白光の疾駆、狐の情愛
一方、能勢の険しい嶺を、巨大な白狐と化した白妙が飛ぶように駆けていた。
その速さは一反木綿の比ではない。まるで白い稲妻が山肌を縫うような疾走。しかし、その背に乗る蓮真に伝わる振動は驚くほど優しく、彼女の九本の尾が、走行中の風圧から蓮真を守るように柔らかな繭となって彼を包み込んでいた。
「……白妙さん、そんなに密着されると、前がよく見えないんだけど」
蓮真は、顔のすぐ横でゆらゆらと揺れる、毛並みの良い尾をかき分けながら言った。すると、白妙の艶やかな声が念話となって脳内に直接響く。
『あら、いいじゃない。貴方のその細い体、冷え切っていたもの。私の毛並みは、どんな高級な絹よりも暖かくて心地よいはずよ。それとも、もっと別の形で暖めてほしいのかしら?』
巨大な狐の姿でありながら、その言葉からは妖艶な微笑みが透けて見える。白妙はわざと速度を上げ、その衝撃を利用して蓮真が自分の首筋に縋り付くように仕向けた。
「わっ……!」
『ふふ、可愛い子。そう、離しちゃダメよ。貴方のその小さな手が私のたてがみに食い込むたびに、私の心臓がどれほど激しく跳ねているか……坊やには分からないでしょうね』
多田へと向かう道中、行く手を阻もうと立ち塞がる低級な魔や影の尖兵が現れても、白妙は止まることすらしない。
「邪魔よ、有象無象が」と吐き捨てるや否や、口から放たれる清冽な狐火と、鋭い爪の一振りで、魔たちは断末魔を上げる暇もなく消滅していく。その圧倒的なまでの蹂躙ぶりは、もはや戦いというよりは、愛する者との「散歩」を邪魔されたことへの不機嫌な排除に近かった。
ふと、白妙は走行中に一瞬だけ人の姿に近い幻影を蓮真の背後に生み出し、彼の耳元で囁いた。
『ねえ、蓮真。貴方の追いけているお兄様も、貴方と同じくらい素敵な魂をしているのかしら。……でも、ダメよ。貴方を最初に見つけたのは私。たとえ血を分けた兄弟であっても、貴方を独り占めする権利は、この白妙にあるのだから』
「白妙さん、今はそんなこと言ってる場合じゃ……。四点目が、多田がもうすぐそこなんだ!」
蓮真が焦燥を露わにすると、白妙は少しだけ寂しそうに、けれどより一層深い執着を込めて鼻を鳴らした。
『分かっているわ。……でも、その必死な横顔も、実に私を狂わせる。多田へ着いたら、まずはその『不吉な雷鳴』を私が黙らせてあげる。だから貴方は、私の背中でただ私だけを見ていればいいのよ』
能勢の山を越え、眼下に川西の街並みが見え始める。
その中心、多田神社の周辺には、すでに巨大な五芒星の結界が発する、吐き気がするような「墨色の光柱」が立ち昇っていた。
白妙は歓喜と独占欲に満ちた遠吠えを一つ上げると、地を砕くような勢いで、血塗られた戦地へと躍り出た。




