共鳴する魂、銀河の雷
「無駄だ、無駄だ! 斬れば斬るほど、浄土の泥は貴殿らを搦め取り、その霊力を吸い上げる!」
ビルの屋上で高笑いする芦屋道定。その言葉通り、四条通の足元から伸びる黒い蓮の蔦が、朔夜の足首に絡みつこうと蛇のように這い寄る。朔夜の放つ黄金の雷光は、その凄まじい出力ゆえに、既に彼の肉体を内側から焼き始めていた。
「……兄さん、もう限界だよ! それ以上霊力を使ったら、身体が持たない!」
白妙の背で、蓮真が悲痛な叫びを上げた。朔夜の視界は既に血に染まり、握りしめた刀からは嫌な熱が伝わってくる。
「……案ずるな、蓮真。俺の命など、この都を守るための『対価』に過ぎない。……だが、俺独りでは、あの高みの外道には届かん!」
朔夜が膝を突きかけたその時、白妙が猛然と地を蹴り、朔夜の隣へと並んだ。
「……情けないわね、土御門の嫡男。この程度で果てるつもりなら、蓮真の隣に立つ資格はないわ」
白妙の九つの尾が、朔夜を囲むように展開される。白銀の冷気が、朔夜の過熱した肉体を強制的に鎮めていく。
「……チッ、余計なお世話だ、狐」
「うるさいわね。……いい、蓮真。お前の力を、この男の『雷』に流し込みなさい。混じり合わぬ二つの極致を、お前の『白銀』で一つに束ねるのよ!」
蓮真は頷き、白妙の背から身を乗り出して、朔夜の背中にそっと手を添えた。
「……兄さん、僕も一緒に背負うよ。土御門の呪いも、京都の未来も……全部!」
その瞬間、四条河原町の交差点に、見たこともない色彩の光が溢れた。
朔夜の「黄金の雷」と、蓮真の「白銀の霊力」。
本来なら反発し合い、爆散するはずの二つの強大な力が、兄弟という絆を媒体にして、静謐にして激烈な「銀河の雷鳴」へと変質していく。
「……何だと!? 術式が……融合しているだと!?」
初めて道定の顔から余裕が消えた。
上空では、その光に触発されるように一反木綿と小鞠が最後の露払いに動く。
「おい、この光……坊っちゃんとあの堅物が、マジで一つになりやがった!」
「見惚れている暇はありませんわ! 逃げ惑う雑兵どもを、一人残らず掃除いたしますわよ!」
一反木綿が閃光を纏って敵陣を切り裂き、小鞠が影の牢獄で道定の退路を断つ。
「行くぞ、蓮真! これが……俺たちの、最後の術だ!」
朔夜が立ち上がり、刀を天へと突き上げた。
「土御門・秘儀――『銀漢・雷霆』!」
四条河原町から放たれた一筋の巨大な光の柱が、夜空を覆う「逆五芒星」を真っ向から貫いた。道定が立っていたビルの屋上は、その衝撃で粉々に砕け散り、偽りの極楽浄土を維持していた術式が、ガラスのように音を立てて崩壊し始める。
光が収まった後。
煙が立ち込める四条大橋の袂に、道定はボロボロになった狩衣をなびかせ、膝をついていた。その瞳には、恐怖ではなく、狂おしいほどの歓喜が宿っている。
「……素晴らしい。素晴らしいぞ、土御門の兄弟! 貴殿らこそが、我が浄土の完成に必要な、最後のピースだったのだ!」
道定の背後から、さらに巨大な「何か」が這い出そうとしていた。
決戦は、ついに最終局面へと突入する。




