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姫様ではなく、執事です!!~遊学に来た隣国の英雄にずっと言い寄られています~  作者: ほっとけぇき


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第4話 結局、どうしてクロウのやつは私を鈍感だって言ったんだ

「はぁ、私だけリリアーナ様とは別……」

 

 今日は本格的な授業が始まる日。

 フローレス家の執事として恥じぬ姿でないといけないが、やはり気が滅入る。


 結局、あの後に学園長へ直接異議申し立てをしたが、一切通らなかった。


 どんなことを言ってものらりくらりと躱されて、全く聞く耳を持ってもらえなかったのだ。


『まぁ、報連相をなさらなかった学園長が全部悪いですが、デュランさんの学科変更は難しいですね』


 頼みの綱と言える副学園長にもこういわれてしまったからには、もう諦めるしかない。


 さっきから廊下を歩いていて、ひそひそ話が耳に入るのがより憂鬱にさせる。


 声が聞こえるようになったのは、リリアーナ様を政務科の教室へ送ってからだ。

 

 政務科ではリリアーナ様と別学科になった私を心配するような声ばかりだったが、ここで響くはわざとらしい嘲笑だ。

 

「教室に誰かいる? こんな早い時間に来る方もいらっしゃるのですね……」


 教室の扉に手をかけると、扉の向こうから何かを書いている音が耳を掠める。


 聞こえる音的に文字と言うよりも何かの絵な気がする。

 

 それにこのブツブツ声はあの人か……。

 

「あら、珍しい。あなた、確か朝にはあまり強くありませんでしたよね、クロウ様」

 

「誰かと思えば、注目の人なアキレアじゃん」


 揶揄うように声を掛けてきた男は、相変わらず見た目に無頓着だ。


 光を吸い込むような漆黒な髪はぼさぼさの状態で結ばれて、瑠璃色の瞳の下には濃い隈。


 彼が制服を着ていなかったら、明らかに流浪者しか見えなかっただろう。


「あなた、もう少し見た目を整えられては?」


「本っ当に、お前は俺に辛辣だな!」


 おやおや、先に煽られたのはそちらの方じゃないですか?

 

 教室に入ってきたとき、真っ先に煽りましたよね。

 

 げんなりした顔でこちらを見られても、肩をすくめたいのは私も一緒ですよ。

 

「お前、おや……学園長から聞いたけど、政務科に入るって勘違いしていたって?」

 

 本当にあの学園長、1度副学園長に本格的に絞められた方がいいのでは?


 まぁ、こそこそ噂話をされるよりも、こうやって直接言われた方がましではある。


 ただ、1つ訂正させてほしい。

 

「……勘違いしていたというよりも、勝手に変えられたんですよ」


 私が書類を書いたときは『政務科』で提出した。

 これに関しては、雇い主であるフローレス公爵も確認済みだ。


 だから、断じて私が勘違いしていたわけではない。


「とんでもねー職権乱用だな、親父。それはお前がキレても仕方ねぇわ」


 分かってもらえたのなら、それでいいのだ。


 教室に入って最初に入って会ったのがクロウでよかった。


 学園町のちゃらんぽらんな姿を知らない人へ言ったところで、到底信じてもらえなかっただろう。


「そう言えばさ、なんでアキレアはあの英雄くんに『姫様』って呼ばれていたんだ?」

 

 あなた、そう言う話に興味があったのか。


 てっきり魔法にしか興味がないと思っていたが、さっきの様子を見るに噂話は好きなのだろう。


 もしかしたら、私を揶揄う材料を探しているのかもしれない。


 昔はリリアーナ様と殿下に嘘か本当か分からない話をするのが好きだったから。

 

 成長してからは、2人から反撃されるようになったから、全くやらなくなっていたけど。

 

「それは……私が彼の本当の生まれ故郷の姫様にそっくりだったらしいからです」

 

「へぇ、そんな理由だったのか」


 彼にしては珍しく、やけに静かな口調だ。


 何か癪にでも触ったのだろうか?

 でも、癪に障ったにしては、悟りを開いたような顔をしている。


 と言うことはもしや……。

 

「一つ言っておきますけど、彼だけではなくフラン殿下も大変驚かれていましたからね」


「あの英雄くんだけならまだしも、王女殿下までおっしゃられるとみると案外空想でもなさそうだ」

 

 ふっとため息をついた彼は、私に対して苦笑いをする。


 あれ、何か違ったのだろうか?

 てっきり彼が「そんな世迷言を真面目に言うなんて、こいつ馬鹿か?」と思っていたと予想していたのだけど。


 視線が「そうだけどそうじゃない」と言っている。


「……って言うか、この短時間で仲良くなりすぎじゃね」


 あっ、話を露骨に逸らした。

 じっと視線を向けたらバツが悪そうに、顔を背けた。


 彼はよく私に「分かりやすい」と言うが、大概同じようなものだと思うぞ。

 

「そうでしょうか? まだそこまで仲良くないとおもうのですが……」

 

「お前な……」


 だから、なんでちょっと引き気味で対応するのだ。


 別に今言ったことは、特段おかしなことではないはずだ。

 

 仲良くなると言うのは、会った時によく話すようになったり、一緒に勉強をするようになることを言うのだろう?


 私たちがやったのは精々友好の意を込めて握手をしたぐらいだ。


 そんなに可笑しいことはないはずだが……。


「ア・キ・レ・ア~!」

 

「ウグゥッ! いきなり抱き着かないでください、ヴァレリー様!」


 噂をすれば影とやらだ。

 同じ教室なら遅かれ早かれ会うことにはなっていたけど……。


 やはり思い切り抱きしめられるのは、く、苦しい!


 一生懸命彼の丸太のような腕を叩いているけど、ほどける予感はない。


 ……と言うか、そこで見ているなら助けてくれ、クロウ!

 何だ、その「俺の言った通りだろ」と言わんばかりのドヤ顔は。

 

「えへへ、ごめんね。――ところで彼は誰なんだい?」


 うわぁ、とんでもなく目が据わっている。

 私と話しているときは飴玉のように甘い瞳を向けるけど、今の彼は狩人みたいだ。


 どうして、いきなりこんなに警戒し始めたのだろう?


 あっ、そっか。クロウが胡散臭いからか。

 全身真っ黒くろすけなのは、どう考えてみても普通にはみえないからな。


「彼はクロウ・メギストス。ここの学園長の義理息子です。魔法の扱いに秀でていて、彼の右に出る者はほとんどいません」


「よう、英雄くん。改めて俺はクロウ・メギストリス。そこにいるアキレアとは親父のことで愚痴を言い合う仲だ」


 愚痴を言い合う仲って……、間違ってはいないか。

 一緒に魔法を鍛えたりすることもあるけど、大半の話題は学園長への愚痴であるのは事実だ。


 だからと言って、初対面のヴァレリー様に向かってそれはどうなの?

 

「へぇ、そうなのかい?! 俺はヴァレリー・ロペス。魔法にはあんまり秀でていないから羨ましいよ」


 あれ、意外とあっさり受け入れられた?


 さっきまで彼が見せていた殺気のようなものは消え失せているようだ。

 

 彼と握手をしたクロウは疲れ切っているけど、別に嫌ってはなさそうだし、良かった良かった。


「アキレア、お前。あの()()を見てそれなら、流石にちょっと鈍感すぎないか?」


 憐れみを孕んだような目でそんなことを言った彼は机に突っ伏す。


 いや、別に鈍感ではないだろう。私の判断は、今回は間違っていないはずだ。


 何か1つ文句でも――


「うーッし、これから朝礼を始めんぞ」


 あぁ、もう本当にタイミングが悪い。

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