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都への帰還、狐の誓い

 多田神社の杜に立ち昇る、不吉な墨色の光。

 変わり果てた多田の術者たちの骸を背に、蓮真は立ち上がった。一反木綿は小鞠の手厚い加護を受けてなお、満足に空を飛ぶ体力は残っていない。

「……一度、京都の実家に戻ろう。近江八幡へ向かうには、どうしても都を横切らなきゃいけないし、今のままじゃ皆、戦えない」

 蓮真の言葉に、小鞠は痛々しく引き裂かれた自分の袖を見つめ、静かに頷いた。彼女もまた、能勢の呪霧を無理やり爪で切り裂き続けたせいで、霊力を激しく消耗している。


 その時、巨大な白狐の姿を解き、艶やかな女の姿に戻った白妙が、蓮真の隣にすっと寄り添った。

「都、ね。あんな澱んだ場所、私には似合わないのだけれど……。坊やが行くというのなら、付き合ってあげてもいいわ」

 白妙は長い指先で、蓮真の頬に残っていた煤汚れを優しく拭い取った。その仕草には、先ほどまでの圧倒的な威圧感とは違う、どこか湿り気を帯びた執着が混じっている。

「……白妙さん。貴女は能勢の主なんだろう? 川西まで送ってくれただけでも、十分感謝してる。これ以上、僕たちの危ない旅に付き合わせるわけにはいかないよ」

 蓮真が申し訳なさそうに視線を外すと、白妙はくすくすと喉を鳴らして笑った。彼女は蓮真の背後からその細い首筋に腕を回し、耳元で吐息を漏らす。

「勘違いしないで、坊や。私は貴方に『感謝』されたくてここにいるんじゃないわ。……私は、貴方のその魂に惚れ込んだの。これほど過酷な運命に晒されながら、一欠片も濁ることなく、どこまでも純粋に兄を想い続ける……。その眩しいほどの光を、私は最後まで特等席で見届ける権利を手に入れたいのよ」

 白妙の黄金色の瞳が、慈しむような、それでいて底知れない所有欲を孕んだ光を放つ。

「能勢の森なんて、もうどうでもいいわ。私が望むのは、貴方の隣という『居場所』だけ。……拒否しても無駄よ。私が一度決めたことは、天がひっくり返っても変わらないのだから」

「……本気、なんだね」

「あら、本気も本気。命がけの恋は、狐の十八番おはこよ」

 小鞠が「この、泥棒狐……っ!」と低い声で唸るが、白妙は柳に風と受け流し、再び巨大な白狐へと姿を変えた。

「さあ、乗りなさい。夜が明ける前に、その『実家』とやらに送り届けてあげる。……お兄様を追うのは、それからでも遅くないわ」

 蓮真は小鞠と、衰弱した一反木綿を抱きかかえ、白妙の柔らかな背へと跨った。


 白妙は一度、多田の空に向かって高く遠吠えを上げると、割れた猪名川の道を逆走し、亀岡を越え、再び京都の地へと向けて地を蹴った。

 夜風を切り裂き、白い稲妻が都へと駆け戻っていく。

 その背中で蓮真は、懐にある朔夜の愛車の破片を強く握りしめていた。

 たとえ四つの点が繋がってしまったとしても、兄さんが自分を責めていたとしても。

 最後の一つだけは、何があっても阻止してみせる。

 ――京都。

 暗雲垂れ込める都の空の下、蓮真たちは決戦を前に、一時、実家の暖簾をくぐることとなった。


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