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四条の死闘、雷鳴と狐火

 四条河原町の交差点。かつては流行と喧騒の象徴だったその場所は、いまや芦屋道満が作り出した「偽りの極楽」の最深部となっていた。

 アスファルトの隙間からは、人々の絶望を吸い上げた黒い蓮が急速に成長し、ビルの壁面を侵食していく。空に浮かぶ道満の嘲笑が、呪霧となって一行の肺を焼いた。

「来るがいい、安倍の末裔たちよ。我が浄土の門番たちが、貴殿らのごうを裁いてくれる!」

 芦屋道定が指を鳴らすと、四条大通りの東西から、黒い霧を纏った武者たちが一斉に抜刀した。土御門が歴史の影で葬り去ってきた怨霊たちの、成れの果てだ。

「……フン。死んでまで組織の駒か。反吐が出る」

 朔夜がリッターネイキッドを捨て、一歩前へ出る。その足元で、愛車のエンジンが「カチ、カチ」と熱を冷ましながら、役目を終えたように静まり返った。


 朔夜は愛刀を抜き放ち、左手でその刀身をなぞりながら、低い声で呪文を紡ぐ。

謹召きんじょう――。東方に帝釈天、西方に阿弥陀如来……雷電を以て、一切の不浄を焼き払え!」

 刀身に刻まれた呪紋が黄金の光を放ち、周囲の空気がパチパチと放電し始めた。刀を依り代として、神域の雷を現世に固定する高度な陰陽術。

「土御門流陰陽術――『雷威らいい天断てんだん』!」

 一瞬の閃光。朔夜が刀を振り抜くと同時に、巨大な黄金の雷撃が扇状に広がり、迫りくる黒い武者たちを術式ごと消滅させた。

 だが、道定の守護は厚い。消滅した端から、足元の「肉の絨毯」から新たな異形が湧き出してくる。

「白妙! 蓮真を頼む! 左右の雑兵は任せたぞ!」

 白妙は返事の代わりに、九つの尾を激しく波打たせ、青白い狐火を周囲に展開した。

「行くわよ、蓮真。私の背を、命の限り掴んでいなさい!」

 白妙が巨大な白銀の影となって左翼へと突っ込む。蓮真は白妙の毛並みに指を沈め、右目の「白銀」を解放した。

「……僕は、誰も死なせない! 芦屋の思い通りにはさせないんだ!」

 蓮真の瞳から放たれた白銀の輝きが、白妙の狐火と混ざり合い、凄まじい衝撃波となって異形たちを霧散させていく。上空では、一反木綿が小鞠を乗せ、ビルからビルへとジグザグに急降下を繰り返していた。

「おい猫公、振り落とされるんじゃねえぞ!」

「誰に向かって言っていますの! 貴方は黙って、わたくしの通り道になりなさい!」

 一反木綿は鋼鉄のような硬度で敵を切り裂き、その背から小鞠が弾丸のように飛び出して敵の影を爪で抉る。朔夜との連携など微塵も考えていないが、彼らが暴れれば暴れるほど、朔夜の前の道は確実に開かれていった。

「……はあぁぁぁっ!」

 朔夜は止まらない。黄金の霊気を全身に循環させ、次々と襲いくる怨霊の群れを「雷」で焼き切っていく。

 だが、呼吸は既に荒い。繖山からの連戦、そしてボロボロの体で強行突破してきた代償は、確実に彼の動きを蝕んでいた。

「兄さん、右!」

 蓮真の声に、朔夜が反射的に刀で防御障壁を展開する。

 巨大な異形の爪が黄金の光とぶつかり、火花が夜の京都を照らした。

「……くっ、まだだ……! この程度で、土御門の嫡男が止まれるか!」

 朔夜の背中で黄金の霊気が爆発的に膨れ上がり、雷鳴が四条河原町を揺らす。彼が背負っているのは肩書きではなく、千年続く「表」の矜持そのものだった。

 それと呼応するように、蓮真の白銀の光も輝きを増していく。

「二人同時に来るか……。面白い、実に面白いぞ! 安倍の血が、互いを高め合っている!」

 道定はビルの上で扇を広げ、歓喜に満ちた声を上げた。

 

 激突する黄金の雷術と白銀の霊力。そして、それを取り巻く妖怪たちの狂乱。

 四条河原町の交差点は、現世の理が完全に崩壊したまま、凄絶なる最終決戦の渦中へと突き進んでいった。


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