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狼は振り向かない【完結済】  作者: 月影野里
第二章

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30/47

30:西陽

丹生は面接を受けた頃の自分を思い返していた。

『確かあの時は とにかく報告すりゃお金が貰えるなんて楽勝! くらいに思ってた。

 道安さんが織部の異母兄で、輝虎さんが兄弟の父親んとこの社員で、

 ってそれが何? 織部を見張ればいいんでしょ、とか…高を括ってた気がする』


『あの時の私は入試で頭がいっぱいだったんだ……

 自分の将来のことしか考えてなかった……』


「現在あなたへの報酬は、九鬼総合商社から出ています。言い換えると、

 織部くんが最も嫌う父親の息がかかる金で、あなたは雇われている。

 ですから、契約を見直しましょう」

「?」


「あなたは無償でいいと思ってるようですが、

 そしたらマニキュアも買えなくなりますよ」

「うっ…」

「かといって高校生が一般的に就く仕事を兼務するとしたら、

 学業との両立が難しくなるかもしれません。

 事実、あの学院でアルバイトをしてる生徒はほとんどいないはずです。

 あ…… 

 そういえば期末考査で丹生さんは学年2位だったそうですね。

 おめでとうございます」

「えぇ!?? 知ってるんですか??」

「織部くんや丹生さんは制度を利用してる分、成績や単位修得状況は

 オンラインで保護者側へこまめに共有されてます」

「ってことは道安さんは、今回も織部が1位だったことを

 私が報告する前から知っていた.....?」

「はい、彼はルンルンです」

「ぶっ」丹生は思わず吹き出した。


「話は戻りますが、契約を見直したいので、

 今までの契約は今日を以って満了とします。よろしいですか?」

「あ、はい」

「私は九鬼総合商社の社員ですが、副業として

 個人事業主を開業いたします。認可は来週降りる予定です。そこで、

 これからは私が雇用主として、あなたに仕事を依頼したいのですが、

 調査のお仕事です。興味はありますか?」

「えぇ…まぁ…」


「調査と言っても難しく考える必要はありません。

 あなたはこれまで対象を客観的に見られるよう出来るだけ私情を廃して臨み、

 文章も簡潔で申し分ないです。その能力を買っているからこその依頼です。

 今の高校生の実態が分かれば良いので、

 あなたの友人の日常でもご報告ください。あ、主観抜きのデータが必要なわけ

 ではないので、あなた自身の日常でもいいですよ。報告はメールで月1回。

 報酬はこれまでと同額で、事業主である私が支払います」


「あの………輝虎さん、それって結局……今とあんまり変わらない」

「そんなことないですよ。特定の誰かの日常を報告しろとは言ってない」

「今までの仕事は気が向いたらお願いします。無償で」


九鬼総合商社は副業が可能なため、

輝虎はこれから探偵業務もおこなうことになった。手始めに自社長からの依頼で、

社員を狙うストーカー数名の調査を受任する予定である。

先日、輝虎は横浜本社のミーティングに参加した。

輝虎が被るストーカー案件との類似ケースが、本社でも発生したことが

議題に上っていたからだ。


被害を未然に防ぐ対策は急務となったが、これを丹生の悩みと結びつけた輝虎は、

丹生からのメール後、直ちに準備にとりかかった。そして目処の立った今は、

副業から出る利益で、丹生へのアルバイト代も滞ることがないと見込んでいる。


「あの……さっきの学業と仕事の両立が…って話ですけど…」

「はい」

「輝虎さんは本業と副業の両立は……あの…よく分かりませんが、

 できるものなんでしょうか…。すみませんっ……ちょっと心配になりまして…」

「あなたは……」

これが織部だったら

「あなたは自分のことだけ心配していなさい」とでも言っただろう。

だが輝虎は、丹生にはこう言った。

「あなたはこれから頑張れそうですか?」

「はい……なんとか」

「では私も頑張りますよ」

「ふふっ」丹生は嬉しそうに笑った。


輝虎はすぐさま立ち上がると、

「そろそろ出ましょうか、送ります」と言った。

西陽が差し始める頃、二人は屋上をあとにした。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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