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狼は振り向かない【完結済】  作者: 月影野里
第二章

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24/47

24:似てる?

丹生は図書館での一件を説明した。自分がカッとなりやすい性質(タチ)で、

織部を守るつもりが逆に守られてることが情けない、と反省しきりだ。

「それに、何か問題が起きたら特待生では居られなくなるかもしれないのに、

 それでもいいんだ、って感じなんです。

 しかも、俺はいつかどこかでボロを出すんだ……って。

 どういう意味だか分かりますか?  なんか……なんだか悲しくて……」


「つまり、君は体調を崩してるわけじゃないから食欲はあるってことですよね」

と、輝虎は言った。

「はぁ!? 輝虎さん、今の私の話、ちゃんと聞いてましたか !? 」

輝虎は頬杖をついて丹生を見ている。

「あっ 私またカッとなってしまいました…」丹生はまたテーブルに突っ伏した。

「少し元気が出てきたようですね。

 ちょっと外で甘いものでも食べに行きましょうか」と輝虎は言った。

「甘いもの……………………パフェ…とか?」

「えぇ、パフェとか」輝虎はとても優しく微笑んでいた。


輝虎はサングラスをかけるとすぐに車を出してきて、丹生を外に連れ出した。

そしてオシャレな店を2軒ほどハシゴして、丹生がすっかり元気を取り戻した頃、

輝虎はこう言った。

「誰も寄せ付けないあの織部くんが、一度でも丹生さんに

 自分から近づいたのは驚きです」

「えっ そうですか?」

「ほかに織部くんが積極的に人と関わろうとしているところ、

 見たことありますか?」

「あ、だから平野っていうのが居て……って、そっか…

 あれは織部にひっついてるだけだからな……うぅ〜ん........

 そういえば織部に話しかける人はホント多いですけど、自分からっていうのは

 あんまり見たことないかも…です」

「でしょ。それに、もう俺に構うな、とか言われましたか ? 」

「それは無いです」

「そうですよね。あなたたちは似てるんですよ」

「えっ どこが !?」

「本質、というか……底に流れる世界が同じ……というか」


丹生はピンと来なかった。

カフェの前を行き交う人の流れを何気なくみていた丹生は、

ようやく別の切り口を見つけた。

「例えばですよ、自分が大事にしてるものを誰かが横取りしようとしたら、

 私は力づくでも取り返します。けど織部は取り返さずに ここまでか、

 って感じで、平気で手放しちゃう……。私と違うのはそこ……ですかね」


「その、平気で手放すものに、” 命 “ も含まれますよね」

「……!?」丹生は驚いた。

「織部くんは誰にも頼らない。一人で生きる強さを高めようとしている。

 ですがそれは…」『諸刃の剣だ』と言おうとして、輝虎はやめた。

果たしてそんな確信めいたことを言えるほど、自分は人生の達人なのか?

と思ったのだ。だから丹生にはこう言い直した。


「彼の心は強いです。ですが、強さを保ち続けられるほど強靭かどうか、

 危ういです。道安くんは、その危うさを一番心配してるんです。

 道安くんに手を貸している私も、今や同じように心配してますが……」

「だからあなたの目が必要なんですよ」


丹生は、輝虎に会いに行って良かったと思った。丹生が沈んでいたのは、

織部の心に隠された暗い影のようなものを感じたからだ。輝虎と話していて、

その暗い影が気のせいではないことが分かった。

これでもう、気のせいだと逃げることは出来なくなった。

織部は、一歩間違えれば簡単に命を投げ出すつもりで今を生きているのだ。


「そろそろ暗くなってきましたね。寮まで送りますよ」

「あっいえ、ここで大丈夫です。今日はありがとうございました」

店の前でお辞儀をした丹生は、地下鉄の改札口に向かって歩き出そうとした。

だが背負っている赤いリュックを輝虎に掴まれていた。

「手、 離してください。歩けません」

「電車だと遅くなりますので」

輝虎はそう言うと、ドアまで丹生を優しく誘導した。

本当はまだ輝虎と一緒にいたかった丹生は、素直に助手席に座った。


乗っている間もカフェにいる時と同じように、丹生は部活動や趣味に打ち込む生徒

の本気度が半端ないとか、授業の進行が早くてついていくのがやっとだとか、

色々なことを輝虎に話した。が、信号が赤になった時、

前回途中で車を降りてしまったことを思い出した。

「あっそういえば、この前 乗せてもらった時は、勝手に降りちゃって

 すみませんでした。私……謝ってなかったような気がします」

「あぁ そんなこともありましたね。今日は途中下車は無しですよ……というか、

 もうそろそろ着きます」と輝虎は言った。


車が寮門の少し手前で停車すると、丹生は途端に寂しい気持ちになった。

だから少しでも今の時間が長引くように、最も照れくさいことを口にした。

「あ、あとこれ………」

丹生は髪を耳にかけ、赤い蝶のピアスに触れた。

「はい、よく似合ってます」

輝虎は丹生の顔を見ながら微笑んでいる。

「前回お会いした時も付けてくれてましたね。

 気に入ってもらえたなら何よりです」

「あ、あの……本当にありがとうございました」

丹生は恥ずかしくなって急いで車を降りた。

ドアが閉まる前、輝虎は丹生に声をかけた

「お嬢さん」、「あなたは今のままで、明日からもがんばってください」

そう言ったあと、ドアはすぐに閉まり、藍色の車は走り出していた。



輝虎は支社長になってから、平日の昼間はずっと支社内の執務室にいる。

だが夕方になると毎日得意先との打ち合わせがびっしり入っているので、

ほぼ酒を飲まない日はない。

昔は社長のお供で銀座の高級クラブによく連れて行かれたが、

今は時代も変わった。打ち合わせで飲むと言っても24時を回るような飲み方は

しないし、土日は一歩も外に出ず、家の中で過ごしている。


女性関係にしてもそうだ。

今は新規の得意先が増えたことで知り合う女性も多くなり、個人的に誘われる

ことも珍しくない。だが以前のようにプライベートで遊ぶことは一切なくなった。

というより、遮断している。

だから今のマンションのことを知る女性がいるとすれば、ストーカーの類である。

信頼する部下の加藤を東京支社に引っ張ってきたので、時折、怪しい人物の報告

を受けている。加藤からは男性のストーカーも一定数いると聞いている。

こちらは人事に関する逆恨みなどが主な原因だが。


そんな輝虎がストーカーの類よりも気になるのが、丹生なのだ。

『丹生さんが俺の住所を知る手段は道安くんか俺のどちらかだ』

『なぜ、俺に直接聞いてこなかった?』



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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