31:副業
丹生のアルバイト代の件で、輝虎は自宅に戻るとすぐに道安に電話した。
「え、何で副業しなきゃならないの? 輝虎さんが大変になるだけじゃん」
「おかげで収入も増えます」
「んなの、微々たるもんでしょ? あ、
っていうか、うちの会社の定款にさ、探偵業を追加すれば済む話じゃん」
「役員の一人が賄賂で刑事罰を受けてます。
公安委員会からまず認可が下りません」
「あぁ〜 あの叔父さんかぁ…。身内だからって役員を降ろさない親父が
またここでも邪魔してくれてんのかぁ…だから同族経営はダメなんだよ」
「仮に探偵業が認可されても、
丹生さんのアルバイト代は九鬼総合商社の経費のままになりますから
意味がありません。
だから道安くんの叔父さんが役員の座にいてくれないと逆に困ります」
なんとなく輝虎の説明は分かったし、異論も無かった。
だが道安には気になることが一つあった。
「輝虎さんさぁ…どうでもいいけど、会社の利益より
彼女の利益っつぅか意向を優先してませんか?」
「そうですね。そこは突っつかないでください」
輝虎が本格的に織部保護活動重視の姿勢をとっていることがおかしくて、
道安は豪快に笑った。
「個人事業主としての活動が軌道に乗ったら、私は九鬼総合商社を辞めます」
「え…?」
道安は輝虎のいきなりの宣言に驚いた。
「探偵業には弁護士が必要になります。
道安くん、早く弁護士資格 取ってください」
「……あ」
道安は普段はいい加減な感じを装っているが、いま本当に頑張っていた。
師匠のような弁護士になる。それだけを胸に、毎日必死に勉強している。
だが師匠である山鹿修一郎を目指すということは、
収入を度外視した活動に従事するということだ。
明日のパンも買えずに無報酬で社会貢献に邁進するなど、
普通では出来ようはずもない。だからこその輝虎の提案だった。
道安は輝虎の思いを知って、目頭が熱くなってきた。
「道安くん?『あ』って何ですか『あ』って」
「ハハッ…」
朝5時を知らせる教会の鐘の音が鳴る中、
道安はジョギングする人などを見ながら『俺も頑張ろう』と力強く思っていた。
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