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姫様ではなく、執事です!!~遊学に来た隣国の英雄にずっと言い寄られています~  作者: ほっとけぇき


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第6話 ヴァレリー様との決闘は本当に骨の折れるものでした

「本当にどうしてこうなったのでしょう」

 

「王女殿下は思い付きで行動しすぎることがあるからな……」


 お互いに苦笑いをしながら、遠い目になる。

 

 全員分の自己紹介を終えた後、フラン殿下が宣言なさった通り、私とヴァレリー様は決闘することになった。


 しかも、わざわざ決闘場を貸し切ってやることになったのだ。


 同じ教室の者たちの前で戦うだけならまだよかったけど、決闘場となると他の学年や学科の方たちも来るじゃないか。


 ……あぁ、本当に頭が痛くなってきた。

 

「あなたはそれだけで済ましていいのですか?」

 

「まぁ、言わんとすることは分かる。あんまり貴族の礼儀を理解していない俺でも、『ぶっ飛んでんな』って思うことはある」


 思うことがあるのならどうして止めないんだ。

 快活な笑い声で「ハハハ!」って、笑い飛ばしていいことではないだろう。


 あ、でも、『ぶっ飛んでいる』のはヴァレリー様も一緒か。


 入学式の前の、あの騒ぎの時の彼を諫めていたのは、彼女の方だったことを思いだす。

 

「俺は王女殿下の提案にちょっと感謝しているよ」


「え? それはどうして……」


 そこまで言いかけて、止まった。わざわざ聞かなくても、彼が何を思っているのかを理解してしまったから。


 穏やかな太陽のような瞳は、今や爛々と炊き上がる炎のように輝く。

 

 その中に映るは、今から戦う私の姿のみ。それ以外は一切映っていない。


『今、自分は狩られる側なのだ』と思うと、レイピアを持つ手に力が入ってしまう。


「せっかく戦えるのなら強い人と戦いたいからね。今回はそのチャンスが巡ってきて嬉しいんだ」


「……へぇ、私が強いと思われているんですね」

 

 まだ、彼の前では戦う姿を見せたことがないはずだ。

 それなのに、どうしてここまで自信満々に私を強者認定できるのだ。


 自分で言ったらなんだが、かなり体の線は細い。『剣を持つのも一苦労そうだ』と笑われたこともある。


 そんなことを言った者たちは全員吹っ飛ばしたけど、それでも『まぐれだ』と言われることが多い。


 彼は一体なにで私の実力を判断しているんだ?

 

「あぁ、そうさ。じゃなけりゃ、魔法の天才と呼ばれるメギストス君と平然と話なんかできないだろう?」


 ……ぐうの音も出ない事実だ。よくもあの短時間で、クロウの人となりを理解している。


 クロウは自分と何かしらの”対等”なものを持たない人間とは関わりたがらない。

 それは過去の経験からか、彼が人に対して無頓着であるかは知らない。


 でも、彼にとって私は何かしら”対等”であったから、それなりの関係を続けられているのは事実だ。


 そこから判断するとは思わなかった。

 

「御託はいいさ。それじゃ、決闘を始めようか」


 彼が静かにそう告げた瞬間、決闘の始まりを知らせるようにロベール先生が旗を振り上げた。


 最初からいきなり攻撃を仕掛けるわけではないみたい。かく言う私も仕掛けるつもりは無いが。


 決闘の制限時間は15分。そこまで時間があるわけではない。

 今の時点で3分が経とうとしている。


「君が先に攻撃を仕掛けようとする様子が見られないからね。……俺が先に行かせてもらうよ」

 

 身体の重心を下にずらした?! 彼の体格を考えてみれば、上から攻撃する方が戦いやすいだろうに。


 狙いは私の懐か。まともに一撃が入ってしまったら、確実にバランスが崩れる。

 

 ――だから、わざわざ身をかがめているのか。


「くっ、相殺しきれない。押される……」


「すごいね。初手から勝ちに行こうと思ったけど、見切られてしまった」


 がっかりしたように言っているけど、口角が上がっているのは見逃さない。


 しくじった。ここで攻撃をまともに受けておくべきだったか。

 

 今のを受け止めたせいで、彼がすっかり本気になってしまったようだ。


「多分、その反応速度は魔法じゃないよね? 素の身体能力だとしたら、やっぱり君は強者じゃないか」


「誉め言葉をどうもありがとうございます」


 もう引き攣った笑みしか浮かべられないわ。


 彼は私の反応速度を称賛するけれど、私から見れば彼の攻撃速度は恐ろしい。


 2m近い体躯であるのにも関わらず、その攻撃速度は私のレイピアを打ち込む速さとほぼ同程度。

 

 一秒間につき3回大剣の斬撃が差し迫っているのだ。

 しかも、重量がしっかりと乗り切った攻撃なのも厄介。


「あっ、レイピアにひびが……」


 どうしよう。やはり致命的に武器の相性が悪すぎる。

 

 大剣とレイピア。重さ重視と速さ重視。

 この2つの武器が何もかも最悪の形でかみ合っている。


 かくなる上は拳で攻撃するか? 防御魔法を使えば、ある程度は耐えられるはず。

 

「君からは攻めてこないの? 俺は見られるなら君の本気が見たいな」


「……私はちゃんと本気ですよ」


 攻められる余裕があったら、私だってちゃんと攻めている。

 今のこの状況で本気じゃないわけがない。


 一瞬たりとも手を抜けない状況で、『本気じゃない』って言われるとはらわたが煮えくり返りそうになる。

 

「でも、考える余裕はあるんでしょ? それに、まだまだ()()()がありそうだし」


 彼の言う『本気』って、魔法を見せろと言う訳なのか。


 確かに、何もしないわけには行かないと言うのは事実だ。

 そもそも、この決闘を始めたきっかけはロワゾー様に私が木偶でないことを証明すること。


 それを証明するためには私は全力を出すほかあるまい。


「切り札があっても、そう簡単に見せられるわけじゃないですよ。あなただって、別に全部は見せていないでしょ?」


「……それは確かに言えているね」

 

 表向きは納得したような顔を見せるけど、確実に魔法を使わざるを得ない状況に追い込もうとしている。

 

 別に一般攻撃魔法が使えないと言う訳ではないけど、通常よりも半分程度の力しか出ない。

 

 ……かといって、隠せって言われている魔法を堂々と使うわけには行かない。


「本当にいいんですね?」


「あぁ、見てみたいんだ。君の本気を」


 彼の瞳は子供のように無垢で、キラキラと好奇心を輝かせる。


 正直理論では可能だってずっと前から知っているけど、実際にやるのは初めてだ。


 ほぼ確定でクロウには見破られてしまうんだろうな。

 まぁ、後で上手いぐらいに口止めしておこう。


【フレイム・ランス】


 炎の中に槍を()()()させて、彼の元へ飛ばす。

 見た目は完全に本物の【フレイム・ランス】を再現できた。


 ――これなら、満足できるでしょう?

 

 「……やっぱり君はすごい力を持っているじゃないか!」


 彼の頬には一筋の汗が流れる。この戦いが始まって、一滴も流れていなかったのに。


 今の魔法の攻撃で、確実に彼の余裕を崩すことが出来た。もっと崩すことができれば、勝機があるかもしれない。

 

 ――ただ、そうするのは難しいだろう。

 

【ロック・チェーン】


「今度は拘束かい? さっきよりも攻め方が激しくなってきたね。結構ひやひやするよ」


 あと残り3分だと言うのに、疲れている様子が全く見られない。

 

 むしろ、ここに来てさらに耐久力が上がっているような気がするのは、絶対に気のせいじゃない。


 ――こっちは体力をごっそり持ってかれて、へとへとだって言うのに。

 

「じゃあ、これで勝負をつけようか」

 

 しまった。彼の大剣が眼前に迫ってくる。このままでは避けきれない。


 あと1分なのに、ここで私は負けてしまうのか? せっかくここまで10分以上戦い続けたのに?


「えっ、受け止めちゃうのかい? しかも素手で?」


 本当におかしいのは分かっている。

 どんな人間でもこの状況に目を丸くするだろう。


 あぁ、両手から僅かに血が流れてきている。あとで治癒魔法をかけて直さないと。


 でも、その前に最後の一発を――

 

「そこまで」


 ピシャリとした声と共に、合図を知らせるための赤い旗が私と彼の間に入る。


 その持ち手であるルーカス先生の手には0を差した時計があった。


 これはつまり……。


「勝負の結果は引き分けだ」


 引き分け。隣国の英雄に対して、引き分けと言う結果は悪くない結果ではないだろうか?


 まぁ、でもこの戦いの真の価値はそこではない。


「……ふん!」


 観客席の歓声に交じって、悔し気なそんな声が聞こえる。

 

 その声の持ち主はやはりロワゾー様だった。


 もし、この結果を見てもなお、私を木偶の棒でしかないと思うなら救いがないが、そこを判断はできたんだな。


「アキレア、手を貸そう。ここまで激しい決闘だったんだ。立ち上がるのにも一苦労だろう」


「ありがとうございます、ヴァレリー様」


 彼の言う通り、立ち上がるのには少々きつかったから本当に助かった。


 足が震えて、生まれたての小鹿みたいになってしまった。


「やっぱり君と戦えてよかったよ」


「……そうですか」


 まぁ、彼にも満足してもらえたのなら御の字だ。元はと言えば、私たちの諍いに巻き込んでしまったようなものだし。


 ……何かを忘れているような気がする。


「あっ、これは非常に不味い」


 観客席の方にリリアーナ様がいる。ここまでならいいだろう。


 今の彼女は開いた扇子で左耳を覆いながら、ニコニコと微笑んでいる。


「お昼休みになったら、すぐに行かなくてはなりませんね」

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