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姫様ではなく、執事です!!~遊学に来た隣国の英雄にずっと言い寄られています~  作者: ほっとけぇき


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第8話 この後、ルーカス先生に「あんまり純情を弄ぶな」と言われたのはなぜでしょう?

「失礼します。先生はいらっしゃいませんか?」


「……ノックしても反応がないね。今は外出なさっているのかな?」


 ドアに手をかけてみても鍵がかかっているみたいだし、ヴァレリー様の言う通りなのだろう。


 これは少々タイミングを見誤ったかもしれない。

 今はちょうど昼食の時間だし、医務室の先生は食堂にでもいる可能性が高い。


 あそこに立てかけてある看板に何か書いてあるのだろう。

 

「確かにあそこの看板には【外出中】と明記されていますね」


 看板を読んでみると、本当に一時的に外出しているだけのようだ。


 ほっと胸を撫で下ろすのと同時に、いつ戻ってくるのだろうかと不安を覚える。

 

「あと数分待って来なかったら教室へ戻りましょう」


 いくらここから魔導騎士科の教室が近いからと言っても、時間には限りがある。


 5分程度経ったら、1度教室へ戻ろう。それから、また折を見てくることにした方がよさそうだ。


 一応、応急処置もしてあるから、少しぐらい時間が経っても問題はない……はず。


「おや。君たち、もしかして医務室に用があってきた子たちかな?」


 随分とほわほわとした穏やかな雰囲気な人だ。

 

 手には医療系の備品が入った袋を持っている彼女が、ここの医務室の主なのか。


 ——レオナルド様によれば、この方は怒るととても怖いらしいが、真相はどうなのだろう?

 

「はい、そうです。少し手を怪我してしまって……」


「あれまぁ、なんてこと。今すぐ治療するから中へ入って」


 グイッと私たちの腕を掴んだ彼女は、私たちを医務室の中へ連れ込んだ。


 おっとりとしていて体も鍛えていなさそうなのに、結構力が強いな、この人。


 まぁ、怪我人の中には暴れる人もいるし、そう言う人への対応の賜物か。

 

「……よーし。それじゃあ、患部を見せてくれるかな?」


「は、はい」


 包帯をしゅるりと取って、手のひらを見せると彼女はピシりと音を立てて固まった。


 だが、流石は医務室の先生。

 すぐに気持ちを切り替えて患部を観察し始める。

 

「こりゃ、ざっくりといったねぇ。痛かったでしょ? 応急処置は済ませてあるみたいだから、このまま治療に入るね」


 そう言った彼女は、患部の周りに消毒をしてから祈るように私の両手を包み込む。

 

≪ヒール≫


 穏やかな声が響いた瞬間、白い蛍のような光が両手の中へ入っていく。


 さっきまで感じていたジンジンとした感覚も、手のひらを動かすときの違和感もすべてなくなって元通りだ。


 本当にすごい。本来なら何度も段階を重ねていかないといけないだろうに、ここまで一瞬で治せるとは……。


「これでもう傷は治ったはずだよ」


「ありがとうございます」


 あれ? 私のことをジーっと先生が見ているけど、なんでなんだろう?


 彼女の視線は今治したばっかりの手のひらへ注がれている。


 そこはかとなく、今から怒られる予感が……。

 

「怪我したところの皮膚は新しくなっているからね、あんまり水仕事とかしちゃだめだからね。――わかったかい?」

 

「……はい」


 ボソッと「君はかなり無茶をしそうだからねぇ」と締めらながら、彼女は私へ微笑みかける。


 あぁ、レオナルド様が「彼女が恐ろしい」と言ったわけが理解できた。

 どうしてか、全てを見透かされているように見えてならないのだ。


 これからはあまり無茶しすぎないように気をつけよう。

 

「それでは失礼いたします」


 ふぅ、とりあえずはこれで大丈夫だろう。


 それにしても、やはりこの学園にいるだけあって、医務室の先生もかなりの技量をお持ちの方だな。


 私ももっと励まないと。リリアーナ様を守るためにも、ヴァレリー様とクロウたちと並び立てるようになるためにも。

 

 ……ヴァレリー様で思いだしたけど、さっきから口数の少ないような気がする。

 

「ヴァレリー様? 顔が青いようですが、大丈夫ですか?」

 

「え、あぁ。気にしないでくれ」


「気にしないでくれ」と言われても、さっきからずっとチラチラと私の手のひらを見ている時点で気になるのは致し方ないだろう。


 むしろ、「気にしてください」と言っているようなものじゃないか。

 

「改めて傷を見て、君には酷いことをしちゃったな、って思って……」


「なるほど。そのことでしたら、あまり気負わないでもらえるとありがたいです」


 目をまん丸くしていらっしゃるけど、私が言っていることは事実だろう。


 魔導騎士科は戦闘を学ぶと言うこともあって、怪我をすることはどの道避けられない。

 

 それが私にとってた(・)ま(・)た(・)ま(・)今日で、その相手がた(・)ま(・)た(・)ま(・)彼だっただけだ。

 

「『受け止めるときにもっと丈夫な防御魔法を使ったら』、『いっそのこと、無理な体勢であれ避けられていたら』など、やりようはもっとあったのです。その選択をしなかったのは私」

 

「でも……」


 まだ、これでも彼を納得させられていなさそうだ。

 

 今までの流れを見ていても、最初の出会い方を除いては紳士的だからな……。


 本当に私は何とも思っていないのだから、あんまり気負わないで欲しい。


 ――そこまで彼が気負うのであれば、私にも考えがある。

 

「それに、私だってあなたに傷をつけてしまったのですよ」


「え、どこに?」


 体中を一生懸命探しているみたいだけど、残念ながらそこにはない。


 まぁ、自分では見られない――ほっぺたが微かに赤い線が通っているのだ。


 だから、そっとほっぺに手を添える。


「ここですよ。さっき、医務室の先生が気づかなかったのはどうしてでしょう?」


「……髪に隠れて見えなかったからじゃないかな?」


 上擦った声で、そう話す彼の首筋が赤く染まるのがよく見える。


 流石に、ちょっと距離が近すぎたのかもしれない。


 なんか変な空気になっちゃったな。ここは1度軌道修正をしよう。


「とにかく、私が言いたいのは『これはお互い様』ってことです」


「今回はそれで納得するよ……」


 なんだか釈然としなさそうな様子だけど、まぁ口だけでも納得してもらえたのなら、それでいいだろう。


 ……ところで、今の時間は?


「もうそろそろ予鈴が鳴りそうなので教室へ戻りましょうか?」


「そ、そうだな」


 ちょっとよろよろとしているけど、大丈夫なのか?

 さっきも顔色が悪かったし、ここは手を掴むことにしよう。


「え?! ちょっと、アキレア?!」


 *


「おっ、これで全員揃ったな。ロペスとデュラン。まだ日にちも経っていないのにもう一段階関係性を進めたのか?」


 教室へ何とか滑り込むと、ニヤニヤとした顔でルーカス先生が話しかけてくる。


『もう一段階』って、どういう意味だ? あくまでも私とヴァレリー様は友人だぞ?


 首をきょとんと傾げると、ルーカス先生は口をあんぐりと開け、ヴァレリー様を見る。

 近くにいたクロウは呆れたようにため息をつく。


 なにか、憐みを覚えたルーカス先生は片手で顔を覆いながら、ヴァレリー様にこう言った。


「……ロペス。一回顔を洗ってこい」


 ――林檎みてぇに真っ赤だぞ。

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