↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は振り向かない【完結済】  作者: 月影野里
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/47

3:またお前か

準大手、九鬼(クキ)総合商社の4代目社長である九鬼与四郎の家は、横浜西区の

丘陵地にある。広い敷地に相応の洋館が建ち、10人程度の使用人を抱えていた。

その誰もが、現れた織部の姿を見て「うわっ」という声を漏らした。

両肩を部下二人に担がれた織部は血だらけだった。


客間に通される途中の廊下では、運悪く父親の正妻とすれ違っている。

正妻は通り過ぎる時、

「この家に汚い血は持ち込まないでちょうだいね」と、誰に言うともなく言った。

確かに床の大理石には血が滴り落ちている。

だが正妻の言い方には、織部の血筋を蔑んでいるような、別の悪意が滲んでいた。

幸い、気を失いかけている織部の耳には届いていないようだった。




僅かに漏れる陽の光で織部は目が覚めた。ブラインドのコードを引くと、どうやら

この部屋が三階にあるらしいことを認識した。

客間に通されたと思っていたが、気を失っている間に別の部屋に移動させられて

いたらしい。そばのスタンドミラーには自分が映っていた。

額や手足には包帯が巻かれ、制服ではなく身綺麗なルームウェアになっていた。

『そう言えば昨夜、使用人達が口々に俺の髪や顔について何か囁く声が耳元で

 うるさかったような…………くだらない』


学生服に着替えようとクローゼットを開けると、クリーニング済みの制服が

ハンガーに掛かっている。

それに私服や書物など、自分の持ち物が全て運び込まれていることも分かった。

『やっぱりな』

『これでホントにもう、あのマンションには戻れないんだな……』

母親と暮らした日々を完全に断ち切られてしまったことに、今更ながら

気づくのであった。


横浜市内を見下ろせる部屋からは、自分が通う高校も望むことができた。

「ここから大して遠くないな……」

織部はこの家に連れて来られたことが悔しかったが、すぐに家出するつもりだ。

『とりあえず高校に行ってから策を練るか』

『んっ ? ていうかネットカフェで良くないか?』と急に閃いて、

織部の顔から少し笑みがこぼれた。

ちょうどその時、ドアを叩く音がした。

「はい」織部がつい返事をしてしまうと、ドアがそぅっと開いた。

またしても加藤だ。

『はぁ……』織部はため息をつくと、不機嫌な顔で加藤を睨んだ。

「しょ......食事が下の階に用意されておりますので…」加藤はビクついている。

『しっかりしろよ、いい大人が情けない……』と思いながら

織部はリュックを肩にかけ、加藤の横を通り抜けた。

階段を降りる途中で巻かれていた包帯を全て外し、食事も取らずに外に出た。


家の敷地内には、黒塗りの車が停車している。

車内には、昨日加藤を後ろから小突いた上司が乗っていた。


「輝虎(テルトラ)さん、どうしますか」

敷地を出ようとする織部を見ながら、運転席の部下が言った。

「ま、いいでしょう……歩いて歩けない距離じゃなし……」

輝虎は穏やかな声でそう呟くと、サングラスを外し、加藤に携帯で何か

指示を出していた。山内輝虎は社長秘書である。

彼は、織部の父親を公私に渡りサポートする責任者だった。




織部は学校に向かう道すがら、何人もの生徒から声をかけられた。

特に女子達は甲高い声で織部を気遣う言葉を発して近づいてくる。

その度に織部は軽く手を上げ「何でもない」というような仕草で、その場を

やり過ごしていた。

『まいったな』

『切り傷なんか髪の毛で隠せると思ってたが。この分だと教師にも

 気づかれるかもしれない。また暴力か、と説教されるのも面倒だ』

織部は一限が終わるとサッサと仮病で早退した。

だがネットカフェへ向かおうと校門前まで来て、ピタッと足を止めた。


『またかよ……』

停車中の黒塗りの車から、こちらを見ている加藤と目が合ってしまったのだ。

今日は、もう見たくない顔だった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

もし少しでも「続きが気になる」と思ってくださいましたら、ページ下部にある

【☆☆☆☆☆】をタップして評価や、ブックマーク登録などをしていただけると、

今後の執筆の大きな励みになります!星1つ、応援の気持ちだけでも大変嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。