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姫様ではなく、執事です!!~遊学に来た隣国の英雄にずっと言い寄られています~  作者: ほっとけぇき


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第7話 リリアーナ様は基本的に優しい。だからこそ、怒るとすごく怖い

「それで、アキレアはどうしてあの力を使ったわけ?」


「……戦っているうちに、滾ってしまって」


 背中に流れる冷や汗が止まることを知らない。

 体温で生ぬるくなったそれに不快感を覚えるが、ぐっと飲みこむ。


 ここで、何か余計なことをすると言うことは本当に良くない。

 

「ふーん、そうなの。滾っているにしては荒々しい動きではなかったけど?」


「そ、そうでしょうか?」


 リリアーナ様の昼食用に淹れた紅茶が、いつぶっかけられるのかが分からなくて怖い。


 彼女が私にそんなことをするはずがないと分かっていても、そんな気迫を感じてやまない。


 今の彼女には全てを見透かされているような気がするのだ。

 

「あぁ、私悲しいわ! どの従者の中でもあなたは一層信頼しているというのに……。あなたは私のことを頼りないと思って?」

 

「そんな滅相な!」


「……それなら、理由を話せるわね?」


 くっ、リリアーナ様が目を潤ませているのを見ると、どうしても首を縦に振ってしまう。


 でも、『ロワゾー様をぎゃふんとさせたかったから』なんて、私欲に塗れた理由を吐くわけにはいかない。


 そんなことをしたら最後、本当に彼女に失望される。

 嫌だ。他の何よりも、それだけは嫌だ。

 

「フローレス嬢。どうか、その怒りを鎮めてください」

 

「あら、私はアキレアに危険な目に合って欲しくないから言っているのよ?」


「あなたは黙っていなさい」と言わんばかりに、彼女はクロウを睨みつける。


 可哀そうに、彼がピシりと笑顔のまま固まっちゃったよ。

 あ(・)の(・)人を揶揄いだしたら止まらないクロウでも、怖いものはあるんだな。


 本当は他人事でいちゃいけないのは分かっているけど、どうしても現実逃避したくなっちゃう。


「それは分かっていますよ。ただ、あそこでこいつが力を解放していなかったら、ロワゾーのやつがこいつのことをバカにし続けていましたよ?」

 

「……それもそうね」


 ふぅっと、一息紅茶をあおった彼女はいつもの人のよさそうな笑みを浮かべ直した。


「リリアーナ様。許可もなく勝手に魔法を使ってしまい、申し訳ございませんでした」


「私も少々頭に血が登っていたわ」


 これでひとまずは彼女の怒りは収まったのだろうか。


 まぁ、そもそも私がそんなことをしなければよかった話だから、何も言えまい。


 ……でも、あの状況で魔法をほぼ使わないと言うのも、難しかった。


「それにしても、カトリーヌ様はお忘れになったのかしら? 初めての顔合わせの時、アキレアにコテンパンにやられたこと」

 

「恐らくですが、あの場で私が魔法に関して秘匿したことが原因でしょう」


「才能がないと勘違いしたのね……」


 いつも、ロワゾー様の前で魔法を使うときは、使っていることを悟られないように注力していた。


 それが公爵、学園長――ひいては国王陛下からの命であったから。


 まぁ、今回はそれが裏目に出てこんな事態になってしまった。

 これからはもっと上手く誤魔化さねばならない。


 今からもうすでに胃が痛い。

 

「それで……どうして、ヴァレリー様があそこでそわそわしているの?」


 リリアーナ様が扇子で指す方には、その巨漢を一生懸命縮ませながら、チラチラと私の様子を伺うヴァレリー様。


 彼はあれで隠れているつもりなのだろうか?

 通りがかった生徒たちがみんな、彼の異様な様子を見て二度見している。


 彼女が頬を引きつらせるのも無理はない。


「あぁ、それは確か……」


 決闘場から控室へ戻った時のことだった。


 両手に傷がついてしまったから、応急処置のための魔法薬と包帯を探していたのだ。


 その時も彼は粗相をしてしまった犬のように、落ち込みを隠せていなかったことを思いだす。


 まぁ、ここまでは問題ではないのだが、あそこまで沈んだのはその後のこと。

 

 王女殿下が私たちを探しに控室へいらしたとき、彼女は見てしまった。

 ――掌に赤い線の走る私の両手を。

 

『元凶は妾に間違いない。決闘をせよと言ったのは確かに妾じゃ。だからと言って、本当の戦場さながらの戦いをせよとは言っておらぬだろう』


『全く、ぐうの音も出ません』


 状況を理解した彼女が、ヴァレリー様に容赦なく扇子で頭を叩いたときは本当に驚いた。

 

 その後、彼女が必死に謝りながら薬を塗ってくれたから、こうしてリリアーナ様へ紅茶を淹れられているのはここだけの話。


「あの後散々王女殿下に詰められていたのと、私の手の傷を見たからですね」


「ちょっと待って。アキレア、手を怪我したの?」


 ば、バレちゃった。これじゃ、芋づる式に大剣を素手でつかんだこともバレちゃう。


 怪我したことを隠したくはないけど、素手でつかむなんて馬鹿な芸当をしたことがばれるのは恥ずかしい。


 あと、意外とリリアーナ様、力が強い。

 

「大丈夫ですよ。もう治っておりますので。業務には支障はありません」


「私が言いたいのはそう言うことじゃないわ」


 ぷくぅっと頬を膨らませた彼女は、扉からひょっこり顔を出すヴァレリー様に視線を向ける。


 にやりと口角を上げる様子に嫌な予感がする。

 

「ヴァレリーさん、そこで見ていないで出てきてくださる?」


「は、はい。承知いたしました」


 有無を言わせないリリアーナ様の笑みは、英雄すらも震えさせるのか。


 のそのそと部屋の中へ入ってきた彼はその大きな体を更に縮ませる。


 よほど居心地が悪いのか、バツの悪そうにクロウの方を見る。

 ただ、クロウも気まずさからか唇をキュッと締めて、点を仰ぐ。


 この間、誰もが何も言うことができない。

 

「あなた、いくら不可抗力ではあったとしてもやってはならぬことをした自覚はおありで?」


「……あります」


 穏やかに笑いながら、扇子を彼の顎へ当てるリリアーナ様。


 とても麗しいと思う一方で、彼女に逆らってはならないと言う圧を感じる。


 こう言うところは本当にお父君である公爵様にそっくりだ。

 2人とも表ではニコニコ笑みを浮かべていても、その腹の中は分からない。


 クロウを見て見よ。決して自分へ向けられているわけじゃないのに、白目を剝いている。


 ……あれ、気絶していないか?


「なら、いいわ。……私、教室へもうそろそろ行かないと」


 そう部屋の外へ出る彼女は、ヴァレリー様の肩に手を置いてこう言った。


「――代わりにアキレアを医務室まで連れて行って下さる?」

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