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悪役令息に毎週決闘を挑まれていますが、たぶんこれ果たし状じゃない  作者: 夜凪 蒼


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第23話「同盟の条件は割に合わない」

同盟の初顔合わせは、絵に描いたような呉越同舟だった。埃っぽい図書塔の一室に、顔ぶれのちぐはぐな五人が集まっている。逃げ腰の平民特待生に公爵家の次席。第二王子に、塔の主のカミル先輩。それから、オスカーの従者のテオ。共通点といえば、あの叔父を敵に回している一点きりだ。


 「いやあ、まさか僕がこんな面子に交ざる日が来るとはね」


 真っ先に口を開いたのはフェリクスだった。退屈しのぎの見物人を気取っていたくせに、いざとなれば王家の情報網を惜しみなく広げてみせる。卓に地図と名簿を並べながら、あいつは楽しげに目を細めた。


 「役者は揃った。じゃあ作戦会議といこうか。まずは方針だけど——」


 「待て。順序が違う」オスカーが遮った。「こういうものは、まず主導権を決めるべきだ。決闘で」


 「はあ?」


 「異議なし」なぜか俺も反射で頷いていた。「種目は何にする」


 「おいおい待て待て、正気か君ら」


 それからというもの、会議は一向に前へ進まなかった。資料を読む順を決めるのに腕相撲。役割分担で揉めれば、どちらが多く敵の名を挙げられるか競争。意見が食い違うたび、俺とオスカーが「なら勝負だ」と身を乗り出す。そのたびフェリクスが頭を抱え、カミル先輩が冷めた目で羊皮紙を捲り、テオがおろおろと二人を宥めにかかった。


 腕相撲は俺の惨敗。名を挙げる競争はオスカーが一つ差で勝ち。結局どちらの案も採用されないまま、肝心の議題だけが宙に浮いていく。


 「君たちさあ、勝負で決めるの、そろそろやめない? 会議、半分の時間で終わると思うんだよね」


 フェリクスの真っ当きわまる指摘に、俺とオスカーは揃ってそっぽを向いた。これだけは譲れない流儀があるのだ。


 「あのう、若様。ルカ様も。そろそろ、話を前に進めませんと……」


 テオに「ルカ様」と呼ばれて、俺は少し面食らった。いつのまにか「ミレット様」から呼び方が変わっている。この生真面目な従者なりの、仲間として認めるという意思表示なのかもしれない。


 「はいはい、そこまで。——ねえルカ、君からもこの脳筋を黙らせてくれない?」


 フェリクスまで、気づけば「首席くん」をやめて名前で呼んでいた。呆れ顔の裏で、こいつはこいつなりに、俺たちを仲間の側へ数え直したらしい。


 ひとしきり脱線したあと、話はようやく核心へ差しかかった。叔父が公爵家の実権を握った、その始まりの出来事。オスカーの兄、エリアスの廃嫡だ。国境の彼方へ消えたその名が卓に上った途端、部屋の隅で、テオがぐっと拳を握りしめた。


 「……あの、」


 ずっと俯いていた従者が、意を決したように顔を上げる。


 「私、黙っていたことがあります。若様にも、言えないままで」


 声が震えていた。エリアス様が廃嫡された、あの夜。まだ子供だったテオは大人たちに囲まれ、言えと命じられるまま、ありもしない主人の落ち度を証言させられたのだという。震える手で書かされた、幼い署名。それが兄の追放を決める一枚になった——テオが絞り出したのはそれきりだった。多くは語らない。語れるだけの言葉を、この従者はきっと長いあいだ持てずにいたのだ。


 沈黙が落ちた。俺も言葉を継げなかった。オスカーはもっとだ。あいつは椅子から腰を浮かせたまま、テオを凝視している。喉が上下して、それでも声にならない。自分の兄が失われたあの夜、いちばん身近な従者が、そんな重石をたった一人で背負わされていた。しかも背後で糸を引いていたのが誰だったのか。


 あの完璧な仮面をかなぐり捨てた顔で、オスカーは従者をじっと見つめていた。兄を奪われたのは自分だけだと、きっとそう思い込んでいたのだろう。その喪失の隣で、こんなに近くの誰かが、同じ夜の重石を抱え続けていた。それを今日まで知らずにいた事実が、あいつを打ちのめしているのが、横からでもわかった。


 「テオ」ようやくオスカーが口を開いた。低く掠れた声だった。「なぜ、今まで黙っていた」


 「……申し訳、ございません。怖かったんです。若様まで、いなくなってしまうのが」


 テオの目から、ぽろぽろと雫がこぼれ落ちる。オスカーは何か言いかけて、結局、大きな手をテオの頭にぎこちなく乗せただけだった。責める言葉はついに一つも出てこなかった。


 重い空気を破ったのは、カミル先輩の欠伸まじりの一言だ。


 「——で、証言の日付は覚えてるか、テオ。任免の記録と突き合わせれば、辻褄の合わん穴が出るはずだ。埃を掘るのは、俺の得意分野でな」


 乾いた声のわりに、先輩はもう記録簿を引き寄せている。フェリクスが王家の伝手を数え上げ、テオが涙を拭いながら日付を辿り始めた。呉越同舟の五人が、いつのまにか同じ一点を睨んでいる。まったく割に合わない同盟だ。主導権を決めそこねたおかげで、会議はちっとも進まないし、これからも進みそうにない。それでも一人で抱えるには重すぎたものが、今この塔の一室で五人ぶんに分けられた。割に合わないなりに、それくらいの値打ちはあるらしい。

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