荒れ出した。
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