元木 11 佐々木について
前半部分はep.19秋陽菜の元木サイド的な感じです。
6月上旬のとある日、その日は生徒会の仕事がなかったのだが、秋陽菜先輩から連絡を受け放課後生徒会室へ向かった。
生徒会室に着くと、秋陽菜先輩から佐々木という1年が生徒会に入ることを伝えられた。そしてこのあとその佐々木が生徒会室に来るらしい。
「それでその佐々木君のことなんだけど……」
「どうかしたんですか?」
「えーとね……」
秋陽菜先輩から佐々木の込み入った事情を説明されたが、佐々木について話している最中、秋陽菜先輩が慎重に言葉を選んでいるように感じた。佐々木に対する配慮なのだろう。
「佐々木の事情はわかりましたが、今日は何故3人だけなのですか? 隈坂先輩も呼んだ方がよかったのでは?」
「隈坂は元々用事があったみたいで帰っちゃったんだよ。それと常盤は初対面のときあんなんだったし、夏美は自分から話しかけるタイプじゃないから呼ばなかった。あんまり人の数が多くても圧迫感あるだろうし、人数は少なめにした方がいいと思ってな」
「確かに美冬先輩は圧迫感皆無ですからね」
「おい! それ完全に見た目の話だよな!?」
「ハハハ、失礼しました。しかし茜が休みでタイミング悪かったですね。こういうときにあいつがいると有難いんですが……」
「茜ちゃん今日なんで休みなの?」
「ただの風邪ですよ。昨日の夜暑くて薄着で寝たら風邪引いたって連絡ありました。大したことはないようなので、明日には治っているでしょう」
それから程なくすると、その佐々木が生徒会室を訪れた。
自己紹介ついでに美冬先輩をからかい少々場を和ませたあと、一緒にスゴロクをしないかと提案する。
秋陽菜先輩が反対したが、佐々木のような生徒と関わるとき最初に丁寧に接し過ぎると、逆に向こうから距離を取られていると感じられかねないと思ったので、少々無理矢理こちらの意見を通させてもらった。
机と椅子の移動を秋陽菜先輩と佐々木に任せている最中、隣の物置部屋で美冬先輩に一応確認する。
「勿論こっちですよね」
自分たちがプレイしていない方のスゴロクを美冬先輩に見せる。佐々木にあちらをやらせるのは酷だろう。
「当たり前だろ」
ダンボールを隣の生徒会室に運び、ゲームを始める準備を進める。
駒は無いので今回も小銭で代用することにした。
美冬先輩を1円玉でからかってから500円玉を割り当て、秋陽菜先輩は1円玉を選んだ。なので佐々木に100円玉を割り当て、自分は5円玉。
おそらく金額順のスタートになるので、これなら美冬先輩の正面になり一喜一憂する表情をまた堪能することができる。過去の2回の経験上、手番が早い方が有利になるわけではないと感じたので、佐々木の手番を3番目にしてここは我欲を優先した。決して隣も悪くはないとは思うのだが、やはり正面で表情を見たい。
100円玉を割り当てた際に佐々木が変な反応をしたような気がしたが、そのままゲームを始めることにした。
4人と少数だったのでゲームはスムーズに進み、終盤に美冬先輩が
『サイコロを振り
出た目の数だけ
点数を−する』
このマスを2回連続で踏んだ上に、2回とも6を出して1位から最下位に転げ落ちた。「なんで2回連続で6なんだ!! せっかく1位だったのに!!」とプンプン怒っていて、とてもいい表情を楽しめた。
ゲーム自体は秋陽菜先輩が1位、佐々木が2位、美冬先輩がそのまま最下位で終了。
佐々木は「楽しかった」と言っていたが、本心かはわからない。心から笑い合える友人などは当然今はいないのだろう。そういった友人が佐々木には必要なのではないかと思った。自分たちも仲良くなることはできるだろうが、どんなに仲良くなったところで生徒会の先輩後輩という関係性が常に付き纏ってしまう。それでは駄目だ。
次の日の放課後、生徒会室に集まり美冬先輩と秋先輩が他の4人に佐々木のことを説明する。
特に常盤には釘を差しておく必要があると思ったので、隣の物置部屋に呼び出し声量を抑え2人で話すことにした。
「常盤、わかってると思うが佐々木のことをからかうなよ」
「わかってますよ。私だってそこら辺は弁えてますんで」
「お前は初対面のときのやつがあるから一応な」
「いや、あれは大丈夫だと思ってたんで」
「どうしてそう思った?」
「挨拶運動のとき、あの3人見掛けててですね。んで筑紫先輩は『美冬ちゃん挨拶運動偉いねー』って3年の人に頭なでなでされて怒ってました。そんでそれ見てた1年にも笑われてましたけど、本気でキレてはなかったんで自分がやっても大丈夫かなーと」
「秋陽菜先輩は?」
「菱川先輩は挨拶運動のときずっとニコニコしてたんで。だからどんな反応するか試してみました」
「あのニコニコはただの作り笑顔だからな?」
「もう知ってますよ。お題スゴロクのときにもかなり本性出てましたし。だからからかうの面白いっすよね」
「……お前怖いもの知らずだな」
「割と言われます」
「それでも普通初対面の相手にはやらないだろ」
「むしろ初対面だからやったんですよ。そっちの方が早く相手のこと知れるんで。私兄と2人の弟がいるから男子相手の方が話すの楽なんすよ。男子は馬鹿だからいいんですけど、逆に女子はなに考えてるかわからなかったりするんで、最初にある程度かまして本性さらけ出してもらった方が楽だと思ってやりました」
「それでも普通はやらないと思うがな。それで茜は?」
「あの人は一目見ればわかりますよね?」
「そうだな。わざわざ聞くことじゃなかった。あれはからかっても一切問題ない。むしろ佐々木が来たら場を和ませるためにも、あいつをからかってくれると助かる」
「それは楽勝です。なら筑紫先輩もからかいますよ。あの人からかうと隈坂先輩も乗ってくるんで」
「秋陽菜先輩はやめとけよ。空気が淀む」
「わかりました。暫く控えます」
そこは「わかってますよ」じゃなくて「わかりました」なのか……。
「……それと佐々木はゲームをやるみたいでな。俺はあまりやらないんだが、隈坂先輩とお前はそういった話をしているから仲間に入れてやってくれないか?」
「いいっすけど、なんでそんなこと知ってるんすか?」
「昨日4人でお前たちとやっていない方のお題スゴロクをやって、そのときにゲームが趣味だと聞いたんだ」
「へぇ」
しかも美冬先輩の有益な情報も知れたしな。
「よし、話はこんなもんだな」
その後、佐々木が生徒会室に来たので皆でジェンガやトランプをして遊んだ。
但馬先輩がいなくなってからはこういう機会も減っていたので、少しばかり懐かしい。
佐々木はそれからも生徒会室を訪れ、隈坂先輩や常盤とゲームの話をしたり、茜のなんてことない雑談に絡まれたりしながら馴染んでいった。
正式に生徒会メンバーに加わってからは仕事なども任せ始めた。要領が良くすぐにいろいろ覚えていくので、茜なんぞより役に立つようになる日も近いかもしれない。
夏の部活の見回りはお題スゴロクの結果の組み合わせ+佐々木を文化部担当に加え、4人ずつになって行われた。去年同様暑い日に決行され、秋陽菜先輩は「なんで私だけ3年連続でやらなきゃいけないの……。あの2人は1年生のときだけだったのに……」と愚痴をこぼしていた。
それでも今回は全員分のマドレーヌを料理部員に用意してもらい、見回りを終え生徒会室に戻ってから全員で美味しいマドレーヌを頂くことができたので、秋陽菜先輩も最後は笑顔だった。




