元木 12 内密
夏の部活見回りから10日後、夏休みに入る前に生徒会の仕事を区切りよく片付けるため日曜日に登校し割り当てられた仕事をしていると、生徒会室に1人の教師が訪れた。
コンコン
「入るぞ」
「風間先生、どうしたんですか?」
秋陽菜先輩が用件を伺った。
風間先生は佐々木の担任で、佐々木を生徒会に入るよう勧めたのも風間先生なのだと秋陽菜先輩が言っていた。
「悪いが1人手を貸してほしい。誰か草むしりを手伝ってくれないか? そこまで時間はかからないと思うんだが……」
風間先生が生徒会室にいる面々を1人ずつ見ていく。
今生徒会室にいるのは秋陽菜先輩と隈坂先輩と自分の3人だけだ。他の5人は校舎内を回り、掲示板や展示物などの確認をしていてこの場にはいない。
「光一君、お願いね」
「元木、頼んだ」
秋陽菜先輩が相変わらずニコニコしながら押し付けてきた。自分がやるつもりはこれっぽっちもないのだろう。
隈坂先輩からも『草むしりなんぞだるい』という気持ちが透けて見える。風間先生が「草むしり」と言った途端にやる気を出して机にかじりつき始めたからだ。
そもそもこの3人の中では自分だけが後輩なので従う他ない。体力的に考えても適任だ。
「自分が引き受けます」
「そうか、助かる。ついてきてくれ」
「はい」
生徒会室を出て、風間先生の後ろについて廊下を歩いていく。
7月も中旬だが今日はそこまで暑くはないので、草むしり程度ならお安い御用だ。
「急に悪いな」
「いえ」
「名前は元木だったか?」
「はい。2年5組の元木光一といいます」
自分と風間先生はほぼ面識がないが、こちらは顔と名前くらいは知っている。茜が「フーセン」とあだ名を付けたのも風間先生のはずだ。
「一応自己紹介をしておくか。私は数学を担当している風間だ。1年3組の担任をしている。生徒会に所属している佐々木の担任で、佐々木に生徒会を勧めたのは私でな」
「存じています。菱川先輩から聞きました」
「そうか。……佐々木は生徒会に馴染めているか?」
「はい、共通の趣味を持った生徒と雑談したり、自分とは将棋を指すこともあります。仕事を覚えるのも早くて助かっていますね。今日も日曜日ですけど、登校してしっかり仕事をしてくれています」
「そうか、ならいいが……。それで草むしりの件なんだが、1年の真島というやつが既に1人で始めているので、そいつと一緒にやってほしい」
「その真島という生徒は何故草むしりをしているのですか?」
清掃部員が草むしりをする場合、ある程度の人数で一緒にやることになっている。しかも熱中症の危険があるため、この時期にはやらないはず……。
「……この前学校中にゴキブリのおもちゃが設置されたことがあっただろう」
「ありましたね」
つい先日あったことだ。1人の生徒がいたずらで校舎内の至る所にゴキブリのおもちゃを置いた。自分も何匹か発見し回収したのでよく覚えている。
「あれをやった犯人が真島で、そいつも私が受け持っている1年3組の生徒なんだが、その真島がかなりの問題児でな。但馬や岩山が卒業したと思ったら入れ代わりでまた問題児が入ってきて、こっちは面倒この上ない」
入学から3カ月で問題児と言われているなら相当なのだろう。他にはなにをやらかしたのか。
「悪い、話が逸れたな。それでそのいたずらをした罰として掃除をさせようと思ったんだが、本人が『掃除より草むしりをしたい』と言い出したんで、そのまま草むしりをさせることにした。あいつは清掃部所属、しかも今日は曇天で、この時期には珍しく最高気温も24℃だから丁度いい。だが、やはり1人でさせておくには若干不安なので、一応あいつを見張りつつ手伝ってもらいたい。私は他の仕事があって他の教師たちも忙しくてな」
「わかりました。場所はどこですか?」
「武道場の東側だ。先月清掃部で草むしりをした際、あそこだけやり忘れたみたいでな。道具も真島に持たせてあるから一緒にやってくれ。雨が降ってきたら切り上げて構わない。終わったら道具等は昇降口付近に置いたまま、手を洗ってから真島と職員室に来るように」
「わかりました」
階段途中で風間先生と別れ下駄箱へ向かった。
靴を履き替え武道場の東側へ行くと、1人の生徒がしゃがみ込み草むしりをしている。
「君が真島か?」
後ろから声をかけると、しゃがんだまま首だけこちらへ向けた。
「そうですけどぉ?」
雰囲気的に穏やかそうではあるが……。
「俺も風間先生に草むしりを頼まれたんだ。一緒にやるからよろしく頼む」
「は〜い、よろしくお願いしま〜す」
真島の近くに置いてあった軍手を借り、真島の左隣に座り込んで、喋りながら草むしりを始めていくことにした。
「自己紹介がまだだったな。俺は2年5組の元木光一だ。生徒会に所属している」
「俺は1年3組の真島禄斗で〜す。清掃部で〜す」
「ここに来る前に風間先生から少し話を聞いた。前置きは面倒だからストレートに聞くが、何故ゴキブリのおもちゃを学校中に置いたんだ?」
「え〜? え〜と、父親があれを俺にプレゼントしてきたんですよねぇ〜。それで学校中に仕掛けたら面白そうかな〜って」
「それだけの理由でか?」
「ですよ〜」
「確かにワイワイ楽しんでいた生徒もいたが、本物と見間違え焦ったり嫌がったりした生徒もいたと思うぞ」
「でもゴキブリってこの辺いないじゃないですか〜。だから偽物だってわかりやすいからあんまり問題ないかな〜って」
確かに本物のゴキブリはここらにはいないが……。
「だからといって学校中に仕掛けるのは駄目だろう。俺も何個か回収して担任の先生に渡したぞ」
「あー、それがですねぇー、バルーンに返されたんですけど実は29匹足りなくなってたんですよねー」
「バルーン?」
「風間先生のことですよ〜。フーセンだからバルーン」
「ハハハ、成程な。それで、わざわざ数が合ってるか数えたのか?」
「132匹仕掛けたはずなのに103匹しか戻ってこなかったんですよ〜。仕掛けた132カ所全部もう1回見て回ったのに〜」
「なんだ、仕掛けた場所をメモしていたのか?」
「メモなんて面倒なことしませんってば〜」
「なに!? つまり全部の場所を覚えてたのか!?」
「そりゃ覚えてますよ〜。元々回収するつもりでしたから〜」
いやいや、そんなに多い場所に仕掛けたら普通は忘れるだろ……。
「だからたぶん誰かが盗んだりゴミに捨てたりしちゃったんですよね〜」
「……そもそもお前はいつどうやってあんなに沢山仕掛けたんだ?」
「あ〜、それはバルーンにも言ったんですけど〜、早起きしただけですよ〜」
「でも早く来ても学校は閉まってるだろ」
「1カ所開いてる場所知ってたんですよねぇ〜」
「おいおい、勝手に入るのは駄目だろう。一体どこから入ったんだ?」
「すみませ〜ん、それはバルーンに言ったら誰にも言うなって言われたんで内緒なんですよね〜。それに確認したらもう鍵閉められちゃってましたし〜」
「そうか、先生に報告済みなら構わない。それとお前の父親は何故あんなものをお前にプレゼントしたんだ?」
「それは俺にもわかりませんよぉ。俺の父親はなに考えてるかさっぱりなんで〜」
「ならもう1つ質問だ。何故掃除ではなく草むしりなんだ?」
「俺蟻とか蟻の巣見るの好きなんですよね〜」
「ハハハ、成程、草むしりならやりながら見れるからな。だからか」
「元木先輩は子供の頃に蟻とか蟻の巣見たりしましたか〜?」
「ああ、子供の頃はよく見てたな。大概の子供は見るだろ。男子なら尚更」
「なら蟻がエサだと思って運びそうだからって蟻の巣のとこに鼻くそ置きたくなりませんでしたか〜?」
「…………なったな。実際何度も鼻くそを置いた。なんだ珍しいな、お前も俺と同類だったか」
「いや、俺はそんなことしたことありませんよ〜」
「はぁ!?」
思わず大声を出し右にいる真島の方に顔を向けたが、真島は淡々と草むしりを続けていたので、雑草を思いっ切り引っこ抜き八つ当たりした。
「お前! 自分がやったからあんな質問したんじゃなかったのか!?」
「俺はやったことありませんよ〜」
「くそ! 俺を嵌めたな! てっきり同類かと思って油断したぞ!」
「あはははは! 俺じゃなくて俺の姉ちゃんがやってたんですよ〜」
「なに!? 姉がか!? そんなこと暴露していいのか!?」
「別に無問題ですよ〜。元木先輩俺の姉ちゃんのこと知りませんし〜」
「いや、それはそうだが……」
「ちなみに俺の姉ちゃんは中2のときにそれやってましたからね〜」
「なんだって!? 俺は小1くらいの頃だぞ……。お前の姉大丈夫か?」
「大丈夫ですよ〜。今はもう鼻ほじるのはやめてますし、ファミレスでバイトしてますけど客が頼んだ料理に鼻くそ入れたりはしてないと思うんで〜」
もしそんなことやってたら【鼻くそ混入罪】で捕まるだろ。
「おいおい、身内の秘密をそんなに暴露していいのか? 口が軽いと思われるぞ?」
「元木先輩にしか話してないんで大丈夫ですよ〜」
「そういう問題じゃないだろ」
「それで俺の幼馴染がその鼻くそ姉ちゃんのことを好きみたいなんですよね〜」
「おい! 今度は幼馴染の暴露話か!?」
「すみませ〜ん、誰かに相談したいから聴いてくれませんか〜?」
「相談か。それなら聴くが……」
「俺の幼馴染夜長っていうんですけど〜、そいつが俺の姉ちゃんのことが好きみたいで〜、俺の姉ちゃんは夜長のアタックを断っているんですよ〜。そのことを俺は知らないフリをしてて〜、2人はそのことを俺に知られたくないみたいなんですよね〜。俺どうしたらいいですかねぇ〜?」
「それは知らないフリを続けるかどうかという相談か?」
「ですね〜。けっこうバレバレなんで知らないフリも面倒になってきてましてね〜」
「……少し考えさせてくれ」
「わかりました〜」
……自分に置き換えて考えてみるか。
もし美冬先輩が茜の姉で、茜に既に知られているとしたら……。
または仮に茜が弘和か晴久のことを好きだとして、俺がそのことを知っているとしたら……いや、こっちは全く参考にならんな。からかう一択だ。
「……知らないフリを続けたらどうだ?」
「どうしてですか〜?」
「あまり回りが騒ぎ立ててもな。本人たちの問題でもあるし、首を突っ込んでやらないのが得策だと俺は思う」
「わかりました〜。じゃあ知らないフリ続けま〜す」
「その幼馴染とは仲がいいのか?」
「ですね〜。ここに通ってる1年1組の宮本夜長で〜す」
ここ通ってるのか。もしそいつと知り合ったら【鼻くそ女好き】ってイメージしか浮かばなさそうだな。
「元木先輩には幼馴染いますかぁ?」
「幼馴染というより同学年で小さい頃から仲のいい従兄妹ならいるな」
「どんな人ですか〜?」
「女子なんだがアホなやつでな。おまけにかなり自由奔放なやつだ」
「ほーほー」
「……子供の頃の話だと、そうだな……地元で祭りがあったとき公民館の一室で男性の大人たちが着替えていたんだが、親から『覗いては駄目』と注意されていたそいつは『覗いてはいけないなら堂々と見ればいい』と言って突撃したり」
「ほーほー」
「あとは一緒にプールに入っているときに、俺や俺の弟の水着を脱がそうとしてきたりな」
「あはははは、変態ですね〜」
「そうなんだ、変態なんだ」
「もしかしてそれって元木先輩と同じ生徒会にいる菊池先輩ですかぁ?」
「……どうしてそう思った?」
「挨拶運動のときとか学校内で生徒会見かけたときとか元木先輩と仲良さそうに見えたんで〜」
……即バレした。すまん茜。
「……これ内緒な。ここだけの話ってことで……」
「わかってますよ〜。俺が話してたことも内緒ですから、お互い内緒ってことで〜」
「ってことはお前俺のこと知ってたのか?」
「知ってましたよ〜。目立つんで〜」
「そうか」
「おー! エサ運んでる蟻発見!」
「先程蟻を見るのが好きと言っていたな。他の趣味とかはあるか?」
「んー、ゲームとか将棋とかカラオケとか漫画とかサッカー観たりとかですかね〜」
「将棋か。将棋は俺も指すぞ」
「ならこのあとやりませんか〜? 俺周りにやる人いないから、ネットでしかやれないんですよね〜」
「俺はこのあと生徒会の仕事があるかもしれないが、それが終わってからでも構わないのであればいいぞ」
「わかりました〜。それでいいですよ〜」
「なら生徒会室に将棋の駒も盤もあるからそこでやるぞ」
「了解で〜す」
「……真島、お前1年3組だよな?」
「そうですけど〜?」
「悪いが草むしりを中断して俺の話を聴いてくれないか?」
一旦手を止め真島の方を向いたが「え〜? でも草むしりしながらでも聴けるんで、やりながら聴きますよ〜」と真島は草をむしり続けてしまっている。
「……真面目な話なんだが」
「大丈夫ですよ〜」
「……わかった。ならそのまま聴いてくれ」
結局お互いが草むしりを続けたまま話を進めることにした。
「お前と同じクラスに佐々木というやつがいるのは知っているか?」
「知ってますけど〜?」
「佐々木は俺と同じ生徒会所属なんだが友人がいなくてな。よかったら佐々木と仲良くしてもらえないか? あいつはゲームや将棋をやるから話が合うと思うんだが……どうだ?」
「いいですよ〜。俺もゲームとか将棋する相手が増えるのは大歓迎なんで〜」
「そうか、ありがとう。あいつの友人になってやってくれ。……しかしあと数日で夏休みだから、話しかけるのは夏休みが明けてからの方がいいかもな」
「なんでですか〜?」
「今から中途半端に仲良くなっても夏休み中にリセットされてしまうだろ。夏休み明けの距離感に戸惑わないか?」
「俺は気になりませんけど〜?」
「そうか、なら真島の好きなタイミングで構わない。頼んだ」
「夜長もゲーム好きだから一緒にゲームしよー」
「それと、俺が佐々木と仲良くしてほしいと頼んだことは内緒にしてくれ」
「そんなこと言われなくてもわかってますよ〜。さっきから内緒話ばっかりですもんね〜」
「ハハハ、そうだな」
風間先生曰く、真島は問題児。しかし短い時間だが話をした限り、友人にしてはいけない類の問題児ではないと感じた。実際但馬先輩はそうだった。
佐々木と友人になるのであれば、真島のように常識外れでブッ飛んでるくらいのやつが丁度いいだろう。そんなやつが身近にいれば、周りからの嫌な視線なんぞ気にならなくなる。
その後は他愛のない会話をしながら草むしりを続け、一通りキレイになったところで切り上げることにした。
軍手などの道具とむしった雑草が入ったバケツを昇降口前に運び、手を洗ってから真島と一緒に職員室へ向かった。
「失礼します」
「失礼しまっすー」
「お、終わったか」
職員室に入ると風間先生がすぐに気付き、こちらに近づいてきた。
「お疲れ。これやるから飲め」
「ありがとうございます」
スポーツ飲料を受け取った。終わったあとに職員室に来いと言っていたのはこれを渡すためか。外での作業後にはありがたい。
「俺炭酸がよかったなぁー」
「なんで炭酸なんだ! 汗かいたらスポーツ飲料だろ!」
「今日あんまり暑くないよ?」
「いいからそれ飲め! それと敬語を使え! 元木、道具等はどこに置いた?」
「昇降口の前です」
「そうか。真島、お前はもう帰っていいぞ。元木も生徒会の仕事に戻ってくれ」
「はい」
「俺まだ帰らないよ?」
「なんでだ! 帰れ!」
小声で真島に強く当たると、風間先生はそのまま職員室を出ていった。おそらくむしった雑草や道具を片付けに行ったのだろう。
「さてと、生徒会室に戻るか。真島はどうする?」
「俺も生徒会室行っていいですか〜?」
「いいんじゃないか? どうせこのあと生徒会室で将棋指すんだからな。生徒会メンバーしか入ってはいけないわけでもないし」
「わ〜い、生徒会室初めて入るな〜」
「そうだ真島、お前荷物は?」
「今日手ぶら〜。今はペットボトル持ってるけど手ぶら〜」
「そうか。ならこのまま行くか」
ということで真島を連れ生徒会室に戻ったが、何故か隈坂先輩が1人でスマホゲームをしていた。
「隈坂先輩、他の人は?」
「帰ったよ。お前が草むしりしてる間にこっちの仕事終わったからな」
隈坂先輩はスマホゲームに夢中で、真島の存在に気付いていない。1人だからか音量も大きい。
「そうでしたか」
「ちっ、こいつ強ぇな」
「隈坂先輩は帰らないんですか?」
「じゃんけんで負けてお前が戻ってくるまで留守番してたんだっての!」
「そうでしたか、すみません」
「あ、くそ、負けた! お前が話しかけるからだぞ!」
「なんのゲームですか〜?」
真島が隈坂先輩のスマホを覗きにいった。自分や風間先生と話しているときにも思ったが、どうやら真島は相手が年上だろうと自分のペースを変えないようだ。
「……お前誰?」
「あー、知らないゲームだー」
「聞けよ! お前誰!? なんでここにいんだ!?」
「俺真島禄斗で〜す。1年3組で〜す」
「さっきまでそいつと一緒に草むしりしていました。いろいろ話して仲良くなったんですよ」
「んで?」
「それで今から将棋を指そうと思って生徒会室に連れてきたんです」
「なら俺帰るから鍵頼んだぞ」
「わかりました」
「俺と元木先輩の将棋観ないんですかぁ?」
「観ないっての。じゃあな」
「はい」
隈坂先輩が生徒会室を出ていき、また真島と2人きりになった。真島とは先程知り合ったばかりだが、気不味さなどは全く感じない。おそらく真島もそうだろう。
「そういえば真島お前、俺や隈坂先輩には敬語なのに何故風間先生には敬語を使わないんだ?」
「怒ってくるからですよ〜。怒ってくる相手には敬語使いませ〜ん」
「ハハハ、使わないなら余計怒られるだろ」
「最初は使ってましたよ〜。でも怒られたから使わないって決めました〜」
「きちんとした場では敬語を使えよ」
「そのときの気分に任せま〜す」
「さてと、将棋やるか」
「俺振り駒やりま〜す。歩18枚で〜」
「ハハハ、いいぞ」
隣の物置部屋から盤と駒を運び、風間先生にもらったスポーツ飲料を飲みながら将棋を指した。
真島が見たことのない戦法を指してきたので完全に力戦調の内容になったが、どうにか負けずにすんだ。
「はぁー、負けたー」
「そんなことより真島、お前がやった戦法見たことないぞ。なんなんだその戦法」
「俺が考えたんですよ〜」
「なに!? 自分で考えたのか!」
「そうですよ〜」
どうりで知らない戦法のはずだ……。
「真島は面白いな。また俺と指さないか?」
「いいですよ〜。アプリでなら家でも指せますし〜。この将棋アプリやってますか〜?」
「すまん、スマホでゲームはやったことがないんだ。将棋も弟たちや祖父相手に指すことがほとんどでな」
「なら俺が説明するんでやりましょ〜」
「わかった。教えてくれ」
真島に教わりながら将棋のアプリをダウンロードし、それのやり方も教わった。
ついでにお互いの連絡先も交換することにした。
「佐々木のことでなにか進展や相談があったら教えてくれ」
「は〜い」
「それとくどいとは思うが、今日俺と話したことは諸々秘密で頼むからな」
「任せろー」
「ん? 敬語終了か? 怒ってないよな?」
「敬語なしでフレンドリ〜」
「ハハハ、許す。さてと、そろそろ帰るか。真島は何通学だ?」
「俺は電車ー」
「そうか。俺も電車通学だから駅まで一緒に行くか?」
「お供しま〜す」
「ハハハ。鍵返してからだがな」
生徒会室に鍵を閉め職員室へ向かう。
職員室のある2階へ着くと、真島が「トイレ行ってきまーす」と何故か職員室から1番近いトイレへ入っていった。普通の生徒はこの場所のトイレを敬遠するのだが、やはり真島は面白い。
真島が用を足している間に鍵を戻そうと思ったが、職員室から出てきた風間先生に話しかけられた。
「お、元木、今帰りか?」
「はい。生徒会室の鍵を返しに来ました」
「他はもう帰ってたぞ? お前だけなにしてたんだ?」
「生徒会室で真島と将棋を指していました」
「将棋?」
「はい。草むしりの最中に約束していたので」
「……」
「真島は面白いですね」
「は!? あれが面白いだと!?」
風間先生がかなり驚いている。
なにか変なことを言っただろうか?
「ええ、一緒に雑談しながら草むしりをやっていたのですが、とても愉快でしたよ」
「愉快……あれがか?」
「ええ。親しくなったので連絡先も交換しましたし」
「……あいつと関わるのは程々にしておけよ。巻き込まれるぞ」
「ハハハ、もう巻き込まれましたよ。それを含めて自分は真島を愉快なやつだと判断しました」
「……お前も変わってるな」
「そうですかね?」
「……鍵は私が返しておく。寄り道せずに帰れよ」
「はい、お願いします。さようなら」
「ああ」
その後トイレから戻ってきた真島と合流し、蟻の生態を聞かされながら駅まで歩いた。
真島とは電車の進行方向も同じだったため、結局真島が先に電車から降りるまで、お互いずっとくだらない話をし続けた。会話が途切れることもほぼなく、真島は上級生の自分に対しても全然躊躇いなくものを言うので、話していてとても愉快だった。
今日1日、真島とは数時間を過ごしただけだが、こんなやつが友人にいれば毎日愉快で楽しいだろう。真島が佐々木と親しくなれば、佐々木自身が抱えている問題など吹き飛ばしてくれるのではないか、そう思った程だ。
翌日の月曜日の朝、早速真島から連絡が来た。
『風邪ひいたので学校休みまーす』
……。
更に翌日
『治らないんで今日も休みまーす』
……。
そのまま真島は終業式まで休み続けた。
なので佐々木に話しかけるのも結局夏休みが明けてからになってしまった。そう思っていたら夏休みに入ってから3日目、
『佐々木と友達になりましたー』
……早いな。
それに今夏休み中だよな?
どこで会ったんだ?
更に3日後、
『佐々木がウチに来て一緒に遊びましたー。俺の幼馴染の夜長とも友達になりましたー』
……すこぶる早いな。
更に夏休みが明けると、
『夜長が同じ軽音部の越後と奥井を佐々木に紹介したんで、これからその2人とも仲良くなると思いまーす』
そうかそうか。
……ん? 越後?
越後という苗字が気になったので、真島に電話をかけることにした。
「もしもし真島、今いいか?」
「いいですよ〜。どうしました〜?」
「夜分遅くに悪いな。今スマホに連絡があった越後という生徒の下の名前を教えてほしいんだが」
「しゅうすけ。修学旅行の修に芥川龍之介の芥の草冠の下にある介で修介」
「ハハハ、それ普通に芥川龍之介の介でいいだろ」
「正解〜」
「それだけ聞きたかったんだ。もしかしたら俺の先輩の弟かもしれなくてな」
「そうなんですね〜」
「越後本人には内緒にしててくれよ。細かいことから佐々木にバレる可能性もあるからな」
「わかってますよ〜。それではおやすみ〜」
「ああ、おやすみ」
下の名前が判明した。越後修介。
次は越後先輩だが、越後先輩とは連絡先を交換したきり一度も連絡したことがなく、卒業して以来会ってもいない。それでも流石に出てくれるとは思うので、とりあえず電話をかけてみた。5秒程待つと繋がった。
「もしもし、元木ですけど越後先輩ですか?」
「ええ、そうだけど、あなたから電話をかけてくるなんて珍しいわね」
「夜分遅くにすみません。少し聞きたいことがありまして、今大丈夫でしょうか?」
「前置きはいいわ。なに?」
それ前置き言い終わったあとに言っても意味ないと思いますよ。
「越後先輩弟さんいます?」
「いるわ。今邦南高校の1年生よ」
「下の名前は?」
「しゅうすけ。修学旅行の修に芥川龍之介の介で修介」
真島とほぼ同じですね。
「どんな性格ですか?」
「コミュ力高くてすぐに誰とでも友達になれる感じのやつよ」
「成程」
「それと明るくて笑ってることが多いわね」
「越後先輩よりもお姉さんの涼子先輩に似ている感じですか?」
「そうだけど、なんであなたが姉のことを知っているの?」
「以前古賀先輩から少しばかりお聞きしまして」
「どんなことを?」
「常に明るくて笑っていて笑顔が素敵な先輩だったとか、笑顔の涼子先輩と仏頂面の越後先輩が比較され越後先輩がイジられていたとかですかね」
「ちっ、あんのへっぴり腰がベラベラと」
小声でしたけどしっかり聞こえましたよー。
「それで、聞きたいことはそれだけ?」
「はい。それと、この通話内容のことは弟さん本人には内緒でお願いします。少し事情がありまして」
「よくわからないけどわかったわ。ゆ、古賀と話したいことあるから切るわね」
「はい、ありがとうござ」
……切れた。ゆ?
とりあえずその越後は越後先輩の弟ということが判明した。といっても、わかったところで現状はなにをどうするわけでもないのだが。
そのまま9月が過ぎ10月中旬。
その間真島から佐々木の様子などをスマホで何度か伝えてもらった。どうやらその越後とも仲良くなってきているようだ。
真島以外の友人からも佐々木のことを聞いてみたかったので、真島に仲介してもらい、越後と会って話すことにした。バレないように場所は生徒会室。今日は生徒会の仕事がないので、少しやり残したことがあると嘘をついて鍵を借りる。中に入り真島に連絡を入れると、1分も経たずに1人の男子生徒が生徒会室に入ってきた。
「こんちわー。元木先輩ですか?」
「ああ、2年5組元木光一だ。真島は……」
「あいつは佐々木誘ってどっか遊びに行きました。俺たちが密会してるのバレないようにって」
「そうか。真島から話は聞いているんだよな?」
「はい、大体は。佐々木のことですよね?」
「ああ」
越後が佐々木と知り合ってから一月半しか経っていないが、昼飯を一緒に食べたりバッティングセンターで一緒に遊んだことなど、いろいろ聞かせてもらった。
事前に真島からこちらのことを聞いていたとはいえ、越後は初対面の上級生である自分に対してあまり気を遣うことなく喋っていたように思う。越後先輩から聞いていたとおりの人物像だ。
「ありがとう。佐々木が当初より明るくなってきているのは君らのおかげだな」
「いえいえ、俺は別に佐々木のためになにかやってるわけじゃないんで」
「これからもちょくちょく佐々木の様子なんかを教えてくれると有り難いんだが……」
「なら連絡先交換しましょうよ。そっちの方がバレないすよ」
「そうか、助かる」
ということで越後とも連絡先を交換し、佐々木本人には内緒で佐々木についてやり取りをすることになった。
「真島ともやってるんですよね?」
「ああ」
「あいつスマホでやり取りしててもふざけますからね」
「ハハハ、そうだな」
「それじゃそろそろ帰りますか」
「そうするか。……おっと、そうだ、1つ伝えておくことがあった」
「なんですか?」
「実は俺は君の姉と生徒会で半年間一緒だったんだ」
「ああ、そういえば京姉生徒会だったか。京姉取っ付き難くありませんでした?」
「初対面のときはそう思ったが、実際接してみるとそんなことはなかったな。常に仏頂面で当たりが強くはあったが」
「ハハハ、ですよね。家でもずっとあの仏頂面ですからね」
「そうなのか」
「たぶん大学でもずっとあの顔してますよ。友達少しはいるみたいなんで、そこは大丈夫でしょうけど。それにこの前、家に彼氏連れて来たんで衝撃でしたよ。上の姉も驚いてました」
「そんなこと俺にバラしていいのか?」
「バレなきゃ問題ないですよ。佐々木のこともこれから内緒でやり取りしますしね」
「……そうだな」
これは真島のときと同じような状況だな。
あのときも内緒話ばかりしていた。
「えーと、名前なんだったっけ? ゆきなりだっけ? 知ってますか? ゆきなりって人」
おいおい……。
将棋について補足します。そこまで関係ないのでスルーでも構いません。真島が元木相手に使用した戦法を、元木は弟の弘和に使用し、更に弘和がep.38神崎1で司馬相手に使用しています。




