元木 6 夏の部活見回り
お題スゴロクから数日後、地域のゴミ拾い活動が行われた。
古賀先輩·但馬先輩·林先生
越後先輩·美冬先輩·茜
秋陽菜先輩·隈坂先輩·元木
3人1組に分かれたが、美冬先輩とは同じグループにはならなかった。
岩山先輩·宇津木先輩·若林先輩の3人も参加しており「3人の中で1番ゴミ少なかった奴がジュース奢りな!」と競い合うようにゴミを拾っていた。
その翌週、各部活の見回りが行われた。
運動部→古賀先輩·但馬先輩·美冬先輩·茜
文化部→越後先輩·秋陽菜先輩·隈坂先輩·元木
4人1組に分かれたが、またしても美冬先輩とは同じグループにならなかった。
それから暫く経った7月上旬の蒸し暑いある日、再び部活の見回りが行われる日が来た。
しかし今回の組み合わせは既に決まっていて、残念ながらまたしても美冬先輩とは別グループだ。
放課後クラスの掃除を終わらせ急いで生徒会室へ向かった。ノックをしつつ「失礼します」と一言かけてから生徒会室に入る。
「コーイチ最下位ー!」
「すみません、掃除が長引いてしまいまして……」
「いやいや、謝ることないよ。それより今日は昨日言ったとおり部活の見回りだから、運動部担当と文化部担当に分かれてさっさと回っていこう」
「はぁ……こんな暑い日にだる……。冷房効いてるここから出たくねぇ……」
「隈坂君は文化部担当なんだからまだいいでしょ。それとも私と代わってくれる?」
「いや無理。外とか体育館とか地獄だろ」
「はいはい、文化部担当さっさと行くよー」
「はい!」
「は〜い」
「へーい……」
「越後、鍵よろしくね。冷房は28℃でつけっぱなしにしといてー」
「ええ」
古賀先輩に促され、美冬先輩と茜と隈坂先輩が先に生徒会室を出ていった。
「元木、あなたもさっさと着替えなさい」
「はい、すみません」
前回の見回りは制服姿だったのだが、夏場の運動部の見回りは暑いということでジャージに着替えて行われる。他の3人は既に着替え終えているため急いで着替えようとするが、越後先輩と秋陽菜先輩が目の前にいる。
「着替えていいんですよね?」
「……私と菱川はあっち向いてるからさっさと着替えて」
どうやらギリギリまで涼しい場所にいたいようだ。
逆なら絶対に追い出されるはずだが。
「着替えました」
「なら行きましょうか」
冷房をつけたままにしつつ、涼しい生徒会室から退室する。そして越後先輩が生徒会室の鍵を閉めた。
「まず武道場から行くわよ」
「おーう」
「はーい……」
明らかに秋陽菜先輩のテンションがいつもより低い。笑顔も弱々しい。
それと武道場から行くのであれば鍵はどうするのだろうか?
「越後先輩、職員室に鍵を戻さないんですか?」
「面倒だからいいわ。それに生徒会室の鍵は職員室にもう1つあるし」
ということで職員室には寄らず、武道場、プール、グラウンド、体育館、そして各部室を回る。
越後先輩は淡々と、秋陽菜先輩はギリギリ笑顔をキープしつつも小声で愚痴を言いながら、但馬先輩は男子運動部の部室を回る度に「汚ぇ!! 臭ぇ!! 片付けろ!!」と怒鳴りながら。
各部活の気になった点や要望等はメモを取っていくのだが、但馬先輩はやらないので自分がメモを取る。
皆汗をかきながら全て回り終え、生徒会室に戻ると鍵が掛かっていた。どうやらこちらが先に終わったようだ。越後先輩が鍵を開けて中に入る。
……全然涼しくないな。
「だぁー!! あっちぃー!!」
「越後先輩、冷房強めてくださーい!!」
暑いのが苦手な菱川先輩が懇願するが、生徒会室の冷房は常に27℃と決められている。
「……そうね」
越後先輩が『ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッ』と設定温度をガンガン下げていく。
涼しい風が当たる場所に越後先輩と秋陽菜先輩が陣取り、但馬先輩は下敷きで自分自身を仰ぎまくる。
「……それいいんですか?」
「……いいのよ。後で戻せば証拠もないし、この4人が黙ってさえいれば問題ないわ。当然黙ってるわよね?」
女子の先輩2人がこちらを見てきた。表情は対照的で越後先輩は睨むように、秋陽菜先輩は微笑みながら。
暑いのは苦手ではないが、涼しいに越したことはない。
これは共犯になった方が楽だろう。
「わざわざ言いませんよ」
「ならいいけど」
「あ〜〜〜、涼しい〜〜〜」
ある程度涼むと設定温度を元の27℃に戻し、それぞれ制服に着替えることにした。
当然女子が着替えるときは追い出され、男子が着替えるときは女子2人は生徒会室から出なかった。
「それにしてもあっち遅いわね」
「確かに遅いですね」
前回は文化部担当の方が早かったので少し気になる。
どこかの部活で何か問題でもあったのだろうか?
越後先輩が各部の状況や要望などを纏め始めたので、自分と秋陽菜先輩も各部の報告をしていく。
「大体こんなものかしらね」
「ただいまー」
こちらの作業が終わったと同時に向こうのグループが戻ってきた。
「そっち随分遅かったわね」
「あーー……ちょっとね……」
古賀先輩が言葉を濁した。
「なんか怪しいわね? 隈坂、なにがあったか言いなさい」
「えー? 特になにもなかったですけどぉ?」
隈坂先輩が越後先輩から目を逸らしたまま答えた。
「茜、言いなさい!」
越後先輩の詰問が続く。
「えーと……そのーー……」
明らかになにかを隠している。
「筑紫!」
「……」
美冬先輩は無言のままそっぽを向いた。
「……埒が明かないわね。……但馬、あなたが隈坂に聴きなさい」
「あん?」
「但馬先輩、たまには役に立ってくださいね〜?」
秋陽菜先輩がニッコリと笑顔で但馬先輩にお願いした。
「……わかったっての。おい隈坂、言え!」
「……」
隈坂先輩が黙っていると、但馬先輩が隈坂先輩の目の前に移動し仁王立して再び嚇す。
「言えっての!!」
「マッチョ先輩やめてくださいよー!」
「そうですよ! 私たち別になにも隠してないです!」
茜と美冬先輩が隈坂先輩を庇うと、但馬先輩が少し怯んだ。
「ちっ……」
「ちょっと但馬、その2人と私たちのどっちの言うこと聞くの?」
「当然こっちですよね〜?」
秋陽菜先輩が優しい声で脅迫した。
鬼は悪魔と疫病神には逆らえない。
「……おら隈坂言え!! 俺の前で腰抜かしたこと2年の連中に言い触らすぞ!!」
「ちょ! それはやめてくださいよ! 言います! 言いますから!」
隈坂先輩が落ちた。
「ダメだ隈坂言うな!」
「言っちゃダメですよカオルン先輩!」
それでも美冬先輩と茜は黙秘を続けろと声をかける。
そんなに必死になにを隠しているのか。
「…………料理部でお菓子食べてました」
隈坂先輩がボソッと答えた。
お菓子?
「は?」
但馬先輩が聴き返す。
「料理部で手作りのお菓子食べてました! それで遅くなりました! すみません!」
隈坂先輩が白状して頭を下げると「なんだ、菓子かよ、くだらん」と但馬先輩は隅の椅子に戻っていった。
「あーあ、言っちゃった……」
「なんで言うかなぁ……」
「隈坂、そこは黙ってないと駄目だよ……」
茜、美冬先輩、古賀先輩が隈坂先輩を責め立てる。
「いや、しょうがないじゃないですか……」
「あなたたちお菓子食べてたの!?」
「それはズルくないですか〜?」
「違う違う。文化祭で作るお菓子をどれにするか相談されたから試食してただけだよ。仕方なくだよ仕方なく」
「そうですよ! 頼まれたから食べただけです!」
「そうで〜す! お願いされたから食べただけで〜す」
「隈坂! 正直に言いなさい!」
「……こっちから食べたいってねだりました。そしたら『余ってるからどうぞ〜』って……」
「ちょっと! 言ってること全然違うじゃない!」
「お菓子くらい別にいいじゃんかー。これくらい文化部回った特権だよー」
「私今まで料理部でなにかご馳走になったことなんて一度もないわよ!」
「俺だって今回だけだよー。そもそもそっちがゲームで負けたのが悪いんでしょー? あー美味しかったー。涼しい場所で食べるお菓子は美味しかったなー。丁度小腹も空いてたしねー。甘くて美味しかったよねー」
古賀先輩が開き直ってペラペラ喋り出した。
「そうですね! 甘くてすごく美味しかったです! 私また食べたいです!」
「そっち食べられなくて残念でしたね〜」
美冬先輩と茜も開き直り始めた。
「私たちの分はないの!?」
「そうですよ〜。私たちの分はないんですか〜?」
「ないよ、ないない。俺たちが全部食べちゃった」
「はぁーーー!!!???」
今まで聞いたことのない越後先輩の声が生徒会室に響く。
「私たちが暑い中運動部回っている最中、そっちは涼しい場所でお菓子食べてたってことですよね〜? 普通私たちの分取って置きませんか〜? それを全部食べちゃうなんていくらなんでもズル過ぎると思いませんかぁ〜?」
「そうよ! 菱川の言うとおりだわ! あなたたち最低よ!」
「負けたそっちが悪いんでしょー」
「そうっすよ! 越後先輩と菱川が負けるのが悪いんすよ!」
「なら次回は私たちが文化部担当でいいですよね〜? 今回こっちが運動部回ったんですから」
「そうね菱川! 次回は私たちが文化部よ! 次回は文化祭の少し前だからそのとき頂けるよう料理部に頼んでおくわ! 当然私たちの分だけ!」
「だめだめ! それはおかしいって! そもそも次の担当はまだ未定だからね!」
「そうですよ! ゲームで決めたのは今回の担当だけなんですから次回はまた別ですよ!」
「アタシもミフユン先輩の言うとおりだと思いま〜す」
「なに言ってるの! あなたたちは今日食べたんだからもう試食しなくていいはずでしょう!?」
「そうですよね〜。試食なんですからまだ食べていない人が食べるべきだと思いま〜す」
「いやいや、まだどのお菓子にするか決まってないからね! どのお菓子にするか決まったら改めてまたそれを試食しないと!」
「そんなの詭弁よ!」
「詭弁じゃないって! 今日のはあくまで試作品だったからね!」
収拾がつかなくなってきた……。
自分と同様蚊帳の外にいる但馬先輩はどう思っているのだろうか?
「但馬先輩もお菓子を食べられなかったわけですけど、不満はないんですか?」
「俺は別に甘い物好きじゃねぇからな。それとゲームで負けたのは事実なんだからしょうがねぇだろ」
鬼が潔い。
悪魔と疫病神にも是非見習ってほしいものだ。
「お前はどうなんだ?」
「俺も甘い物よりしょっぱい物の方が好きなので。それにそういったものを食べたいのであれば自分で買って食べればいいだけかと」
「だよな。なんであんなにギャーギャーやってるか全く理解できん。それより俺帰っていいか?」
「いいんじゃないですかね」
「なら俺帰るわ。またな」
「はい」
但馬先輩が生徒会室を出ていったが、言い争いはまだ続いている。
「美冬〜、なんで私の分取って置いてくれなかったの〜?」
「秋陽菜は自分で作るの得意なんだから、自分で作って食べたらいいんじゃないか?」
「次は私と菱川と但馬と元木が文化部よ! じゃなきゃおかしいでしょ!」
「但馬先輩は絶対に運動部の方がいいですって。だからその代わりに同じ男子の俺が文化部担当ってことで。古賀先輩は越後先輩とは分かれなきゃいけませんしね」
「あー! ズルいぞ隈坂! ていうかそれだとお前3回連続で文化部だろ! そろそろお前は運動部回りなさい!」
「そうだそうだ! 隈坂は次運動部だぞ!」
「えぇー……運動部だるいって……」
「コーイチも運動部の方がいいと思いまーす。なので代わりに同じ1年生のアタシが文化部回りまーす」
「なに言ってるの!? 但馬と元木が運動部なら私と菱川だけが文化部で他6人が運動部でいいでしょう!?」
「そうですよね〜」
「それじゃバランス悪いから却下!」
いつまで続くんだこれは……。
そんなに食べたいなら文化部担当·運動部担当関係なく、全員分作ってもらえばいいだけじゃないのか?
その後自分も加わり話し合った結果、次回の見回りは以下の組み合わせに決まった。
運動部→古賀先輩·但馬先輩·美冬先輩·隈坂先輩·茜
文化部→越後先輩·秋陽菜先輩·元木
そして事前に料理部にお願いし、見回り当日に文化祭で生徒が作ると決まったお菓子を料理部員に8人分用意してもらう。ただ8人分といっても自分と但馬先輩の分は越後先輩と秋陽菜先輩に譲る。これが全員の落とし所だった。
話し合い中、今回食べなかった自分たちだけが次回食べるのは他の4人が納得せず、全員が同じ量を食べるのは越後先輩と秋陽菜先輩が納得できないと言い出した。そして全員が食べられて、かつ越後先輩と秋陽菜先輩の分を多く作ってもらう案も4人は納得しなかった。
ということで甘い物が別に好きではない但馬先輩と自分の分を2人にあげるのはどうか? と提案すると、それが採用された。これなら同じチームだったペア相手に譲るのだから4人は文句を言えず、越後先輩と秋陽菜先輩も多く食べられるので悪い気はしない。
そして見回りの組み合わせも運動部担当に向いている但馬先輩以外は今回と逆にするという結果に落ち着いた。秋であれば運動部の見回りが暑くてしんどいということもないので、そこはあまり揉めずに済んだ。
本音を言うと美冬先輩と同じ運動部担当になりたかったのだが、この状況で文化部担当を拒否して再び揉め始められても困るので諦めた。




