19:威勢がいいな
「今年の1年はやっぱりあの娘だな」
3階のボックス席から双眼鏡で1年生を眺めている二人組がいる。
今は学院内のホールで朝礼がおこなわれているところだ。
二人は演劇部の部長と副部長で、存在感のある女子生徒を物色中。
「顔だけで言えば、この学院で一番じゃないか?」「確かに」
丹生は自分が観察されているとも知らず、大人しく座席についている。
背も高いほうで動きも機敏だから、もう運動部のあちこちから勧誘されていた。
だが部活なんかしてたら仕事が疎かになるので全て断ってきた。
それに部活自体にもあまり興味がなかった。
丹生は今のここでの生活は通過点としか考えていない。
朝礼が終わるとホールのドアから雪崩のように人が押し寄せてきた。
その混雑する中で、丹生は早速演劇部の生徒達につかまった。
「きみ、何ていう名前?」
「丹生ですけど」
「にう?」「にうさん、演劇に興味ない? 僕達演劇部なんだけど」
「興味無いです」
丹生が答えた時、ちょうどドアから出てきた織部と目が合った。
織部はすぐに行ってしまったが、丹生は彼を目で追っていた。
「あれ?きみもあのイケメンが気になる感じ?」
『……は!?』
丹生は途端に顔色を変えた。
「あの男子、1年の水無瀬って子でしょ。うちら3年の間でも話題になっててさぁ
特に女子達がきゃぁきゃぁ言っちゃって」
「あの、もういいですか?授業があるので」丹生は不機嫌そうに言った。
「あぁごめんね〜 でも、まだどこにも入部してないならさぁ、
ちょっと考えてみてくれないかな」
「だからぁ、 興味無いっ つってんだろが!!!」
丹生はとうとう大声を出した。それは織部の耳にも届いた。
織部はそれが丹生だったことをちらっと確認したあと、『威勢がいいな』
くらいに思って、少しだけ笑みを浮かべながら遠ざかって行った。
丹生はこの大声で、すっかり周囲の女子から惚れられ、
男子からは怖がられる存在になってしまった。
一方さっきの3年が言っていたように、織部の存在はもう全校に知れ渡っている。
「なに? 俺よりイケメンがいるだと?」
3年の西川は、織部の噂を聞いて早速織部の教室に現れた。
「水無瀬って奴は居るか?」
西川は近くにいた生徒に話しかけた。生徒は「水無瀬〜」と呼んであげたが、
一瞬向き直って「あ、すみません、あなたはどなたですか?」
その生徒が自分のことを知らないことにイラっと来て、
西川は自分で教室に入って探し始めた。「お〜い、水無瀬く〜ん」
当の織部は入学してからこんなことが多くて、
最近は授業以外ずっとベランダに居た。廊下や教室からは死角になっている
からだ。ベランダ近くの窓から顔を出して
「なんか上級生っぽいのが水無瀬くんを探してるよ」
と小声で教えてくれる者もいる。
「ありがとう」と織部は返したが、座ったまま本を読み続けていた。
「見つけたっ 君か!? 水無瀬くんって」
いきなりベランダのドアを開け、西川が顔を出した。
織部はドアのほうを見上げ、仕方なく「何でしょうか」と言った。
西川は織部の顔を見ると静止した。
『ホントだ……すっげぇイケメン………』
織部は立ち上がると西川と向き合った。
西川は、織部の顔を見るには少し顔を上に向けなければならなかった。
『く、くっそぉ…』「背も負けた……」
『は?』織部は何の用だろうという顔をして、西川を見ていた。
西川はこれ以上織部を見ていることができず、そのまま逃げるように教室を
出て行った。3年の校舎に辿り着くと、力尽きて廊下に座り込んでしまった。
「どうしたよ西川」クラスメートは心配してる風のセリフを吐いたが、
廊下のど真ん中で迷惑だから声をかけただけだ。
「今年、俺のイケメンチャンピオンの座がとうとう奪われる…。 俺の、
俺の最後の文化祭メインイベントが……」
「まじかよ西川」
クラスメートはアホらしいといった顔つきで、うずくまる西川をまたいで
サッサと教室に戻って行った。
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