25:どこに居る?
期末考査が終われば夏休みだ。
「水無瀬くんは、夏休みどうするの?」
織部に内緒でファンクラブを作っているマリカが聞いてきた。
マリカは内緒のつもりらしいが、織部は頻繁に隠し撮りされていることを
認識していたし、食堂で囲まれたりする時の会話から、
変なクラブが結成されていることもほぼ分かっていた。
「別に、普段通り」
休み時間は相変わらずベランダにいる織部だが、最近はここも静かに
過ごせなくなってきた。寄ってくる男子達も増えたからだ。
だが彼らは織部に良い効果をもたらすこともあった。
「普段通りだってさ、残念でしたマリカちゃん」
織部の隣にいた男子がそう言うと、マリカはムッとして
「ちょっとあんた、邪魔しないでくれる?
実家に帰省するとか夏期講習に行くとか、計画を聞いてるのよ」
男子は「おっそう言えば帰省しないの?」
と気になって織部に聞いてみた。織部は「面倒臭い」とだけ言った。
「やっぱ普段通りだってさ、マリカちゃん」
織部は帰省が面倒臭いんじゃない。この会話が面倒臭かったのだ。
「ね、いくらなんでも長〜い休みだもん、どっか行かない?」
とマリカはめげずに誘った。
「お肌によくないから、俺 日焼けしたくないんだよね」と織部は言った。
「よっく言うぜ、いつもベランダで日差し浴びてるくせに」
男子達が織部と笑い合っている。
マリカは軽くあしらわれたのが悔しかったが、この場は素直に引き下がった。
廊下には、クラブのメンバー達が情報を欲しがって集まっている。
「みんなっ 帰省してる場合じゃないわよ」
新たな目標を見つけたマリカを見て、メンバーは夏に向かって
ワクワクしながら廊下で打ち合わせを始めた。
『あいつらは偶像を必要としているだけだ。それは俺である必要はない』
だが当面は振り回されるかもしれない。織部は白く流れる雲を見ながら、
どこかに行ってしまいたい衝動に駆られていた。
期末考査も織部は一位だった。
それが悔しくて嫌味を言ってきた あの時の図書係は、
丹生に座を奪われていた。
「たんじょう(丹生)って人、もしかしてリンシのこと?」
図書室にいた平野がリンシに尋ねた。
「あ、そうだった! 平野くん、ごめんね。私、自分の苗字を伝えてなかった。
丹生って書いて、にう って読ませるの」
「そっかぁ やっぱりリンシだったかぁ すごいね、二位!」
「あ、でもそれは平野くんと織部..くんのおかげだから」
「いやいや、僕だって水無瀬くんからいろいろアドバイスもらってたのに、
やっぱり掲示板にも載らない成績だったし」
「でも前回よりは良かったでしょ?」
「そりゃ、まぁ……」
「成果出てるじゃんっ」丹生は満面の笑みを浮かべた。
『やさしいな、リンシは…』平野は少し迷ったが、思い切って聞いてみた。
「リンシ、夏はどうするの?」
「え……ぇっと私は……」雇用主に報告の仕事があるから織部次第かな
とは言えない。それに肝心の織部がどこにも見当たらないのだ。
今日もそれで図書館に顔を出したのだが、織部は来ていない。
「平野くんはどうするの?」
「僕は明日から帰省するよ」
「そっかぁ 私はまだ寮にしばらく居るかな」
「そっかぁ……。上級生は半分以上 寮に残るみたいだけど、
1年生はほとんど帰るよね。リンシも帰るのかと思った」
「うん、まだ考え中」『って、私を待ってくれてる人なんか別に居ないし、
考えるまでもないんだけどね』
「そっかぁ」
平野は帰る方向が同じだったら、せめて途中くらいまで織部や丹生と一緒に
行きたいと考えていたのだ。
「水無瀬くんはさぁ 期末終わってから登校してないし、
寮にも居ないんだよね。どこ行っちゃったのかなぁ」
「へ〜ぇ そうなんだぁ…」
やっぱり平野も知らないようだった。
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