第9話 入学したばかりなのに『武闘大会』はちょっと早くないですか?
「今からこれを回すからみんな目を通してくれ」
ヴァレリー様が顔を洗いに行くのを見守ったルーカス先生は、1枚の板を取り出す。
小さな黒板に書かれた文字を見た前の席の人たちは大きく目を見開いた。
「はーい。……って、『武闘大会』?」
「どれどれ。うわぁ、本当だ。こんな早い時期にやるのか?」
ちょっと引き気味でそう呟いた彼らは、「正気か」と言わんばかりに教壇に立つ先生を見つめる。
まぁ、ここは魔導騎士科。
遅かれ早かれ戦闘を行うことになるとは思っていたが、まさか入学してすぐとは……。
「あぁ、その通りだ。この『武闘大会』は他学年との交流及び、クラスの仲を深めるために行うものだからな」
なるほど、そう言う理由ならば納得できる。
人との交流を深める方法は実に多彩なものだ。
魔法や剣を用いた戦闘方法を学ぶために来ているこの科の生徒にとって、武闘大会は確かに理にかなっている。
だからと言って、入学してすぐはちょっと早すぎるとは思う。
「あと、2,3年は一年間で学んだことの確認も兼ねている」
「えぇ、そんなの勝負にもなんねーじゃん」
生徒たちの言う通りだ。
『一年間で学んだことの確認』って、言うなれば成績評価にも関わってくる可能性があるわけだろう?
そもそも上級生が手を抜いてくれるとは限らない話だが、本気で掛かってくるのは確定じゃないか。
「それは案外わかんないぞ。戦う相手との相性とかもあるからな」
魔法や武器の相性によっては、有利に立てる可能性は確かに高い。
ただ、相手がその道の達人とかだとしたら、相性なんて関係がなくなる。
その場合にどう対処できるのかも、カギになってきそうだ。
「今回の大会では個人戦と4人組のチーム戦の2つが行われる。だから、個人戦で実力を発揮できなくてもチーム戦では活躍できる可能性があるんだ」
結構面白い仕組みだ。
どんな魔法や武器の使い手でも活躍できる可能性の場を提供している。
例えば、後衛での支援が得意な生徒であれば、チーム戦で輝く。
逆に、隠密などに秀でて、個人で戦うことを得意とする生徒であれば、個人戦で輝く。
これなら確かに『案外どうなるのか分からない』のは確かだ。
「今年はどうなるんだろうな。去年は個人戦で、一昨年はチーム戦で1年は実力を振るっていたぞ」
へぇ、学年ごとで大きく特色が出るのか。
なんとなくだけど、今年は個人戦で活躍する生徒たちが多い気がする。
ヴァレリー様やクロウのように一芸特化型の生徒が多いから。
「ちなみにこの大会で活躍できれば、騎士団から声がかかる場合がある。そっちの方で職を探したいのなら、本気で頑張れよ」
想像以上に大事な大会じゃないか。それを先に言って欲しかった。
まぁ、先生の言葉で皆が士気を上げているから良いのか?
「ここまでで何か質問はあるかー?」
「はいはーい! ルーカス先生、このチームってどうやって組むんですか?」
「このクラスの中で組む分には自由だ。他クラスの奴とは組むなよ」
大会の目的にも『クラスの交流』があるし、当然と言えば当然か。
「あと、ついでに言っておくが、デュラン、ロペス、メギストスが入っているチームは、初手で3年と当たることは確定だ」
ちょっと流石にそれは理不尽すぎないか?
まだ、ヴァレリー様やクロウのように実績のある2人は分かるけど、どうして私まで……。
私はフローレス家に仕えるちょっと剣と魔法の仕える執事だぞ。
「はぁ?! 個人ならまだ分かるけど、チームでそれは酷くねぇ?」
「……学園長からの意向だ。文句があるのならあの方に言ってくれ」
大きくため息をつきながらそう話すルーカス先生の瞳は、どんよりと曇っていた。
「とにかく、今から授業の時間の終わりまでを使ってチームを組めよな」
これは厄介なことになった。ここは手っ取り早くクロウたちと組んだ方がいいのだろうか?
私たちと組みたがる人はきっといないだろうし。
そうと決まれば、クロウに声を掛けに行こうか。
「ねぇねぇ、デュランさん? だっけ。よかったらうちとチーム、組んでもらえへん?」
下の方で緩く巻かれた縦ロールのツインを揺らしながら、一人の少女が私へそう告げた。
「……あなたは、モルガーヌ・クロワソントさん」
「せやで~。よく覚えとったなぁ。我ながら影が薄いと思うとったんやけど」
「いや、自己紹介で商売を始めようとしていらしたので、印象に残りましたよ」
本当にあの時はポカーンとだらしなく口を開いてしまった。
なにせ、あの時いきなりバスケットを持ってきたと思ったら、そこからパンを取り出して配りだしたのだから。
――だから、彼女のことは良くも悪くも覚えている。
「それで、チームのことなんやけど、どう?」
「1つお聞きしたいのですが、私と組むと必然的に3年生と当たることになりますよ?」
恐る恐る聞くと、彼女は怯むどころか快活な声で笑い飛ばした。
「かまへん、かまへん。むしろ、それがええんや!」
「え?」
素っ頓狂な声を出した私を横目に、彼女は拳を握りしめる。
その橙色の瞳の中にはメラメラと熱意が燃え上がっているのがよく見えた。
「3年に叩きのめしたい奴がおるんや!」




