元木 19 6/1·2 月·火
6月1日はep.20鈴山、ep.28〜32佐々木7〜11と同じ日です。
6月1日月曜日の朝、越後に連絡を入れる。
【金曜日にも伝えたが、今日の放課後に部活の見回りを行う予定だ。なので佐々木が登校しているかどうかを知らせてくれ】
『わかりました』
1時間目の授業が終わると越後から連絡がきた。
『佐々木いるので説得お願いします』
【了解】
『それと真島がいると邪魔かもしれないので、あいつに今日は軽音部に来るなって連絡しておきます』
【任せた】
放課後、今日の活動は各部活の見回りだと皆に伝え、文化部担当を佐々木と俺、運動部担当を他5人に分けた。2対5でアンバランスに思われるだろうが、ここは押し通す。
まずは吹奏楽部、そのあとは演劇部と軽音楽部を残し、近いとこから適当に佐々木と2人で回っていく。
それぞれの部活は特に問題なく進み、いよいよ軽音楽部の番だ。
「軽音楽部、練習中すまないが邪魔するぞー」
「あ、生徒会長、こんちわー」
越後が最初に挨拶をしてきたか。
そしてバレないよう「元木先輩」ではなく「生徒会長」と呼んできた。
「ああ、練習中悪いな。3年は……いないか」
3年がいないのは計画どおりだが、弘和の友人の鈴山がいる。
あいつ軽音楽部だったのか。
邪魔にならなければいいが……。
「今日は俺たち2年の番なんで3年生は来てないですね」
越後がこちらへ近付いてきた。部室から出るのは流石に怪しいので、そのままさり気なく隅の方へ移動し、越後と会話を続ける。
「今日は俺たち2年の番なんで3年生は来てないですね」
「そうか」
越後とは知った仲だが、怪しまれないよう当然会話は淡白にする。
「部活の見回りですよね? 一応俺が副部長なんで話聞きますよ」
よし、その言い分なら怪しまれないな。
「ならまずは……」
「佐々木、こっち来い」
タイミングよく佐々木が向こうへ行った。
佐々木を呼んだ生徒の顔をチラッと確認する。以前スマホに真島から送られてきた写真の人物と同じだ。名前は知っていたが、近くで見るのはこれが初。あいつが真島と幼馴染の宮本か。
……【鼻くそ女好き】やはりこのイメージが抜けないな。
すまん宮本。
「部活内でなにか問題などはあるか?」
声のボリュームを落とし、最初は通常どおりの聞き取りを始める。
「あ、まずは普通にそういうこと聞くんですね」
越後がこちら以上の小声で返してきた。
佐々木たちとは少し離れていて向こうの声が大きいため大丈夫だとは思うが、俺ももっと抑えた方がいいか……。
実際越後先輩との会話は古賀先輩に聞こえてしまったので、あのときの二の舞いになってはいけない。
「一応それが本来の目的だからな」
「確かにそうですね。えーと、問題は俺たちのバンドのギター担当の奥井ってやつがビビリなことですかね」
真島·越後とのやり取りで奥井のことも把握はしている。どんな生徒かはほとんど知らないが。
「具体的には?」
「3年の先輩が怖いとか、体育館で演奏するのが嫌だって言ってました。今年の軽音部は体育館なんですね?」
「……体育館の情報は誰から聞いた?」
「宮本からです。えーと…………2年に高橋っていう演劇部のやつがいるんですけど、そいつが『文化祭で演劇部は体育館の代わりに武道場を使う』的なことを宮本に言ったみたいで、そのことを宮本が軽音部の先輩に伝えたら、先輩たちが『体育館使用の許可を生徒会長から貰った』って宮本に言ったみたいです。それを俺たちは宮本から聞きました。ついさっきですけど」
黙ってろって言ったのに、あいつら……。
情報ダダ漏れじゃないか……。
「……それあっちの2人も知ってるんだよな?」
「はい、奥井と1年の鈴山、あのツンツン頭のやつも知ってます」
「その情報あとで口止めしておけよ。本当はまだ秘密なんだからな」
「え、そうなんですか? 宮本からは特になにも言われなかったですけど……」
「佐々木が知ったら説得し難いだろ」
それと俺の独断で決めたことがバレるのもマズい。
こっちの理由はわざわざ言わないが。
「あ……そうですね……。今佐々木以外呼んで忠告しときます?」
「それは怪しまれるから駄目だ。それに言っている最中佐々木に聞かれる可能性もある」
「ですよね。今バラされたら……」
「言わないことを祈るしかないな。……それで他の問題などはあるか?」
「死活問題が1つありますね」
「なんだ?」
「2年のバンドも1年のバンドもボーカルがいなくてですね」
「確かにそれは死活問題だな」
「そうなんですよ。ということで元木先輩、これの解決をお願いします」
「勿論だ」
と冗談を言い合っていると、向こうの声のボリュームが大きくなり会話内容が聞こえてきた。
どうやら佐々木を取り合っているらしい。
「……これは……越後から相談された、という体ではなく、向こうの会話が聞こえたから、で成り立ちそうだな」
「ですね。そうしましょう」
佐々木が鈴山にグイグイ押されているので、助け舟を出すことにした。
「おい佐々木、もうそろそろいいか?」
実際はこのあと俺がグイグイ押すんだが。
生徒会室を後にし、佐々木の説得を試みる。
「あいつら友人か?」
「あ、はい、そうです」
「よかったな、いいやつらじゃないか」
「でも今少し困ってて……」
「ボーカルに誘われている件か?」
「え!?」
「すまん、そっちの話が聞こえてな」
普通に聞こえたからには、この話題に触れる怪しさなど皆無だ。
「そうですか……」
「引き受ければいいじゃないか」
「……人前で歌うのはちょっと」
……さて、真面目な雰囲気でゴリ押し開始だ。
「……できるだけ若い内にそういう経験をするべきだと思うがな。悪く聞こえたらすまんが、お前のようなやつは特にそうじゃないか? 菊池や真島を見習え。周りの顔色を伺う必要はないし、少しでもやりたい気持ちがあるのならやるべきだ。彼らもその方が喜ぶだろうし、生徒会の皆もお前の歌声を聴きたいだろう」
あいつらは自由過ぎるがな。
「でも文化祭中は生徒会としての仕事もあるので……」
隈坂先輩と同じ返しだな。
そんなのは効かん。
「残念ながらそれは言い訳にならん。俺自身が演劇部の助っ人をするからな。お前が文化祭で歌うのであればその時間帯はお前をフリーにする。これは俺やお前だけではなく、他の生徒会メンバーや文化祭実行委員にもそれぞれフリーの時間を与える予定だから気にするな。それに一昨年の文化祭で隈坂先輩は歌っていたぞ」
「え?」
「文化祭当日に隈坂先輩の友人で軽音楽部のボーカルの人が風邪をこじらせたらしくてな。それで歌が上手い隈坂先輩が頼み込まれていた。最初は渋っていたが結局押し切られて歌ったんだ」
押し切ったのは俺だがな。
「だが終わった後、隈坂先輩は頼んできた人たちととても楽しそうにしていた」
そのあとフラれたがな。
「……」
お、効いているか?
「お前はもっと自由に生きた方がいいだろう。お前が歌ったところで誰の迷惑にもならん」
茜が歌ったら迷惑にしかならんがな。
「……少し考えてみます」
「最後の演劇部には俺1人で行くからお前は先に生徒会室に戻っていろ。それとお前だけ昨日のゴミ拾いは別行動だったから、活動内容を生徒会日誌に少し付け足してくれ。俺が戻るのが遅いようだったら先に帰っていいからな。菊池たちにもそう伝えてくれ」
こんなものだろう。
これで駄目ならおそらく俺は力になれん。
結局ゴリ押しすることしか俺にはできないからな。
佐々木と別れ、演劇部が使用している視聴覚室へ向かう。
ガラガラ
「演劇部、邪魔するぞー」
中へ入ると、演劇部員たちは地べたに座って円になり話し合いをしていた。
「お、元木待ってたぞ」
部長の手塚がすぐに気付くと、他の演劇部員も「よう元木ー」だの「おう、この前の傷は大丈夫か?」だの、頭をペコリと下げたりなど、各々挨拶をしてきた。
助っ人を引き受けてから演劇部員に会うのは今日が初めてなので、少々戸惑っている部員もいる。
なので最初に手塚から演劇部について聞き取りを済ませたあと、自己紹介+ゴリラの全力ものまねで場を和ませた。それから自分も加わって文化祭の劇について話し合いを進める。自分が助っ人で参加するため変更点や修正箇所が出てきたからだ。20分程意見を出し合い、とりあえず今日はここまでということになった。
「今日はこんなもんか。元木の台詞量を増やすなら、まずは高橋待ちってことだな。本当に増やしていいんだよな?」
手塚が改めて確認をしてきた。
「ああ、大丈夫だ。台詞を覚えるだけなら家でもできるからな。それくらいは全然問題ない」
「元木生徒会長、1週間程お待ちください。面白い掛け合いを考えてきます」
「お前が脚本担当の高橋か?」
「はい、そうですが?」
「お前、演劇部が体育館から武道場に代わったことを軽音楽部のやつに喋っただろ」
「すみませんすみません、どうにも口が滑ってしまいまして……。何卒降板だけはご勘弁を……」
土下座をしてきたが、駄目なものは駄目だ。
しっかりと釘を差しておく必要がある。
「そのことはまだ口外禁止事項だからな! 全員気をつけろよ! それと来週火曜日にまた来る。それでは失礼」
視聴覚室を後にし、そのまま生徒会室へ戻る。
おそらく鍵はかかっていないだろう。茜がまだ待っているはずだからだ。
コンコン
「入るぞー」
「ちょっとコーイチ! 昨日の『ちんちん』は一体どういうこと!?」
なんで第一声がそれなんだ……。
他の誰かが聞いていたら誤解しか生まれないだろ……。
「お前な……そんなに大声でハッキリ言うなよ……」
「昨日何回も言ったんだから今更でしょ!!!」
それもそうか。
「あれは俺のイカサマをお前の番にもやっただけだ」
「じゃあなんでよりによって『ちんちん』なの!?」
「それはたまたまだ」
しまった、超くだらないジョークみたいになってしまった……。
「じゃあもしかして2回目も!?」
「あれはなにもしていない。お前の自爆だ」
「くそー……」
「菱川と常盤に言わせたんだから約束は守れよ」
「ま、コーイチも言ったしね。あれも面白かったなー! アハハハハ!」
「いいからさっさと運動部の報告をしろ」
「はいはーい」
翌日6月2日火曜日の放課後、生徒会室で佐々木から軽音楽部のボーカルを引き受けたことを伝えられた。
「そうか、頑張れよ」
決心したのであればもうごちゃごちゃ話す必要もない。あとはお前と軽音楽部の連中次第だ。
……いや、引き受けたなら情報は解禁だな。
それだけは早い内に伝えておくか。
「ちなみに今年の軽音楽部の演奏は体育館だ」
「え!? 軽音部って仮設ステージじゃ……」
明らかに動揺しているな。
「演劇部が体育館ではなく武道場で劇をやることになってな。代わりに今年は軽音楽部が体育館だ」
「会長! それいつから決まってたんですか!」
「さぁ? いつからだろうな、ハハハハハ」
俺が知ったのは先週月曜、武道場になったのは手塚曰く3週間前だ。わざわざ言わないがな。
佐々木がスマホで誰かに連絡をし始めた。軽音楽部の誰かだろう。佐々木がメッセージを送るとすぐに返信がきたので、スマホを後ろから覗いた。
『あのときはまだ体育館じゃなかった。んでその後体育館に変更になった。黙ってただけで嘘はついてない(笑)』
越後か。
あいつが知ったのは昨日なのに『俺も昨日知ったばかりなんだ。悪かった』などとは言い訳しないんだな。謝るどころか(笑)が付いている辺り、そんなことをする必要がないくらいには仲が良いということだ。
「ハハハハハ、友達付き合いはこういうこともあるから気を付けろよ」




