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狼は振り向かない【完結済】  作者: 月影野里
第二章

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20/47

20:興味

寮の食堂で、織部は同級生のみならず上級生の女子からも、携帯番号を教えてだの

誕生日はいつ?などと、質問攻めにあっていた。だが今日の女子はちょっと毛色が

違った。美術部員だと言うが、織部の食事中にいきなり隣に座って

「服、脱いでくれない?」と言ってきたのだ。


これには織部もさすがに驚いて、食べるのをやめてしまった。

「何でですか」と織部が聞くと、「今年のコンクールの課題が ” 美 ” だからよ」

と言う。そして真剣な眼差しで織部に向かってダビデ像の美について、西洋哲学や

美学の理論を引っ張り出してきて熱く語り始めるのだ。


付き合いきれない織部は「モデルはしません」と言って席を立った。

食堂を出ると、『あれ、平野』

入寮初日から織部に懐いている平野がぽつんと立っていた。


「なにしてんだ、食事は?」

「いや、なんか水無瀬くんはいつも誰かに囲まれてるし、ここ男女共有だし、

 なんか……入りづらくて」

「何言ってんだよ」

織部は平野の肩に手を置くと、促すように平野ともう一度食堂に入った。

さっきの美術部員からは最も遠い席を探し、平野と一緒にもう一度、

食事をとり始めた。


食堂には丹生もいたが、丹生のほうは上級生を一喝してからというもの、

女子の信奉者にまとわりつかれていた。


丹生はA組で織部はC組だ。クラスは違うし男子寮内の様子もよく分からない。

ここ2週間は積極的に探りに行かなくても、織部のことは嫌でも丹生の耳に

入ってきた。問題はこれからだ。

やはり織部とは、少しでも時間を共有できる機会が必要だろう。

今ここにいる女子達から男子の噂話は聞こえてこないから、

織部と同じ部活動に入るのが最適だ。

だけど織部も、どうやら部活動には興味がないらしい。


『どうしようかなぁ……』

その時、奥のほうにいた織部と平野が目に入った。『平野!!』

『そっか…平野くんがいたか。』丹生は下を向いてニヤッと笑った。

「やだ、リンシがニヤついてるっ、何かいいことあった?」

「ふっふっふ」

丹生は周囲に薔薇のように華やかな笑顔を振りまいていた。



平野達郎は、背は高いほうだ。だがちょっと挨拶代わりに肩を叩いただけで

骨折しそうなほど華奢だった。

図書館で勉強中の平野は今、隣に爪も耳も口も真っ赤な美人が座ったので、

   ぶっ倒れそうである。


丹生はしばらく静かに勉強していたが、ついに平野に声をかけた。

「微分・積分の課題はもう終わってる?」

「いえ……僕はまだ…これから」

「そっかぁ…誰か課題終わってる人いるかなぁ」

丹生はひとりごとのように言った。

「い…いるかも…」

平野はこの美人が隣に来てから息ができないほどだったので、

まずは息を整えるきっかけが欲しかった。

それにこの悩める美人を助けたかったのだ。


「えっ ホント!? ちょっと教えてもらいたいなぁ…」

「たぶん、もうすぐ来ますよ」

「わかった、ありがと。あなたの名前は ? 」

「えっ……っとぉ」と平野が言いかけたところで織部がやってきた。

「あ、あの人です」と、平野が指差すほうを丹生も見た。


織部は別に平野と一緒に勉強する約束などしていない。

だから平野のそばにやって来る保証はない。

それに借りたい本が無ければすぐに寮に帰ることもしょっちゅうだ。

そうした行動を事前に把握していた丹生は、

織部がどうか平野に気づきますように、声をかけてきますように、

と祈っていた。だが祈りは通じなかった。織部は本棚をちょっと

眺めていただけで、すぐに出て行ってしまった。


「あ、すみませんっ 僕、いい加減なことを言っちゃいました……」

「いえ全然。それで、あなたの名前は?」「ひ 平野です」

「そ、平野くん、ありがと」丹生はそう言うと、また勉強を始めた。


「僕、あの人にお金を借りたことがあって…」

平野はしぃ〜んと静まり返った空気がつらくなったのか、

おもむろに話し出した。

「あ、お金はすぐにコンビニ行って返したんだけど、

 あの人とはそういう縁でもなければ、僕なんか一生声もかけて

 もらえなかったよなぁ、と思って」


「僕なんか…ってそんな」丹生は笑った。

「同じ高校生だよ、卑下しない卑下しない」丹生は元気よく言った。

「わたし、リンシ。よろしくね」と言った。

「あ、よろしく」平野はこの元気のいい美人がいっぺんで気に入ったようだ。


それから二人は2時間ほど勉強したあと、一緒に寮まで帰った。

どうやら平野はプログラミング言語等の勉強をしているほうが幸せで、

授業はついていくのがやっとだと言っていた。

『織部くんはどうなんだろうか、何に興味があって、何になりたいんだろう。

 あ、しまった…そういえば私さっき苗字じゃなくて、下の名前で自己紹介

 しちゃった…………ま、いっか...』



中間考査発表の日


織部はトップだった。

だが織部は去年も途中までは勉強していたのだ。

むしろ去年までいた進学校のほうが各教科の進み具合は早かったため、

たぶん2学期の期末考査くらいまでは楽勝だろうと踏んでいた。

今は高2の課題に取り組み、なるべく試験で慌てずに済むよう準備中だ。

丹生はというと、

結果の張り出された掲示板を見ながら真面目に焦り出していた。

『やばい…20位以内を目指してたのに…』


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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